絶版車は「時間軸をさかのぼるタイムマシン」としての機能も持ち合わせている。
もちろん、絶版車に乗ったからといって本当に自らの肉体が過去へと移送されるわけではない。だが自分の幼少期あるいは青春時代を彩った名車に乗ってみると、精神の一部は即座に「その時代」へとタイムリープしてしまうものだ。
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そして実際には知るはずもない時代の車──たとえば筆者の場合でいえば1960年代の車──に乗っても、脳裏には「当時の町並みや人々の暮らしぶり」などが詳細に浮かんでくる。
後者については単なる錯覚あるいは記憶の捏造である可能性も高いが、とにかく「絶版名車とは疑似的なタイムマシンである」ということは、ある程度断言したい。
だが実際のタイムマシンがそうである(?)のと同様に、絶版名車という名の擬似的タイムマシンは決して安価ではなく、整備その他の手間もかかるものだ。
一例だが1960年代のポルシェ911を買うとなれば車両価格で1500万円付近が最低ラインであり、もう少し安価な70年代製にするにしてもおおむね1000万円は下らない。そしてもちろん、メンテナンスにかかる手間は現代の911の比ではない。
それゆえ本当の時間旅行(?)と同様に(?)、車を用いた擬似的な時間旅行も、そうそう簡単に行えるものではない。
だが「W124」ならば快適で上質な旅を、決して安いわけではないがリーズナブルな予算にて楽しめるのかも──とは思う。
カーマニアたちがW124と型番で呼ぶ車。それは、メルセデス・ベンツが1985年から1995年まで製造販売していたミディアムサイズのサルーンのことである。最新型Eクラスの、人間でいう高祖父(ひいひいじいちゃん)に相当する存在だ。
W124とはどんな車かということを端的に述べるなら、「メルセデスが“最善か無か(Das Beste oder nichts=The Best or nothing)”を地で行っていた時代の最後の1台」ということになるだろう。
今でこそ一般ファミリー層も大切な顧客とみなしてAクラス、Bクラスなどを作っているメルセデス ベンツだが、往年の彼らは一般ファミリー層など眼中になかった。「良いモノに対してならカネは惜しまない」と考える層だけを相手に、メルセデスがDas Beste(The Best)と考える、極めて上質なサルーンまたはスポーツカーだけを提供するマニュファクチャラーだったのだ。
だがそんなメルセデスもさすがに経済のグローバル化には勝てず、90年代半ば頃からは、いわゆる生産性と利益率もある程度重視するようになった。
その結果として「最善か無か(最善のモノを作れないなら、いっそ何も作らないほうがマシである)」との強気な看板は一度引っ込め、マニアからするとやや中途半端にも見えるサルーンを量産した。そして前述のAクラス、Bクラスなども大衆向けに作り始めた。
W124とは、メルセデスがそうなってしまう直前に作られた、多少大げさに言うなら「最後のリアル・メルセデス」なのだ。
もちろん、筆者などより断然マニアックな人々に言わせれば「W124もすでにメルセデスの堕落が始まった時期の作だ。本当のメルセデスと呼べるのはせいぜい70年代までのモノである」ということになっている。
そういった意見の正しさもわかるつもりだが、同時に「それってちょっとマニアックすぎるでしょ!」とも思う。
コストを(ある程度)度外視して作られた内装調度品の、王侯貴族向けではなくあくまで実用向けに作られたサルーンとしてはあまりに気高い質感と精密さ。「リサーキュレーティングボール式」という、その後のメルセデスが採用したコストコンシャスな方式のステアリングとはまるで異なるスウィートな操舵感覚。
そういったW124の諸々を一度でも体感すれば、筆者が言っていることが即座におわかりいただけることは間違いない。「なるほど。細かいことは知らないが、こりゃ最近の車とは何もかもが違うな!」と、直観としてわかるのだ。伝わってくるのだ。
W124の運転感覚は「鷹揚」という言葉で表現できると考えている。
この時代のメルセデスも決してコストのことを考えていなかったわけではあるまい。だが今より圧倒的に縛りがきつくない時代だったからこそ採用できたオーバークオリティ(過剰品質)な各部の集積がもたらす、きわめてゆったりしているのだが、同時に異常に精緻でもある乗り味。もちろん大切なことではあるのだが、同時に「ちょっと過剰では?」とも思える電子制御の介入がなかった時代だからこそ生まれた、車そのものの素性で勝負するタイプの安全性。
それらは皆、ビジーすぎる2019年の先進諸国ではなかなか味わえない類の魅力であり、失われた「鷹揚」である。その字義どおり、まるで鷹が悠々と大空を飛んでいるかのような余裕と上品さを感じる──ということだ。
そのような鷹揚世界、つまりW124が現役だった1980年代から90年代初頭付近への「時間旅行」を楽しむためのコストは、いかほどになるのだろうか?
まず、ここでの写真に使われている500E(またはE500)という5リッターのV8エンジンを搭載したスペシャルモデルは、正直なかなかお高い。まぁ安い個体は安いのだが、良質なものを探すとなると「600万~1000万円超」がひとつの目安になるだろう。だが素晴らしいモンスターセダンであることは間違いないので、お大尽各位はぜひコレを狙っていただきたいものだ。
500E/E500ではなく一般的な3リッター級エンジンを積んだグレードは100万~150万円付近となかなか手頃。だが最終型でも24年前の車であるため、それに加えて50万~100万円程度の整備予算はいちおう勘定に加えておいたほうがいいだろう(これは500E/E500においても同様だが)。
いずれにせよ一切の奇をてらっていないシンプルな造形と併せ、すべてが何かとビジーな2019年だからこそ、W124の全体にわたるおっとりとした鷹揚っぷりは光り輝く。最善か無かならぬ「最新か無か」的にせわしない社会的徒競走にうんざりしたとき、ぜひ注目してほしい1台だ。
■取材協力
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