公道を走れない純血のレーシングマシン
英国に拠点を置く建設機械メーカー、JCバンフォード・エクスカベターズ(JCB)社。そこでデザインチームを纏めるベン・ワトソン氏は、ブルドーザーからダンプカー、パワーショベルまで様々なマシンを生み出してきた。
【画像】宙を舞う「1500馬力」 JCBディガトロン モンスタージャム・マシン 公道可のモンスターたち 全123枚
経験豊かな彼にとっても、JCBディガトロンのデザインは異端だったという。立ち向かう相手は大地ではなく、奇抜な形のモンスタートラックだからだ。
「こんなデザインは初めてでした。悪くない経験でしたよ」。世界最大のモンスタートラック・イベント「モンスタージャム」の会場で、彼へお話を伺う。オープニングは、いかにもUSA。往年のアメリカン・プロレスの華やかさが重なる。
奇抜なボディへ目がゆきがちだが、マシンには驚くほど高度な技術が投入されている。参加チームも極めて本気。そもそもモンスタートラックは、公道を走れない純血のレーシングマシンだ。その点では、F1と共通するかも。
モンスタージャムのコースは、レーシングカーが周回するサーキットよりチャレンジング。派手にジャンプしたり、クルマを潰したり、片輪走行することもある。ウイリーも頻繁に繰り出される。
1度に戦うのは、8台のマシン。スタジアム内に作られたダートコースを舞台に、3つのイベントで順位が争われる。
最初はノックアウト方式の直接対決で、コースの速さを競うもの。次は2輪チャレンジ。ドライバー毎に20秒が与えられ、絶妙な2輪走行を披露する。最後はフリースタイルで、90秒間に派手なカーアクションを見せつけ合う。
8.8L スーパーチャージドV8で1500ps
この「ジャム」を運営するのは、アメリカのフェルド・エンターテインメント社。独立したチームも多いが、参戦マシンの半分は、同社のワークショップで維持されている。現在は、100台以上を保有しているとか。
「1980年代のモンスタートラックは、一般的なピックアップトラックに巨大なタイヤを履かせたものでした。クルマを壊すことが目的で、娯楽の延長でしたね」。フェルド社のビル・イースタリー氏が説明する。
「1990年代に、本格的な内容へ変化していったんです。チューブラーフレームのマシンが生み出され、プログラムが構成されていきました」。安全性と競技性を保つため、厳しい技術規制も設けられている。
スペースフレーム・シャシーは、特定の企業が提供するもの。エンジンは、工業用アルコールのメタノールを燃やす、スーパーチャージドV型8気筒。最高出力は1500psもある。トランスミッションは、長いギア比を持つ2速オートマティックだ。
「エンジンはアフターマーケット製のユニットです。排気量は最大で572cu.in(約9.4L)まで認められています。しかし、通常は540cu.in(約8.8L)ですね。船舶用エンジンがベースで、高耐久なんです」
搭載位置は、ドライバーの後方。前後の重量配分を、最適化するためだ。
「エンターテイメント性を追求し、マシンが最高の状態で戦えるように、エンジンは約20時間毎にリビルドされます。多くのモータースポーツと比べても、驚くほど短いスパンですよね。ドライバーの技術も大きく試されますが」
外形66インチのタイヤは1本292kg
多くの場合、1会場で走る時間は合計でも30分程度。スタジアムの中だから、全開走行は殆どできない。メカニックや部品は、マシン間で共有されるという。
「ストックのエンジンは沢山あります。必要なら、次のユニットへ載せ替えるので。不調があれば、すぐにドライバーが教えてくれますよ」。イースタリーが説明する。
車重は約5440kg。全長は5100mmで、全高は3200mm。これを支えるサスペンションは、前後とも4リンク式で、ストロークは30インチ(約762mm)もある。リザーバータンク付きのエアショックが、2本づつ組まれている。
タイヤは、インドのBKT社製。外形は66インチ(1676mm)あり、重さは1本292kgだ。「このタイヤは4世代目。減りが少ないので、ほぼ永遠に使えるでしょうね」
ディガトロンは、JCBとモンスタージャムとのパートナーシップで誕生した。北米市場での販路拡大の一環として、公式工業車両プロバイダーというポジションにある。テキサス州サンアントニオでは、新しい工場が建設中だ。
先述の通り、ディガトロンも管理するのはフェルド社。JCBがシャシーを設計する必要はなかった。それでも、観衆の目を引くボディは必要になる。ワトソン率いるチームが、ブルドーザーをポップにしたようなデザインを生み出した。
「マシンの見た目は、自分たちでコントロールしたいという考えが強くありました。でも、モンスタートラックのデザイン経験なんてありません。巨大なバケットや掘削機をモチーフにした、極端なアイデアも初めはありましたよ」。ワトソンが振り返る。
JCBブランドを表現するモンスタートラック
「JCBブランドを体現し、どんな企業なのかを示すトラックが必要だと考えました。多様な建設機械をデザインする時の課題は、同じブランド・ファミリーだと感じられるようにすることです」。ディガトロンも、その一員だ。
ボディは、激しいスタントに耐える必要がある。ドライバーのトリスタン・イングランド氏は、リアを持ち上げてフロントタイヤだけでバランスさせる技が得意。そのため、フロント側は小さく丸く作られている。
同時に、建設機械のアームやバケットもしっかり表現された。コンピュータ上で仮想モデルを制作し、破壊シミュレーションで耐久性も確認済みだ。
「ディガトロンは、運転席からの視界が良好。タイヤが目視できることも確かめています。視界が広がるほど、競技時の自信は高まるはずです。多くの議論を重ねましたが、素晴らしい結果で、やり甲斐があるものでした」。イースタリーが話す。
2024年8月には、ロンドン・スタジアムでモンスタージャムが開催された。もちろん、ディガトロンも参戦。JCB社の経営者トップ、ロード・バンフォード氏も観戦している。
このイベントでは、直接対決と2輪チャレンジで勝利。フリースタイルでは、バックフリップで横転してしまった。それでも最終得点で、ディガトロンが総合優勝を掴んだ。
モンスタージャムは、ふざけたモータースポーツに見えるかもしれない。だが、アメリカでは巨大なビジネスを構成している。ディガトロンが、JCB社の市場開拓を強力に推し進めることだろう。
JCBディガトロン(モンスタージャム・マシン)のスペック
英国価格:−ポンド
全長:約5100mm
全幅:約3800mm
全高:約3200mm
最高速度:112km/h
0-100km/h加速:4.0秒
燃費:−km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:5440kg
パワートレイン:V型8気筒8849cc スーパーチャージャー
使用燃料:メタノール
最高出力:1500ps
最大トルク:151.8kg-m
ギアボックス:2速オートマティック(四輪駆動)
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