2021年F1第8戦シュタイアーマルクGPの決勝は、レースの折り返しを迎える前に上位勢が続々とピットインし、ここでタイヤ交換時のミスによりセルジオ・ペレスとバルテリ・ボッタスの順位が入れ替わった。さらに後方では角田裕毅がフェルナンド・アロンソを追いかける展開に。シュタイアーマルクGP後半の様子を無線とともに振り返る。
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【F1第8戦無線レビュー(1)】「謝らなくていいよ。来週がある」無念のリタイアも、再起を誓ったラッセル
上位勢は26周目のセルジオ・ペレス(レッドブル・ホンダ)、角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)を皮切りに、次々にタイヤ交換へとピットに向かった。ペレスは左リヤタイヤの交換に手間取り4秒8のロス。27周目にピットインしたバルテリ・ボッタス(メルセデス)に先行され、4番手に後退してしまう。
28周目に2番手を走るルイス・ハミルトン(メルセデス)がピットイン。マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)がこれに反応して、次周にピットに向かった。2秒0でハードに履き替え、コース復帰しようとするフェルスタッペンに、ジャンピエロ・ランビアーゼがハミルトンの位置を伝える。
ランビアーゼ:ストラット8、トルク9、ハミルトンはまだターン10だ
フェルスタッペンは首位のままコース復帰に成功。ハードでの1周目を終え、ハミルトンとのギャップは4秒4だ。
ランビアーゼ:いい感じでタイヤを労ってる。でも長いスティントになるぞ
この時点で、チェッカーまで41周の周回が待っていた。するとその数周後、フェルスタッペンが不具合を訴えた。
フェルスタッペン:BBWがおかしい
ランビアーゼ:わかった、マックス。見てみよう
BBWとはブレーキ・バイ・ワイヤのことだが、この場合はリヤブレーキの回生エネルギーと本来のブレーキ制動力の配分を意味する。フェルスタッペンはリヤブレーキのフィーリングに違和感を覚えているのだろう。
ペレスと同じ26周目にピットインした角田は、9番手から13番手に後退。それまで背後で抑えていたカルロス・サインツ(フェラーリ)はそのまま周回を続け、ペースを上げている。このままだとオーバーカットされてしまう。32周目、マティア・スピニから指示が飛んだ。
スピニ:ユウキ、9秒9までペースを上げろ。今は10秒1だ
角田:サインツはどこだ
スピニ:サイド・バイ・サイドだ
しかし角田のペースは、なかなか1分10秒台を切ることができない。同じタイミングでサインツは、リカルド・アダミとこんなやり取りをしていた。
アダミ:今のペースで、あとどれくらい引っ張れると思う?
サインツ:少なくとも5周はいけるよ
結局41周目まで引っ張ったサインツはその間にリードを広げ、角田のふたつ前、7番手でコース復帰した。
スタート直後の接触事故で18番手まで後退したシャルル・ルクレール(フェラーリ)は、そこから猛然と追い上げ、36周目には8番手まで這い上がった。しかしプッシュし続けたことで、ブレーキにかなりの負荷がかかっていた。
マルコス・パドロス:ブレーキ温度が上がってる。リフト&コーストが必要だ
ルクレール:できるだけのことはするよ
パドロス:了解だ。いい仕事をしているぞ
リフト&コーストはスロットルをオフにして、惰性で走らせる状態を指す。燃費が厳しい時にコーナー進入の際に使われることが多い。しかしこのルクレールのように、ブレーキ温度を下げる目的でも使用される。
予選13番手と苦戦したダニエル・リカルド(マクラーレン)は、スタートタイヤにミディアムを選択。41周目まで引っ張り、7番手まで順位を上げたところでピットインの指示がきた。ところが……。
トム・スタラード:ダレン、いや、ダニエル、ボックスだ
担当エンジニアのトム・スタラードが、リカルドに「ダレン」と呼びかけてしまう。ちなみにスタラードは第4戦スペインGPの時には、「カルロス」と呼び間違えている(去年までサインツを担当していた)。しかしリカルドは、少しも慌てない。
リカルド:ダレン、了解した。ピットインするよ
「きみがダレンと呼びたいのなら、僕はかまわないよ」という太っ腹な感じなのだろう。それにしてもダレンって、いったい誰?
中盤38周目の時点で10番手走行中の角田に、スピニから指示が飛んだ。
スピニ:OK、ユウキ、プッシュして行こう。もうワンステップ、タイヤを使おう。タイヤの状態はいい。サインツを振り切ろう。プッシュだ!
角田:やってるよ! 見てくれ! 前のアロンソが邪魔してる。ひどい乱流なんだ!
スピニ:了解した
48周目にはターン3でアロンソのインに飛び込もうとしたが、ブロックされてしまう。
角田:うわ、危ない! ブレーキングゾーンで動きやがった
スピニ:わかった。もう1回トライしよう
しかしそのままアロンソを抜くことはできず、猛追してきたルクレールへの必死の抵抗も虚しく55周目にかわされ、10番手でチェッカーを受けた。
レース終盤、リヤタイヤにひどいブリスターができたハミルトンは、一度は周回遅れにしたサインツを先行させるほどペースが落ちていた。フェルスタッペンに17秒以上の大差をつけられた69周目にソフトに履き替え、ファステストラップの1ポイント獲得に成功した。
フェルスタッペンは2位以下を大きく引き離す独走状態でチェッカーを受けた。
ランビアーゼ:完璧だ。それ以上他に言うことはないよ
フェルスタッペン:信じられない。今日のクルマは、まさに燃えまくってたね。運転していて、本当に楽しかった。ありがとう!
今日のクルマの素晴らしさを、フェルスタッペンは“The car was on fire today”と表現した。on fireは「火が付いている」「燃えている」という意味から、「素晴らしい」「完璧」と言いたい時に使われる。
クリスチャン・ホーナー:まったくもってクリニカルな、素晴らしい運転だったよ、マックス。このままプレッシャーをかけ続けよう
フェルスタッペン:ホームサーキットでまた勝てた。最高だ
clinicalは、もともと「臨床的な」という医学用語。「熟練した医師の手腕のようだ」と、ホーナー代表は称賛したかったのだろう。こういうちょっとクサイ形容詞を使う最近のホーナー代表は、ロン・デニス化しているのかもしれない。
対照的にフェルスタッペンは、ずっと素直に喜びを表現していた。2019年に初めてレッドブルリンクで勝ったものの、去年の2連戦は惨敗した。そのリベンジを、今回みごとに果たしたのだった。
そして完敗したハミルトン陣営。
ピーター・ボニントン:グッジョブ。ファステストも獲得できた。P2だけどね
ハミルトン:ベストを尽くしたよ。望んでいた結果じゃないけど、たくさんのポイントを獲れた
ボノ:その通りだ。プッシュし続けよう
フェラーリは、ノーポイントだった前戦フランスGPから一転、ダブル入賞を果たした。12番グリッドから6位まで順位を上げたことに、担当エンジニアのリカルド・アダミは大喜びだ。
アダミ:P6だ。素晴らしいレースだった。よくやった。Baby Shark~
サインツ:ははは。ありがとう。今回はレースペースもずっとよかった。みんなのおかげだ
Baby Sharkは数年前に世界中で大ヒットした童謡だが、アダミの歌は完全に調子っ外れで、サインツも苦笑するしかなかった。
一方、ルクレールはガスリーとの接触事故が、どうしても納得できない。
ルクレール:キャリアベストのレースのひとつだった。でも、ひどくガッカリもしてるよ。彼がどれくらい左に動いてきたのか、映像を見直したい。
今週末の2戦目も、同じレッドブルリンクでの開催だ。コース外ではとても仲の良いふたりだけに、コロナ対策でチーム外の接触制限さえなければ、いっしょに食事でもしながら事故の話をしたいところだろう。
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