テスラは、米国テキサス州オースティンに本社を置く自動車および再生可能エネルギー関連企業である。モデルSなどの電気自動車のほかに、バッテリー、ソーラーパネルといった再生可能エネルギーソリューションを提供している。
2008年のテスラ・ロードスターを皮切りに、さまざまなEVモデルが登場。世界各国で売れているEVメーカーである。さらに、スーパーチャージャーとウォールコネクターといった充電基盤を自社開発・提供を行い、EVの懸念材料である充電問題を解決した。
実は自動車メーカーの技術をフル活用? テスラを成功に導いた「既存の知見」と「新たな価値観」のEV開発
そこで、本稿では「テスラとはどういうメーカーなのか?」「新興企業からいかにEV最強企業となったのか?」など、さまざまな視点から解説する。
文/御堀直嗣、写真/Tesla, Inc.
「テスラ」の誕生と成長のカギとはなにか
テスラ・モーターズは、2003年に米国東部のデラウエア州で設立された。資金調達で関わったイーロン・マスクが、翌04年から取締役会長に就任している。2008年にはマスクがCEO(最高経営責任者)となっている。
最初の電気自動車(EV)は、2008年のテスラ・ロードスターだ。これは、英国ロータス・カーズのエリーゼの車体を活用している。エンジン車をEVに改造したコンバートEVだ。それから4年後の2012年に、車体も独自製作したグランドアップEVのモデルSが発売になった。新興勢力と思われていたテスラも、モデルSの発売からすでに10年が経つ。
2009年に、三菱自動車工業からi-MiEV、翌10年には日産自動車からリーフが発売になり、そこから間もなくモデルSが登場したことになる。ドイツのBMWからi3が発売されるのは2013年のことだから、テスラの自社製EVの取り組みは、自動車業界内においてもかなり早い段階であったことがわかる。
テスラは、三菱自や日産、あるいはBMWと違い、2003年設立の新興企業であり、自動車製造歴の少ないメーカーに、EVといえども適切な商品が作れるのかとの懸念が、主に自動車業界から示された。
だが、当時のテスラは日本のトヨタやドイツのダイムラーと提携関係があり、モデルSには元マツダのデザイナーが関わっているともされ、単に電気に強い企業がエンジンや変速機のないEVなら容易につくれるのではないかといった安易な取り組みではなかった。
一例として、目に見え手に触れる部分では、変速機の操作用のレバーが、メルセデス・ベンツと同じ部品メーカーのものであった。部品調達を含め自動車業界と密接な関係を摸索しながらの開発や生産であったことをうかがわせる。
生産工場は、トヨタとゼネラル・モーターズ(GM)が1984年に設立した合弁会社(NUMMI)で稼働させていた、カリフォルニア州の工場設備を手に入れるなど、投資を抑えながら量産車製造の知見を採り入れている。
そのうえで、電動技術においては、既存の自動車メーカー以上に熟知できた時代背景があった。
米国カリフォルニア州は、1990年にZEV(ゼロ・エミッション・ヴィークル)法を施行し、全米最大の州で新車を販売する自動車メーカーは、国内外を含めEV開発に取り組まなければならなくなった。
当時は、まだリチウムイオンバッテリーが存在せず、ニッケル水素バッテリーもなかったため、使われたバッテリーはエンジン車の補器用である鉛酸であった。当然ながら一充電走行距離は数十キロメートル程度に止まり、市販できるような水準ではなかった。
それでも米国内では、ベンチャー企業によってEV開発は継続的に取り組まれ、エンジン車をEVに改造するコンバートEVで公道を走れる様子があった。
たとえばACプロパルジョンのアラン・ココーニという技術者は、ホンダ・シビックを改造したEVを製作し、長距離移動には発電機を牽引する(ロング・レンジャー)ことで米国大陸横断もEVで行っている。90年代前半の話だ。民間で作られたコンバートEVにナンバーを取り付け、公道を走れる交通環境が米国にはあり、手製EVを通じたEV技術の成長を促した。当時、GMのインパクト(のちにEV1として96年に市販)も、その電気部分の開発に携わったのはA・ココーニだ。
電動技術に関しては、2世代目のプリウスを活用し、ニッケル水素バッテリーを2台分車載してプラグイン・ハイブリッド(PHEV)を生み出し、その製作に取り組んだのも米国のベンチャー企業だった。のちに、トヨタからプリウスPHVが登場する。
米国のEVベンチャー企業は、ZEV法を背景にEVへの夢を忘れず、果敢に挑戦することで、EVならではの魅力の創造を続けてきた。ZEV法は、カリフォルニア州だけでなく、のちに東部を含めた10州へ広がっている。そうした米国の実態が、テスラを生む原点であったといえるだろう。テスラ・モーターズが生まれる前に、米国人は10年を超えるEV経験や電気技術を培っていたといえる。
テスラはエンジン車にない、EVならではの未知なる体験を提供し続けた
2019年に日本に導入されたモデル3。シンプルな内外装とテスラ最新の技術を搭載したテスラのエントリーモデル
EVらしさを、徹底追求することで、エンジン車と違う価値観を体現せたのがテスラである。すべてを自社開発したモデルSは、最新の電気技術に加え、時代を反映した情報通信技術を携えて登場した。
車両の鍵をもって近づけば、自動でドアロックが開錠される。そして乗り込めば、イグニッションスイッチを押さなくても、ブレーキペダルを踏んでシフトレバーをDレンジに入れるだけで走りだせる。
エンジン車で慣れ親しんだ、いわば発進のための儀式ともいえる手順を踏まず運転をはじめられる様子に、はじめは戸惑いもあった。だが、最新技術を正しく理解すれば、モデルSの走りだすまでの手順は、何ら危険もなく、安全に走り出せる内容である。
もう何年も前から、エンジン車もバイ・ワイヤーと呼ばれる技術を活用し、各種スイッチの操作は電気信号として機能部品へ指示され、それに応じて稼働する仕組みが採り入れられている。ならば、あえて個別のスイッチをダッシュボードに並べなくても、情報端末として不可欠な液晶画面上のタッチ操作に切り替えても差し支えないはずだ。
それがモデルSでの大画面であり、のちのモデル3ではさらにスイッチ類が省かれ、大画面での項目選択と、ステアリングコラムでのスイッチ操作のみでほとんどの機能を利用できるようにした。
理にかなった合理性を徹底追求することで、ほぼ一律の造形となっていた車内空間に新たな世界観を生み出した。モデル3の車内は、驚きと感動にあふれている。
それらは単に奇抜さを求めた姿ではなく、操作や状況確認には、ヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)を徹底追求した容易さと安心がもたらされている。それはスマートフォンの使い勝手に通じる。
時代に適合するだけでなく、どちらも電気を使って機能する商品である点で通じており、逆に、既存の自動車メーカーのHMIは、テスラに比べれば不十分で、扱いにくささえある。
テスラが掴んでいたEVの成功のカギとは?
クルマとしての扱いにおいても、テスラはほかの自動車メーカーと異なり、充電基盤も自ら整備することで、リチウムイオンバッテリーを徹底的に使い切る性能をもたらしている。
バッテリーへの充放電という言葉が使われるが、放電はモーター駆動と結びつき、クルマの機能としてだけで完結する話だが、充電は、単にバッテリーへの電力の受け入れだけでなく、電気を供給する充電機との関係性まで考慮されなければ、安全で効率的な充電はできない。
テスラは、モデルSの導入からスーパーチャージャーやウォールコネクターなど、自らの充電口と充電手法を用いた充電基盤を、自らの負担と責任において社会へ普及させた。だからこそ、短時間で高効率な充電が可能となり、充電への不安を解消できるのである。
「日本の充電基盤は未成熟だ」などと発言する自動車メーカー首脳とは逆の発想だ。
こうして、リチウムイオンバッテリーの充放電を原点から把握したテスラは、車載バッテリーに関して、ラップトップコンピュータなど汎用で使われる製品を基に利用しはじめた。
EV用以外の汎用バッテリーを使いこなせたのも、リチウムイオンバッテリーの充放電を熟知すればこそで、それを安全に、最大活用できる制御が要であることを知っているからだ。
のちに、各地にギガファクトリーと呼ばれるバッテリー工場を建設し、拡大採用している。それEV成功の鍵がバッテリーにあることを知っているからこそであり、それに既存の自動車メーカーも追従しているのが実態だ。
エンジン車からも違和感なく乗れるEVなどという発想は、スマートフォンをつくろうとしているのに、携帯電話と違和感のない使い勝手を目指すようなものだ。スマートフォンは、独自の魅力を最大に追求することで消費者を驚かせ、魅了し、時代を転換させた。
EVもその本質に迫り、本物志向で、最大限に本質的魅力を発揮させる企画や開発ができなければ、この先もずっとテスラを抜くことはできないだろう。
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