■飯田裕子の車快の窓
2024年3月30日、東京都江東区有明の東京ビッグサイト周辺で電気自動車レースの最高峰「ABB FIAフォーミュラE世界選手権第5戦」が開催された。2014年に始まったこのレースはF1やWRC(世界ラリー選手権)、WEC(世界耐久選手権)と同じFIA(国際自動車連盟)が主催する世界選手権のひとつで、今年10年目を迎えた。
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日本初開催となった東京大会では、11チーム、22台がエントリーし、マセラティMSGレーシングのマキシミリアン・ギュンターが優勝した。母国開催となった日産は、先の2レースで表彰台に上がっていたため優勝への期待が高まっていたが、ポールポジションからスタートしたドライバーのオリバー・ローランドがレース終了のギリギリまでギュンターとの接戦の末、2位に終わった。しかし、会場は盛り上がったことは言うまでもなく、今季のシリーズ優勝への期待が高まったことは間違いない。このレースには他にもポルシェ、ジャガー、マクラーレン、日本ではなじみの薄いマヒンドラ(インド)、クプラ(VWグループの「セアト(スペイン)」のハイブランド)なども参戦している。
レースの会場は、パリ、ロンドン、ローマ、北京、香港、ニューヨーク、モントリオールやブエノスアイレスなど、各国の都市部や常設のサーキットで開催されてきた。元々のコンセプトは、気候変動対策や脱炭素社会に向けて電気自動車の可能性を広め、それを知る機会をそれまでモータースポーツにあまり興味のなかった人たちにも目を向けてもらうというところにある。走行中でも排気ガスを出さない、爆音で走らない電動マシンだからこそ、市街地でレースを開催できるというメリットもこのレースの特徴だ。
主観ではあるが、たった1日(時に2日間で2レースの時もある)のために、街中に本格的なコースが出現するなんて大変なことだと思った。過去にも取材経験があるが、カナダのモントリオールで「地下鉄の駅を上がるとそこはもうレース会場」という衝撃的な体験や、香港では二階建てバスで観光ガイドブックに載るような、街中を眺めながら会場に向かったことがある。カナダではメインストレート前に住宅(低層マンション)が建ち並び、「フォーミュラEは迷惑!」と貼り紙をして窓を閉ざす家もあれば、その隣ではテラスでビールを片手に自宅の庭で観戦を楽しむ人たちもいた。
香港ではコースが大きなガラス張りのデパートにも隣接していて、お店の中や屋上からのぞく人もいれば、我関せずとショッピングをする人たちももちろんいた。いろんな意見はきっとどこにでもあるだろうけれど、私は「街中でフォーミュラマシンがレースをするなんて面白い」とその新しさにワクワクした。そんな大会がいよいよ日本でも開催されたのだ。新橋からゆりかもめ、品川にほど近い大崎からりんかい線で約20分で国際レース観戦を楽しめるなんてあまりに画期的だ。
フォーミュラEが開催される真の目的
じつは電気自動車のレースには「技術開発」という目的があり、その延長に市販車へのフィードバックというゴールが用意されている。マシンは、昨年から第3世代へと進化し、トータル出力は350kw(約477馬力)、回生エネルギーは最大600kw(約815馬力)と定められている。ちなみに最高速度は320km/hだ。目に見える進化と言うと、例えば、第1世代では1レース分のバッテリー充電量が搭載できず、途中でピットに戻ってマシンを乗り換えるという策を講じていたが、第2世代から1回の充電で走り切れるようになった。
フォーミュラEでは、各チームのマシンは多くの部品=シャシーやバッテリー容量、電動のフロントドライブユニット(モーターやインバター、ディファレンシャル、トランスミッションを統合したもの)、タイヤなどが共通となっている。一方で、各チームが独自で開発を進められるのが、リヤのモーターやサスペンション、インバーター、ギヤボックス、48ボルトバッテリーで行なう冷却システムだそうだ。
このようなレギュレーションの下で、各チームにはただ速く走るだけではなく、エネルギー効率の研究や開発、いわゆる電費のマネージメント力が求められる。レース中、ずっと全開走行をしてしまうとバッテリーが持たないのだ。理想は1位でゴールし、バッテリー残量が限りなく0%に近い状態だ。また、レースのルールとして「アタックモード(レース中、通常は300kwの出力制限がかかっているが、これに50kwを追加し350kwで走行できる時間が設けられている)を使わなければいけないという決まりがある。
「ここぞ」という時に使える、頼もしいモードではあるが、これを使うためにはコースの一部、決められたエリアを通過する必要がある。これが理想の走行ラインの外側に外れるようなエリアに設けられているからタイムロス、ポジションダウンにもつながりかねない。ちなみに市街地コースは、常設のサーキットと違いドライバーたちは、皆初めてのコースを走ることになるが、事前にコース情報(データ)が伝えられ、シミュレーターで練習をするらしい。また、今回のレースで優勝したマセラティチームによると、現地にやってくるスタッフは30名ほどだが、開発拠点のあるモナコのサテライトチームとつながっていてレース中のマシンのデータ分析などをリアルタイムで行なっているそうだ。ちなみにサテライトチームの存在は現代の大きなレースでは珍しいことではないが、技術の進化はコース上を走るマシンのみならず、なのである。
レースは前述のとおり、マセラティのギュンターが優勝。最終ラップまで熾烈な戦いが繰り広げられ、勝者ギュンター(マセラティ)のバッテリー残量は0.1%、2位ローランド(日産)は残量0%だった。補足だが参戦2年目、初参戦となった昨シリーズで6位と堅調なスタートを切ったマセラティも2030年の市販車フル電動化に向けて段階的にピュアEVモデルの投入が計画され、2022年にフルモデルチェンジを行なった新型の「グランツーリズモ」から登場する。
都心ならではの斬新な演出
フォーミュラEの市街地レースは、コース幅も狭く、常設のサーキットと違い観戦席とコースの距離も近い。まさに目の前で繰り広げられるレースが楽しめる。また大型スクリーンも各所に設置され、レース展開を確認しながら、また時折、全車のバッテリー残量なども紹介され、場内実況とともにリアルと自宅のテレビの両方で観戦できるような会場づくりもよく考えられていると思った。
エンジンを搭載するマシンの競争と違い、モーターのキーン、キーンという音やタイヤの摩擦音が聞こえる程度だからこそというべきか、はたまたドライバー(マシン)たちとの距離の近さもあってか、これまでのレース観戦とも少し異なる生々しさやライブ感が実に面白い。クラッシュ音も際立って聞こえる。
観客の一喜一憂する声は、小さな声援も日産への大声援もよく聞こえるし、レースを一層盛り上げていた。また段階的に順位を決めていく予選方法も決勝レースが1時間があっという間(特に今回は後半の見どころが濃くて)に過ぎ去っていくところも都心でレース観戦を気軽に楽しむというコンセプトに合っていると思う。
気軽に楽しむという点では会場の拠点となった東京ビッグサイトへの入場は無料だった。観戦スタンドでの観戦はチケットが必要だ、が屋内に設けられた「ファンビレッジ」エリアではスクリーンで観戦することができ、ここで表彰式も行なわれた。そのステージでは朝から音楽ライブなども開催され、飲食店も並び、さまざまな展示やキッズ向けに電動カート場も特設されていた。表彰式。初開催となった東京大会でもステージ前には多くの来場者が集まり、その間をドライバーたちはハイタッチをしながら通過していく。実際に訪れた他国でのレースやTVで国際映像で見る観客がドライバーを称えるこのシーンも好きな私としては日本初開催も成功したのかな、と思える瞬間だった。
フォーミュラEは今年9か国で16戦が行なわれる。ポイントランキングは、チームでは1位がジャガー、2位がポルシェ、3位が日産。今回2位に立ったオリバー・ローランドは現時点でのドライバーズポイントで3位にいる。今後の10戦も注目しながら来年の東京開催を楽しみに待ちたい。
■関連情報
https://www.fiaformulae.com/ja/calendar/2023-24/r5-tokyo
文/飯田裕子(モータージャーナリスト)
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みんなのコメント
そこは確かに想像以上だ。