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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第19回前編】“感覚と賢さ”が武器。予選で僚友に勝ち続けたニコの強さが見えた一戦

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第19回前編】“感覚と賢さ”が武器。予選で僚友に勝ち続けたニコの強さが見えた一戦

 2023年シーズンで8年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。最終戦アブダビGPではフリー走行をほとんど走れずに終えたが、ニコ・ヒュルケンベルグはここでも予選一発の速さを発揮した。ヒュルケンベルグは1年前のアブダビテストから予選の速さには自信を持っており、その自信どおりにケビン・マグヌッセンを上回る予選結果を残したシーズンとなった。しかしその一方でレースでは苦戦。グリップ不足がペース不足につながり、小松エンジニアも「うちのクルマではこれが限界」と認めた。

 コラム第19回は前編・後編の2本立てでお届け。まずはアブダビGPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。

マグヌッセン「開発競争でライバルに負けた。追いつくためにこの冬は大忙しになる」ハース F1第23戦決勝

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2023年F1第23戦アブダビGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選17番手/決勝20位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選8番手/決勝15位

 ようやく最終戦アブダビGPを終えました。アブダビではメキシコシティGPに続きFP1でオリバー・ベアマンを乗せましたが、やはり今回も期待通りの走りをしてくれましたね。僕はメキシコで彼を起用してからアブダビでも乗せるのを楽しみにしていたのですが、オリバーは変わらずプロフェッショナルで、何をしないといけないのかをよくわかっています。クルマに対する感覚もフィードバックいいし、それをきちんと伝えられるので文句なしでした。

 FP2から乗ったニコはクラッシュでセッションを終え、FP3では風の影響を受けてタイムが出ず、それでも予選ではQ3に進み8番手でした。ニコはシーズンを通して予選成績ではケビンを上回っていましたが、2022年シーズン末のアブデビテストで「一発の走りは大丈夫だからロングランをさせて」と言っていたとおり、もとから予選に自信を持っているのでそれが現れた形になりましたね。

 ニコはいい感覚を持っていて頭もいいので、フリー走行で自分の手のうちをすべて見せることはしません。“フリー走行でこのレベルで走れるなら、予選だとどれくらいレベルを上げられるのか”をわかっているからこそできることです。反対にケビンは誰かにクルマの限界を示してもらわないとそのレベルには到達できないタイプで、ロマンと組んでいた時もそうでした(ロマンはFP1でほぼクルマの限界まで到達するタイプです)。つまり、ケビンは予選になって初めてニコが全力を発揮するのを見てどれくらいプッシュできるのかを理解し、負けてしまうことが多々ありました。

 今回の予選がいい例ですが、先に書いたようにニコはFP1を走らず、FP2もクラッシュで早々に終えてしまったので、ケビンにとってはレファレンスがない状態でグランプリ初日を終えることになりました。FP3では風が吹いていたのが予選になると止んだので、風の影響を受けやすいVF-23の感触も変わりましたが、ニコはQ1でこの週末初めてまともにクルマを走らせたような状況でもどこまでプッシュできるのかを把握する能力があるんです。誰かに言われなくても自分のなかで細かい調整もできるし、それでいて手のうちを明かさないので、予選で差がつく要因になっています。

 VF-23の特性がケビンに特に合っていなかったというのもそうですが、ケビンの得意なサーキットでは週末を通してケビンの方が速いこともありました。ですから来シーズンはもっと安定してケビンのベストを発揮できるようにチームとしてももう一歩前進しなければと思っています。

 レース後のコメントではニコが「問題は必ずしもデグラデーションではなかった」と言っていましたが、これは要するにペース不足だったということです。どうしてペースがよくなかったかというと、絶対的なグリップが足りないのである一定の走り方をしないとタイヤが滑ってタレてしまうからです。タイヤを滑らせないで最後まで走るにはマージンをとって、今回のようなラップタイムで走らざるを得ない状況でした。

 今年はニコにとって、久しぶりのF1フルシーズンでした。1年前のテストの時はアブダビで110周走り、80周を超えたあたりから疲れている様子だったと当時のコラムにも書きましたが、シーズン中は体力的にはまったく問題なかったです。テストの時は体の状態も「ベストではない」と本人も言っていましたけど、2月にシート合わせで会った時には体を絞っていていい状態でした。でもニコのように背の高い人が体を絞るのは大変ですよね。げっそりしているとは言いませんが、その一歩手前くらいにはきているんですから。

 ケビンは17番手からどうにかするためにも他と違うことをやろうとして、第1スティントはトラフィックのなかでペースがよくなかったので、早めにピットインしてフリーエアーでどんなタイムで走れるのかを見ることにしました。最初の方は狙い通りのタイムだったのですが、そこから徐々にペースが落ちてきて、ピットインしたニコが追いついてきたあたりから大きく落ちてしまいました。ニコに抜かれた後もペースは落ちていき、やはりグリップ不足でタイヤのタレが大きくなるというのがよくわかるレースでした。

 レース後、ケビンは「ようやくこのシーズンを終えて来年に目を向けることができる」とコメントしていますが、それくらい僕たちにとって厳しいシーズンでした。こういうシーズンを繰り返さないためにチームとして何をしなければならないのかをよく考えていかなければなりません。新しい技術規則が適用されて2年目なのに思うような開発ができず、みんな苦しかったです。現場でやっていると逃げ場はないし、いいことも悪いこともすべて目の前で起こります。レース結果がこうなるとわかっていてもどうにかしようと土曜の夜遅くまで仕事をしてベストを尽くしてきましたが、何をどうやってもうちのクルマでは日曜のレースはこれが限界でした。

 この週末はFP3の時点で2台ともQ1敗退の可能性が高かったので、ニコの8番手という結果をみんなすごく喜んでいました。でもレースでどうなるかはわかっているので、ピットストップ練習の時にメカニックたちには「今年はピットストップ作業が改善されている。レースではおそらくピットストップが4回あるので、少なくともピットストップではいいタイムを出して終わろう」と伝え、その結果いいタイムで作業をしてくれましたし、来年はそんなクルーのためにもレースで結果を出していい思いをしてほしいと思っています。

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【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第19回後編】に続く


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