吉田秀樹が描いたモノとは
text&photo:Kunio Okada(岡田邦夫)
【画像】追悼 吉田秀樹 アウトガレリア・ルーチェ企画展【写真レポート】 全29枚
photo:Makoto Hiroi(廣井 誠)
20世紀の芸術家は、機械そのものに美を見出した。マルセル・デュシャンは「現代では飛行機のプロペラよりも美しい芸術は創造できない」と気がついて、思考で楽しむコンセプチュアル・アートを創始した。ここから現代美術が始まった。
キュービズムの画家アンドレ・ドランが「どんな芸術作品よりも、ブガッティは美しい」と述べると、マン・レイが深く頷いた。機械をテーマにして描いた画家には、イタリア未来派やフランシス・ピカビアがいたが、しかし、彼らによって描かれた機械よりも、設計図面や機械その物の方が純粋で美しいことは明らかだ。
いざ機械を表現しようとしても実物を超える美しさに到達した芸術作品はないのである。また、自動車を被写体として描く画家も少なくないが、たいていは自動車そのものに比べたら、魅力がないものだ。
ところが吉田秀樹の作品は、いささか事情が違って、時に現実の自動車よりも美しく、蠱惑的に見える。何かこの世のものではないかのような、際立った印象さえ受ける。なぜだろう。
それは、自動車そのものを描こうとしていないからではないだろうか。実際に、彼が描くのはモノではない。彼の絵筆が露わにするのは、3次元の立体の平面的表現ではなく、まったく厚みのない表面に漂う光そのものである。
うつろいゆく光の、その、たまゆらを描いている。それは静謐で、崇高ですらある。だから、彼の作品はリアリズムでないことは、言うまでもない。現実のモノであることを超えて、永遠のイデアとして定着されている。
1971年 パリへ
吉田秀樹は、1949(昭和24)年11月22日に、京都の洋装の染色図案家の家に生まれ、小学生の頃には、家業の関係で欧米から送られてくるモード雑誌を開いては、そこに写っている美しいモデルたちの背景になっている自動車に憧れた。
自動車デザイナーになりたいと思っていたが、家業を継ぐために藤川服飾学院(現・京都造形大学)で、テキスタイルの勉強をした。もちろん、クルマに夢中だったから、在学中から姉のファミリア・スポーツを乗り回し、やがて自分用にホンダS800も買ってもらった。
1971年に憧れのパリ留学を果たした。名門エコーレ・ド・モード“ESMOD”に入学し、卒業後はパリやミラノのデザイン会社でテキスタイル・デザイナーとして働いた。高田賢三の仕事を助けたこともあった。1972年には、初めてル・マン24時間レースも見に行った。
子供の頃の自動車デザイナーになる夢は捨てていたが、憧れの自動車の絵は描き続けていた。それを或るブティックのディスプレイとして飾ったら、すぐに買い手が現れたのだった。
ちょうどその頃、マーク・ニコロジさんが、レトロモビルというクラシックカーのイベントを始めた。吉田さんは第3回目の1978年からレトロモビルでの展示を始めたが、著名な愛好家たちが吉田さんの作品に注目して、作品を購入するではないか。
パリという芸術の本場だからこそ、ちゃんとコニサー(目利き)たちに評価された。
ナルディ、ボーグも
年を追うごとに吉田さんの顧客は増えていき、それに相俟ってフランスを始めとするヨーロッパのコレクターたちとの交流も始まった。
クラブ・フェラーリ・フランスが主催するイベントにも招待されるようになり、クラシックカーやフェラーリの様々なイベントのポスターも手がけるようになった。
自動車史に名を残す特別なクルマ達にも実際に触れる機会が多くなり、吉田さんの世界は広がっていった。
フェラーリやアルファ・ロメオのステアリング・ホイールのメーカーとして著名なブランドであるナルディは、吉田さんの作品を起用して豪華なカレンダーを制作。
また歴史あるファッション誌ボーグが高級自動車雑誌である“Auto in VOGUE”を創刊すると、毎号吉田さんの作品を掲載した。
クルマと輝いた生涯
1970年に初めてヨーロッパを旅行し、1971年から2019年までの長きに渡ってパリを中心に活動した吉田さんは、自動車が最も美しく輝くことができた最後の時代に、いっしょに輝くことができた幸福なエンスージァストだったと思われる。
しかし、作品の創造は大変なことで、吉田さんは画室に長時間こもって、集中して精緻で透明感のある作品を描き続けた。丹精込められた作品ゆえに、肉体の疲労も並大抵ではなかったのだろう。惜しくも2019年9月に早過ぎる逝去となった。
今、吉田さんは中部フランスのとある村に眠っている。吉田さんは、人生の大半を過ごしてきたフランスで永遠に過ごすことを選んだ。
アウトガレリア ルーチェの活動は、吉田秀樹さんの企画展から始まった。17年前のことである。それ以来、年3回の企画展を催し、今回で47回目だが、アウトガレリア ルーチェの活動も、今回の追悼展で1つの円環を閉じたような感慨がある。
この「追悼 吉田秀樹展」は5月10日まで開催されているので、吉田秀樹氏のファンにとっては見逃せまい。
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