1963年に誕生して以来、ポルシェ911はいつの時代も第一線のスポーツカーであり続けている。そして、なぜこれほどまでに愛されてきたのか?空冷911を愛する「N.ハリウッド」の尾花大輔が、タイプ992と呼ばれる最新モデルに試乗。最新の911は、彼に何を訴えたか。
We Love Porsche 911HIROSHI KUTOMI劇的に進化した性能と、頑なに変えないこだわり
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最新のポルシェ911カレラ4Sを1週間にわたって試乗したN.ハリウッドのデザイナー、尾花大輔さんは、「僕の(タイプ)964とは別次元だったので、ちょっとおもしろかったですね」と切り出した。タイプ964とはポルシェ911の開発コード。ポルシェ911は世代によって性格が異なるので、〝通〟は開発コードで呼ぶのだ。ちなみに初代から数えて8代目となる最新モデルは、タイプ992と呼ばれる。尾花さんは続ける。
「僕の964は空冷のNA(自然吸気)エンジンで、後輪駆動のカレラ2。試乗したのは水冷のターボエンジンで4駆のカレラ4Sなんですけど、驚くほど印象が違いました」
ここで最新モデルの感想を訊く前に、尾花さんの〝911愛〟を語っていただこう。
「911ってだれでも憧れると思うんです。だけどなぜか僕は、40歳を過ぎてからじゃないと似合わないな、と思ったんです。それで若い頃にはマセラティ3200GTとかに乗って、40歳になったあたりから911を探し始めました。どのタイプにしようか2年ぐらい考えたんですけど空冷(エンジン)ということは決めていて。ファッション業界のポルシェの師匠と出会って、自分が望むスタイルとパフォーマンスは964のカレ2(カレラ2)とわかって探し始めてからは早かったですね。半年ぐらいで見つかりました」
こうして3年前に、1992年型のポルシェ911カレラ2(タイプ964)が尾花さんのもとにやって来た。
「納車された日にはポルシェの師匠とC1(首都高速都心環状線)に行って、ベタですけど大黒パーキングまで往復しました」
といった具合に空冷エンジンのタイプ964との蜜月を送る尾花さんは、最新のタイプ992をどう見るのか。
「まず乗り心地が劇的に快適ですね。あと、びっくりするほど静かです。雨の日に高速道路の料金所でちょっと踏んでみたんですけれど、電子制御のコントロールで何事もなかったように加速しました。これが技術の進歩なのか、すげぇなと感心しました」
ただし、感心こそしたけれど、自分の964と取り替えたいとは思わなかったという。このあたりが、趣味のクルマのおもしろいところだ。タイプ992よりも遅くて、うるさくて、不安定なタイプ964のほうが、尾花さんにはしっくりくるのだという。
HIROSHI KUTOMI「なぜなんでしょうね……。964のほうがコンパクトだし刺激があるから、運転をしているっていう気になるのかな。去年、自分の964で東京から名古屋まで打ち合わせに行ったことがあるんです。あのときはヘトヘトになって、ああいう使い方だったら最新モデルのほうがいいんでしょうけれど、911を2台持つわけにもいかないですから」
クルマ好きの間で知られている〝最新のポルシェが最善のポルシェ〟という格言めいたものも、尾花さんはもちろんご存じだ。
HIROSHI KUTOMI「ポルシェ仲間でも、新しいタイプ991(2019年まで生産)に乗り換えて楽しんでいる人もいるので、古い、新しいは好みの問題としか言いようがないですね。ただ964に比べて25cm以上長くなっているのに、運転席に座った時のタイト感、クルマをまとう感覚は変わっていません。ドライバーの正面にアナログのタコメーターがくるインパネも同じ。911ってお尻の形が大事だと思うんですけれど、リアのフェンダーのラインもキープしていますね」
尾花さんの話を聞きながら、ポルシェ911は深い、としみじみ感じた。
HIROSHI KUTOMIいまでこそスポーツカーのメートル原器と呼ばれるポルシェ911であるけれど、かつては「wrong end」、すなわち「エンジン載せる位置、間違ってんじゃん」と揶揄されることもあった。ボディ後端に重たいエンジンを積むので、一度お尻が流れるとコントロールが難しかったからだ。技術者たちはその弱点をコツコツと改善してきた。
で、古ければ古いほど弱点が顕著だから、不完全な機械を手なずける楽しみがある。対して、弱点をほぼ克服した最新モデルは、完璧な機械にふれる感動がある。
尾花さんは言う。
「古い空冷から入門して最新モデルに至る人もいれば、最新モデルから古いほうへと遡る人もいるでしょうね。かなり違います」
いずれにせよ、最新型と何十年も前のモデルをまともに比べようと思えるクルマは、世界中を探してもポルシェ911だけだ。真に偉大なスポーツカーなのだ。
HIROSHI KUTOMIPorsche 911 Carrera 4S現行型のタイプ992がデビューしたのは2018年11月のロサンゼルスモーターショー。911のデビューから55年目のことだった。モデルチェンジにあたっての眼目は、速さの追求とデジタル化。速さについては、ボディを軽くすることと、エンジンのパワーアップで実現。デジタル化は、ダッシュボード中央に10.9インチのタッチパネルを設置して最新のインターフェイスとした。
SPEC
全長×全幅×全高:4519×1852×1300mm
ホイールベース:2450mm
車両重量:1565kg
乗車定員:4名 ¥18,048,148
尾花大輔
N.ハリウッドデザイナー
1974年、神奈川県生まれ。高校時代に古着屋でのアルバイトからキャリアをスタート。2000年にショップ「ミスターハリウッド」オープン、翌01年にはブランド「N.ハリウッド」設立。02年よりコレクションを発表、10年にはニューヨークへ進出した。クルマ好きとしても知られる。
Photos 久富裕史 Hiroshi Kutomi@N°2
Words サトータケシ Takeshi Sato
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みんなのコメント
ポルシェじゃなくて、新しいポルシェが好きな人は買うでしょうね。
でもすぐ飽きるんちゃうかな?
優等生すぎて。