3月25~26日に静岡県の富士スピードウェイで開催されている公式テストを経て、2023年のスーパーGTは4月15~16日に岡山国際サーキットで第1戦を迎えることになる。このレースでデビューを飾れば初めての中国本土出身のスーパーGTドライバーとなるのが、PACIFIC ぶいすぽっ NAC AMGのリアン・ジャトンだ。今まで日本ではあまり馴染みがない名ではあるが、どんなキャリアを歩んできたのかを聞いた。
2023年、新たに『ぶいすぽっ!』とコラボレーションし、メルセデスAMG GT3に車両をスイッチして臨むPACIFIC RACING TEAM。ドライバーとしては、ベテランの阪口良平、Cドライバーに川端伸太朗、そしてBドライバーに起用されたのがリアン・ジャトンだ。
PACIFIC RACING TEAMがVTuberグループ『ぶいすぽっ!』とタイアップ。体制も一新
これまで、JGTC全日本GT選手権/スーパーGTでは、数多くの中国系のドライバーが挑戦してきた。1996年にTEAM TAISAN Jr.から参戦したアドリアン・フー、2002年にAMPREX MOTORSPORTSから参戦したチャールズ・クワン、2008年にARKTECHからスポット参戦したポール・イップ、2012年にHitotsuyama Racingから参戦したフランク・ユー、2019年にX Worksから参戦したマーチー・リー、ショーン・トンなどが挙げられる。
ただ彼らはいずれも香港のドライバー。スポーツ界では香港は中華人民共和国とは別のエントリーで扱われることが多く、スーパーGTでも国籍は『香港』となっている。今季、ジャトンの参戦が実現したときには、長い歴史のなかで初めて『中国』という国籍で出走するドライバーとなる。
■三度目のチャンスで掴んだスーパーGT参戦
「僕は北京で生まれたんだ。子どもの頃に友だちと遊びでカートに乗る機会があって、もともとF1をはじめモータースポーツが大好きだったから、カートに熱中するようになった。そこからプロフェッショナルドライバーを目指したんだ」とジャトンはモータースポーツを始めたきっかけを語った。
12歳からカートで腕を磨いた後、18歳でアジアン・フォーミュラ・ルノーに挑戦。2016年に渡欧し、ユーロフォーミュラ・オープンに挑戦。さらに、ランボルギーニ・スーパートロフェオ・ヨーロッパにも参戦し、2年目の2017年にはプロ-アマクラスのチャンピオンを獲得した。
そんなキャリアを歩みながら、なぜスーパーGTに参戦することになったのか。これについてジャトンは「スーパーGTのことは若い頃から知っていたけれど、正直に言うとそこまで深く調べていたわけではなかったんだ。でも、スーパーGTについて興味を高めるきっかけがふたつあった」と言う。
「スーパートロフェオでチャンピオンを獲って、ランボルギーニのジュニアドライバーとして、2018~19年にイタリアGTをはじめいくつかのGT3レースに参戦することができたんだけど、そこでチームメイトだったのがマルコ・マペッリだった。彼はJLOCからスーパーGTに出場していたよね」
「マペッリは僕にアジアやスーパーGTでの経験を教えてくれたんだけど、ヨーロッパで戦うこととともに、アジアのドライバーとして、スーパーGTのようなプロフェッショナルなシリーズで戦うべきだと勧めてくれた。ただ、その時はランボルギーニとの契約もあったし、うまくいかなかった」
そして、もうひとつのチャンスが2019~20年にアジアチームとして参戦していたX Worksからのもの。チームからスーパーGT参戦の誘いがあったというが、コロナ禍もあり実現には至らず、さまざまな事情でX Worksの参戦自体がなくなってしまった。ただその後もジャトンはコロナ禍が明けるチャンスをうかがい、“三度目のチャンス”でPACIFIC RACING TEAMとの契約を勝ちとった。ちなみに岡山、富士のテストと2022年まで同チームで走っていたケイ・コッツォリーノが以前からジャトンと関係があり、連絡を受けたコッツォリーノがチームを紹介したのが今回の加入のきっかけだ。岡山、富士とコッツォリーノはジャトンの頼もしいアドバイザーを務めている。
■スーパーGT参戦へ向けた好環境
こうしてかねてから目標としていたスーパーGT参戦に結びつけたジャトン。岡山公式テストでは初めてのコース、タイヤ、そしてチームと初めて尽くしながら、見事にルーキーテストも合格してみせた。
「岡山はスーパーGTというものを試す素晴らしい機会になったと思っているよ。日本でのレース、言葉の壁、さらに文化の違いと僕が体験したことがないことばかりだったし、何よりタイヤコンペティションがある環境は初めてだったからね」とジャトンは岡山の感想を語った。
「今までのレースキャリアでこれだけ初めての内容が多かったことはないけれど、少しずつ慣れることができたし、チームとの距離も縮まった。岡山では良いシーズンを送ることができる手ごたえを掴むことができたよ」
そして、今季のPACIFIC RACING TEAMの環境はジャトンにとっても理想的なようだ。「(阪口)良平さんという、スーパーGTの経験が非常に豊富なドライバーと組めることに、チームに本当に感謝しているんだ」とジャトン。
「過去に、ランボルギーニではラファエル・ジャンマリアという大ベテランと組み、自分のスキルアップのために多くのことを学ぶことができた。だから、ベテランと組むありがたみは分かっているんだ」
「それにチームも長年スーパーGTに参戦しているし、すごく僕を温かく迎えてくれて、良くしてくれている。上野一博チーム監督、田邊宏昭エンジニアをはじめ、みんなが僕をサポートしてくれているので、感謝しているよ」
第1戦岡山に出場を果たせば、ジャトンは初の中国国籍のドライバーとして参戦することになる。「僕のことをフォローしてくれた人には感謝している。ベストを尽くしたいと思っているので、ぜひ応援して欲しいね!」とジャトンは今季に向けて意気込みを語った。ちなみに、中国ではイングリッシュネームが広く使われているが、ジャトンはぜひ『アレックス』と声をかけて欲しいとのことだ。
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