今やBEVこそ本命と位置づけされる、プレミアムコンパクトカー。しかし、受け入れるには若干、抵抗があるのも確か。ここでは内燃エンジン車のミニとBEVのみで勝負するアバルトを比較して、その実情に迫る。
キャラだけでは決められない。BEV対ガソリン車の実情
【比較試乗】BEVとMパフォーマンスモデルが現る。どのパワートレインでも駆けぬける歓びを実現!「BMW iX2 xDrive30 M SPORT vs X2 M35i xDrive」
プレミアムコンパクトカーを代表するモデルといえば、ミニとアバルト。その人気は今さら説明不要なほど多くの人々に指示され、もはや自動車界のアイドル的存在だ。しかも、ミニは10年ぶりに刷新された4世代目へと進化し、従来の内燃エンジン車とBEVの双方をラインナップする。
一方のアバルトもベースモデルのフィアット500eに続いてBEVモデルのみリリースすることで、新世代を全面的にアピールしている。
これだけの人気を誇るプレミアムコンパクトカーだから、この両ブランドのどちらを手に入れようかと実際に悩んだ人は少なくないと察する。さらに次はBEVにするか否かも気になるはずだ。今回この企画では、単なる人気モノ対決というだけではなく、エンジン対BEVの実情を確かめようと、ミニはあえてガソリンエンジン車のクーパーSを選択し、最新のアバルト500eと比較して、見た目のやんちゃでカワイイスタイルに隠されたキャラクターだけでは収まらない、それぞれの本質を探ろうと試みることにした。
ただし……。初っ端から出鼻をくじようで恐縮だが、ミニは4代目といってもガソリンエンジン車は、3代目のシャシーをベースに若干の見直しを図った程度で、メインはあくまでもBEVモデル。それゆえに実際に試してみても大差ないという印象ではあったものの、街中では、走る・曲がる・止まるという基本が先代よりも洗練されているようで、特にブレーキの初期制動はだいぶ改善されたように感じられたのは事実。ちょっとクセのあった乗り味が扱いやすくなったのは◎である。
しかし、撮影のために訪れた箱根のワインディングを走らせてみると、相変わらずBMW産ミニが見せる一面が顕に……。3代目とさほど変わらないような、大径ホイール&扁平タイヤを履くFF特有の、リアリティの薄いハンドリングに変化は見られず、ミニ最大のウリ文句でもあるゴーカートモードにしても、あくまでもゴーカート的。決してカートのような機敏でリアルな動きではなく、遊園地で楽しんでいるような、そんなノリを味わせてくれる。もっとも本気で攻めようとする向きならミニを選択するとも思えないから、楽しませようとする心意気があれば十分。エンターテイメント性こそがミニにとって重要なのだと、今回あらためて思い知らされた。
新たなるサソリの猛毒! BEVのメリットが際立つ
一方、アバルトは期待をはるかに上回る出来栄えであった。所詮はBEV、ブランドキャラクターに見合うよう、ちょっとスポーティな程度だろうと当初はたかをくくっていたのだが、とんでもない。立派なアバルト感満載で、走ることが止められなくなるほどエンジョイしてしまった。確かに数値だけ見ればそれほどでもないが、アバルトが狙った内燃エンジン車の695とほぼ同性能というところは、今後を見据えた設定にしては出来すぎなくらい面白い仕上がりになっているのは確か。しかも695よりも前後重量配分が改善されたうえ、60mm拡大されたトレッドのおかげでその安定感は抜群! 42kWhのリチウムイオンバッテリーを積むこともあって重心が低いことも重なるからワインディングでは這いつくばるように走る。特にスコーピオン・トラックモードではパワーもさることながらトルクが図太く、アバルトの狙い通り、登坂能力はガソリン車と遜色なし! むしろBEVのメリットを最大限に活かしているから、褒めずにはいられなくなる。ワンペダルによる攻め方もすぐに慣れるほど扱いやすく、とにかく超好印象であった。
さらに、この上ない高揚感を味わいたいならスイッチひとつでレコードモンツァのエキゾーストサウンドを発することが可能。オーナーによってはこれを聞きながら走らせるほうが高揚するから、心燃えたぎるような熱い走りに導かれるだろう。
しかし、あまりにも楽しいから夢中になって飛ばしてばかりいると、あっという間に電池切れになるから要注意。今回テストしたカブリオレでは294km、ハッチバックでも303kmが満充電時の最大走行距離だと知れば、おおよそ見当はつくはずだ。これでは心配でルパン三世も逃走には使えないと判断するだろうし、テレビの電動バイク旅のように「ヤバイよヤバイよ」となってしまうが、それでもこの楽しさは、イタリア車ならでは。この熱き走りをBEVで味わえるのは、アバルトだから成せる技だろう。お見事である。
それにしても両車とも、BEVモデルということを意識して、クラシカルテイストのデザインの中にデジタル感を演出しすぎているように思う。中でもインテリア。現実的に考えれば、これまでの物理スイッチを排除して各種操作系をタッチモニター内に集約させることでコストを抑えるだけでなく、CO2排出量の削減にもつながるから方向性としては正しいとは思う。しかし、オシャレ感が演出できている反面、デジタル過ぎて味気がないし、走行中のタッチ操作は危険を伴う。それにミニは、インテリアの雰囲気などを一変させるエクスペリエンスモードが各種機能と連動しているのはいいとしても、走行モードまで他と連動できるようになっているのは如何なものかと思ってしまった。
今回、驚くことにスポーツモードに変更した途端、シートマッサージが発動! さらに別のモードに選択するとサンシェードが勝手に開いた! 思わず「なんでやねん!」と江戸っ子なのに関西弁が出てしまった。きっと我々の前に借りた人がそのような設定したと思われるが、そもそも連動させる必要などあるのかと疑問が残る。
とはいえ、いずれも相変わらずキャラクターが際立つから、それだけで十分なのだろう。真剣にクルマと対峙するよりも、基本はファッションの一部として取り入れれば、ネガな部分があっても気にならないのかもしれない。
【SHORT IMPRESSION】竹井あきら/MINI COOPER S 3DOOR
ゴーカートフィーリングは健在
4シーターだが2人乗りと割り切った方がいい。1人で助手席側から後席に乗り込んで助手席のシートバックを起こしたら、助手席が自動的に下がって来て膝下が完全に挟まれちゃって笑った。
初期クラシックミニ風にセンターディスプレイの下にトグルスイッチが並ぶだけのごくシンプルなインテリアだが、ダッシュボードやドアトリムにふんだんに使われる表情豊かなファブリックやアクセントのリボン使いがかわいい。
引き締まった足回りにショートホイールベースでクイクイ曲がるゴーカートフィーリングは健在。サウンドとカラーで元気な走りっぷりを盛り上げるエクスペリエンスモードも付いて、疲れ知らずのエナジードリンクハイな1台だ。
【SHORT IMPRESSION】渡辺敏史/ABARTH 500e TURISMO
最大の魅力は5ナンバーに収まる体躯
超ロングセラーとなったフィアット500の実質的な後継として企画された500e、そのアバルト版となるアバルト500eの最大の魅力は5ナンバーにきっちり収まるその体躯だろう。BEVとしては軽めの車重も相まって、感覚的にはB~Cセグメント級のホッチハッチを操るような気軽さで走りを楽しむことができる。
一方、ならではのトルク特性で街中領域から快活なレスポンスをみせてくれるのがBEV版アバルトの利。ラフに扱えばもろに伝わってくるトルクステアさえもアクセントと思える。スピーカーから流れるサウンドギミックはやり過ぎに思えるが、それさえも美点にしている、そんなキャラ得感がこのクルマのポイントだろう。
【SPECIFICATION】MINI COOPER S 3DOOR
■車両本体価格(税込)=4,650,000円
■全長×全幅×全高=3875×1745×1455mm
■ホイールベース=2495mm
■車両重量=1320kg
■エンジン種類/排気量=直4DOHC16V+ターボ/1998cc
■最高出力=204ps(150kW)/5000rpm
■最大トルク=300Nm(30.6kg-m)/1450-4500rpm
■トランスミッション=7速DCT
■サスペンション=前:ストラット、後:マルチリンク
■ブレーキ=前:Vディスク、後:ディスク
■タイヤサイズ=前後:215/45R17
問い合わせ先=BMWジャパン TEL0120-3298-14
【SPECIFICATION】ABARTH 500e TURISMO CABRIOLET
■車両本体価格(税込)=6,450,000円
■全長×全幅×全高=3675×1685×1520mm
■ホイールベース=2320mm
■車両重量=1380kg
■モーター最高出力=155ps(114kW)/5000rpm
■モーター最大トルク=235Nm(24.0kg-m)/2000rpm
■バッテリー種類=リチウムイオン電池
■航続距離(WLTC)=303km
■サスペンション=前:ストラット、後:トーションビーム
■ブレーキ=前後:ディスク
■タイヤサイズ=前後:205/40R18
問い合わせ先=ステランティスジャパン TEL0120-139-595
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