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乗り味は意外やスポーティ志向──新型DS 4試乗記

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乗り味は意外やスポーティ志向──新型DS 4試乗記

DSブランドの新しいハッチバック「DS 4」を今尾直樹がテストドライブ。見ても乗ってもアヴァンギャルドだった!

セクシィなインテリア

愛車の履歴書──Vol9.吉田沙保里さん(後編)

う~む。このなまめかしさはパリの夜を思わせる。なんだか上がっちゃって、ボーッとする。ダッシュボードの造形がぬるんとしていて、エアコンの吹き出し口が見当たらない。これは、「DSエア」という新しいベンチレーション・システムを採用しているからだ。送風の上下を変えるスイッチはダッシュボードに並んだ銀色のスイッチの両端っこにある。右端が運転席用、左端が助手席だ。そのタッチも、油圧を使っているのか、ぬるりとしていて、キモ気持ちいい。こんなの初めてである。

「クル・ド・パリ」と呼ばれる精緻な文様が刻まれたクローム・パーツがセンター・コンソールほか随所で使われている。ピラミッドがいっぱい並んでいるようにも見える「クル・ド・パリ」は高級時計や宝飾品に用いられている装飾技法だ。

ダッシュボードのぬるんとした造形、シートの優雅な曲線を描くスティッチと相まって、アール・デコのようなセクシィな空間をつくり出している。「サヴォア・フェール(匠の技)」というDSブランドのコンセプトが、DS 4ではよりわかりやすく、より完成度を高めて、乗員に訴えてくる。

いきなり内装の話から書き始めてしまったけれど、このクルマのチャーム・ポイントはこのセクシィなインテリアにある、と私は思う。これほど個性的で、しかも魅力的な内装をもつクルマはいまどき珍しい。

自動車というのは「サヴォア・フェール」ではなく、大量生産することで世のなかに普及してきたのだから。

日本仕様の詳細

さる4月28日、昨年発表されたDSの第4のモデル、DS 4の日本仕様が発売となった。「リファインメント・エンジニアード」を掲げてのプレミアムCセグメント参入モデルで、パワーユニットには最近のプジョー、シトロエンでおなじみ、1.2リッター直3ガソリン、1.5リッター直4ディーゼル、さらに1.6リッター直4ガソリン+モーターのPHEVの設定がある。このうち、ディーゼルに試乗したので、その印象をお伝えしたい。

プラットフォームは新型プジョー「308」と共通の第3世代のEMP2(Efficient Modular Platform 2)で、2680mmのホイールベースも308と同一、全長×全幅×全高=4415×1830×1495mmのボディ・サイズもほぼおなじだ。DS 4は大きく見えるけれど、新型308より5mm短く、20mm幅が狭く、30mm高いだけなのだ。

ちなみにフォルクスワーゲン「ゴルフ」は4295×1790×1475mm、ホイールベース2620mmだから、DS 4と308の開発陣は「隣のクルマが小さく見えます作戦」をとったもの、と考えられる。

いや、そうではなくて、プレスリリースにいわく、「多くの競合車種よりも長くとることで、より一層流麗で彫刻的なプロポーションを強調」している。

内装に目を転じると、液晶メーター、ATのシフターの位置関係はシトロエン「C4」とおなじだ。目に見えない部分は共通化し、目に見える部分は大きく変えることによって、プレミアム・ブランドにふさわしい、よりラグジュアリーでモダン、退廃的とさえ言ってもいいムードを醸し出している。

「DSスマートタッチ」という名前の、センター・コンソールの5インチのパネルは、ダッシュボードの10インチ・スクリーンでよく使う機能を、手元で操作するためにある。ということだけれど、その5インチのスクリーンに浮かぶデジタルのピラミッドのような画像だけでもリュック・ベッソンのSF映画に出てきそうな未来感覚があって、インテリアの小物としてもステキに思える。

ボイスコントロール機能も備っており、「OK、アイリス」と呼びかけると、ナビゲーションの目的地やエアコンの温度設定などができる。試しに「僕のこと、どう思う?」と聞いてみたら、「あなたは1番ですよ」と言ってくれた。たいへんうれしかった。もう1回聞いてしまった。「あなたは1番ですよ」。アイリスとはギリシャ神話に登場する虹の女神に由来するという。天と地をつなぐメッセンジャーである。もう1回聞いてみよう。「あなたは1番ですよ」

余談ながら、DSとフランス語で「女神」を意味するDéesseとは同じ発音、というのは、DSブランドの祖先に位置づけられるシトロエン「DS」にまつわるウンチクのひとつで、だから「OK、デエス」とか「デエス、シルブプレ」でもよかったのでは……と思ったけれど、デエスでは音声認識がむずかしいのかも……。少なくともアイリスのほうが発音しやすいことは間違いない。つまり、筆者はデエスのウンチクを語りたかったのである。

サスペンションはフロントがストラット、リアがトーションビームという、FWD小型車の定番で、プレミアムなことに「DSアクティブスキャンサスペンション」を備えている。これはカメラで前方の路面をとらえて凸凹を識別し、4輪のダンピングを制御するもので、作動させるにはドライブ・モードで「コンフォート」を選ぶ必要がある。

意外なほどスポーティ志向

運転席に乗り込むと、Cセグメントと言っても全幅が1.8mを超える分、横方向にはゆとりがある。それこそ、ゴルフではなくて、メルセデス・ベンツ「Cクラス」のセグメントみたいに。

着座位置はやや高いけれど、足元は広く、スポーツカーっぽいドライビング・ポジションをとることができる。

「クル・ド・パリ」文様で周囲を飾られたスクウェアなスタートのボタンを押して、エンジンがかかると同時に、シートが自動的に電動で前に動く。高級車らしいおもてなしである。

1498ccの直列4気筒DOHCディーゼル・ターボは、最高出力130ps/3750rpmと最大トルク300Nm /1750rpmを発生する。豊富な中低速トルクと伸びのあるパワー感が身上で、トランスミッションはどのパワートレインも共通の8速ATである。

DS 4は車重が1470kgと、おなじディーゼルの新型308より50kgほど重い。その分、ファイナルのギア比を低く(大きく)している。おかげで、動力性能に特に不満はない。

と言ってもギア比は全体に高めで、ディーゼルはたいてい1500prm近辺、せいぜい2000rpm ぐらいで仕事をしている。それでもう十分。ふわりと速い。パワーユニットはフラットなヨーロッパ大陸を延々走るフランス車らしい仕立てなのだ。ガバチョを踏み込んではいけない。踏み込まなくても十分な加速が得られるし、エンジン音が高まって、このアヴァンギャルドな室内のイメージが崩れるだけだからだ。

乗り心地は、205/55R19という扁平率が穏健なタイヤ・サイズが選ばれていることから、シトロエンC4みたいにフワフワ系と思ったら、さにあらず。どちらかというとキビキビしたスポーティ志向である。筆者なんぞは往年のプジョー「205GTI」を思い浮かべてしまった。無闇に硬いわけではなくて、適度にしまっている。

ドライブ・モードにはスポーツ、オート、コンフォートの3つの設定が用意されており、スポーツを選ぶとギアが1段落ちる。100km/h巡航はトップで1750rpmあたり。

足まわりに関してはこの3つのモードにそれほどの差はない。あ。コンフォートにしないとDSアクティブスキャンサスペンションは作動しなかったのだ。ということに気づき、これを選べばフワフワになるかも……という期待を込めて切り替えてみたら、やっぱり、わりとスポーティだった。スポーツを選んでも、ちょっと硬くなる程度で、めちゃんこ硬くなるわけではない。

なんというか、イブニング・ドレスで登山靴を履いてグランド・ツーリングに出かけるのはちょっと……という感じなのである。このデザインに、この乗り心地であれば、パワーユニットは未試乗ながら、カンで申し上げると、1.6リッター・ガソリン+モーターのPHEVが1番似合うのではあるまいか。

いやでも、イブニング・ドレスにハイヒールではなくて、あえて登山靴みたいなのを合わせる、というのもオシャレかもしれない……。

とにかく20世紀初めのパリを思わせるような、シルビア・クリステルから滝川クリステルまで、似合いそうなセレブは次々に浮かんでくる。ココ・シャネル、大島渚、鹿島茂……。フランス文化を背景にした、じつに都会的な小型車であります。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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