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<鈴鹿8耐 17>カワサキ26年ぶりの8耐制覇!~ヤマハV5ならず! ワークスチームが表彰台を独占

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<鈴鹿8耐 17>カワサキ26年ぶりの8耐制覇!~ヤマハV5ならず! ワークスチームが表彰台を独占

ゴール前からレース終了時の大混乱を解説します!
カワサキワークスチームの復活、TECH21カラーのリバイバルに、ホンダワークスチーム2年目のリベンジと、レース前から注目の高かった2019年「第42回」鈴鹿8時間耐久ロードレース。何度かレポートをお届けしてきましたが、決勝レースの行なわれた28日の時点で「暫定結果」だったリザルトが、29日(月曜日)16時10分に「正式結果」となりましたので、あらためてお知らせします。

この「正式結果」が出たのが月曜夕方になったのは、なにも暫定結果が覆ったことでモメたとか、レース後車検が長引いたのではなく、ごく普通のこと。2018年はレース後車検は即日、正式結果が出たのは日曜22時35分。月曜に車検が行なわれた2017年は、正式結果は月曜16時10分でした。

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優勝はカワサキレーシングチームSUZUKA8H(決勝レース前にチーム名が変更になりました)。
2位にヤマハファクトリーレーシングチーム、3位にレッドブルホンダ。表彰台を3つのワークスチームが独占しました。
4位にF.C.C.TSRホンダFRANCEが入りましたが、世界耐久選手権チャンピオンは12位フィニッシュを果たしたSRCカワサキの手へ。まずはカワサキが、NinjaZX-10RRが、鈴鹿8耐&世界耐久タイトルを獲得、2冠を獲得しました。いや、2冠とは言いませんが、市販車ベースの大きなタイトルをふたつ獲った、ってことです。

何から話そうかなってくらい話題に事欠かなかった今年の鈴鹿8耐。まずはゴール前からレース終了時の大混乱をお伝えしなきゃなりませんね。
例年に比べて、トップチームや有力チームのトラブルやアクシデント、セーフティカー介入による混乱が少なかった2019年大会。優勝候補は3つのワークスチームと、古豪ヨシムラスズキやハルクプロホンダ、それに現ワールドチャンピオンチームのTSRホンダ、世界タイトルを争っているスズキエンデュランスレーシングチームにSRCカワサキ――といった面々。
その戦前の予想通り、レース終盤になって、#10カワサキレーシングチーム(=KRT)と#33レッドブルホンダ(=HRC)、#21ヤマハファクトリーレーシング(=YFR)が、最後の最後まで同一周回、しかも10~20秒以内にこの3チームが走るという、僅差で優勝争いが繰り広げられていました。こんな僅差の鈴鹿8耐も久しぶりです!

時刻は18:30。いよいよレースが残り1時間を迎える頃、レースは大きく動き始めます。
この時点での位置は、トップにHRC、その1秒773後方にKRT、さらに9秒033後方にYFRがいるというナイトセッション。ライトオンサインが掲示され、このままレースが終わるのか、それとも最後のひと波乱があるのか――そんな時間帯でした。

最後のピットイン、最初に入ったのはKRTで、レオン・ハスラムからジョナサン・レイに交代して194周目/18時38分にピットアウト。次に入ったHRCは7時間目を走った高橋巧がなんとなんとの連続走行で18時46分にピットアウト、YFRは同じく18時46分に中須賀克行からバトンを受けたアレックス・ロウズがコースインします。

HRCが勝負に出た、という感じでした。清成龍一の体調不良で、高橋とステファン・ブラドルの2人で8時間を走り切ることを選択したHRCでしたが、高橋が全日本選手権と同じ快走を披露したのに対し、ブラドルは今ひとつ。
ブラドルは、カワサキはレイと、ヤマハは3人全員とマッチアップしましたが、ライバルと同じペースでは走れるスピードはなく、1スティント目に33周を回ったCBR1000RR-W驚異の好燃費でどうにか遅れずに周回、高橋がビハインドを追いつき引き離して――という展開を続けていました。HRCは高橋の負担が大きかった!

KRTがピットイン、ハスラムに代わってレイがコースインするころは高橋がトップ、その後方約55秒差にレイ。ここで高橋がピットインし、最後のガス補給と前後タイヤ交換を済ませてコースインすると、レイはなんとこのタイミングで、このレースのベストラップを更新、さらに更新! レースが7時間を経過し、レイの走行は4回目。夕闇迫る鈴鹿サーキットで、このタイミングでのベストラップ更新、そして連発はWSBKチャンピオンの凄みを感じさせてくれました。ちなみにこのレースのベストラップは2分06秒805――これは200周目にレイがマークしたタイムです!

高橋のアウトラップが過ぎ、通常ラップタイムに戻る頃には、高橋とレイの差は約3秒。しかし、すでに1時間以上も走行している高橋に対し、1時間の休憩の後に4回目の走行に臨んだレイのスピード差は明らかで、202周目にはついに逆転! これが18時55分ごろで、この後は高橋のペースも大きく落ちてしまい、みるみる差が広がってしまいます。
「優勝しか狙っていなかったんで、レイに抜かれたときにはもう……。体も、腰だけじゃなく、あちこち限界でした」と高橋。気力、体力はもう限界に来ていたのでしょう。高橋は例年、8耐後半には腰痛が悲鳴を上げることで知られていますが、今回はそこをギリギリ乗り越えての走行でした。

レースはここからクライマックスを迎えます
まず18時55分ごろ、ポストにフラッグが提示されます。赤ストライプ付きの黄旗=オイル旗と呼ばれるもので、あ、どこかにオイル漏れた?と思ったら2コーナーを過ぎたところに落下物が発生、の意。ここで、#29ドッグハウスの左村英祐が、この落下物を踏んで転倒! そのドッグハウスのGSX-R1000の横を、あわや接触しそうな距離でレイがパッシングしていきます。うわぁ危なかった!ラインがあと1本イン側に寄っていたらレイがこの落下物の餌食になっていたかもしれない、レイのひとつ前の周のラップタイムがあと1秒遅かったら、この転倒に巻き込まれていたかもしれない、そんなシーンでした。

19時を過ぎると、レースアナウンスのピエール北川さんが「スプーンに雨の情報です!」と絶叫。これがトップ3の206周目くらいの頃で、トップを走るレイのペースもガクッと落ちることになります。あたりはもう暗闇、コースも濡れ始めて、2番手の高橋との差は10秒以上、3位ロウズはさらに19秒後方にいます。レイのこのペースダウンは正解でしょう。

しかし、これをチャンスとペースを落とさなかったのがロウズ! ロウズは、レイがペースを落とし始めたあたりからトップ2との差を詰めはじめ、アッという間に高橋との19秒差を短縮。ここも、もう1時間半も走行し、とうとうトップの座をレイに明け渡してしまった高橋と、逆転する気マンマンのロウズでは、走りの勢いも違います。

ロウズと高橋の差は208周目には11秒、それから8秒、3秒、1秒と接近し、ついに211周目に逆転。これでトップ3の順位はレイ→ロウズ→高橋で、ここでロウズからレイまでは約20秒。レースは残り15分、ロウズはその勢いのままトップのレイに迫りますが、いくらレイのタイムを越えても20秒の差はなかなか埋まりません。これで万事休す――このままレイ→ロウズ→高橋の順でレースが終わりそうなムードが漂い始めました。

しかし、レースはこのままでは終わりません。レースが残り5分を迎える頃、場内のアストロビジョンに盛大にオイルを噴き上げる#2スズキエンデュランス(=S.E.R.T.)のGSX-R1000の姿が映し出されたのです。実はS.E.R.T.のマシンには、その3周ほど前にサイレンサーから生ガスが燃えだしたような炎が確認されていて、いったんピットイン。ピットアウトした時には炎は確認されなくはなっていましたが、サイレンサー内部はまだ赤々と高熱のまま。だ、大丈夫なのかな……と誰もが思いつつも、ビジョンもトップ争いに戻り、誰もがそのシーンを忘れていたのです。

しかし、終了5分前に再び画面に大写しになった、白煙を噴き上げるS.E.R.T.のマシン。「あ、あの時の!」と誰もが思う間、エティエンヌ・マッソンと白煙を上げているマシンは1~2コーナーをスロー走行で通過し、S字をのぼりながら、コースのアウト側からイン側に横切り、グラベルでストップ。コースはすでに暗闇で、走るライダーはヘッドライトとコース照明だより、さらにまだ小雨が落ちていて、路面には盛大にオイルがまかれている、最悪の状況。

悲鳴に包まれる場内!
「赤旗だ!」「セーフティカー入れよう」「ライダー大丈夫か!」「コース、オイルだらけ!」
時刻は19時28分。トップのレイがフィニッシュラインを通過し、次にレイがここを通り過ぎるのは2分10秒以上後で、つまりチェッカーが振られることを意味します。たとえば、あと30秒ほど早くフィニッシュラインを通過していたら、レースはもう1周続きますからね。これが正真正銘のラストラップです。

空撮でレイの走りを捕えるモニター。するとレイは、S字上り区間で、明らかにオイルに乗ったと思われるモーションで転倒、グラベルへ吹っ飛んでいってしまいました!
その直前、レイが2コーナーをクリアしたあたりで、TV解説の辻本聡さんが言っていました。
「ここS字区間、上りですからね、さっきオイルがまかれたあたりだし、ペース落としてほしいで……あーーーーーーー!」
解説の辻本さん、そして北川圭一さんは、S.E.R.T.のマシンがオイルを噴いた時
「すぐセーフティカー入れなきゃ!」と話していました。もしこの時、セーフティカーが介入していたら、ひょっとしたらレイは無事にチェッカーを受けていたかもしれません。

悲鳴に包まれる場内、TVコメンタリーブース、メディアセンター、そしてTVを見ていた数千、数万のファンたち。それと同時にコースには赤旗が提示され、レースは中断。このまま終了となりました。なんてレースだ! なんて結末だ! チェッカーフラッグが振られることもなく、2019年の鈴鹿8時間耐久レースが終わってしまいました!

さらに混乱は続きます。次々とピットに帰ってくるマシンたち。この時点では、リアルタイムモニターは、トップが#21YFR、2位に#33HRC、3位に#1TSRホンダ。「この時点では」#10KRTはピットに戻れていませんから、リタイヤ扱いになっています。レースが終了して5分以内にフィニッシュラインを通過しない(またはピット、パルクフェルメに戻らない)車両は順位認定から除外されてしまうからです。
え? 優勝はヤマハ? カワサキは? 赤旗提示だと、その1周前の順位が正式結果でしょ? いや、5分以内に戻ってこれなかったからリタイヤ扱いじゃない? そんな声も、あちこちから聞こえていました。

しばらくの混乱と協議の後、FIMのレース実行委員会はいったん「優勝はヤマハ、2位ホンダ、3位TSR」との結果を宣言。一度はこの結果で表彰式も行われます。表彰式は、本来どのレースも正しくは「暫定表彰式」と呼ばれているもので、参加チームの抗議やレース後車検の結果によって、表彰式の後に結果が覆るケースもまれにあるものです。これが19時50分ごろ。
20時10分には、レース結果が発表されます。これも正しくは「暫定結果」で、1位ヤマハ、2位ホンダ、3位TSRホンダ。
20時35分にはFIMレース実行委員会が#10KRTからの「暫定結果に対する抗議」を受理。サーキットでは表彰式後の記者会見が行われる時間帯ですが、記者会見はなかなか始まらず、表彰式に登壇した各チームのライダーもいったんピットへ戻ります。記者会見も、正式裁定が出てから、とアナウンスされますが、今大会はレース後車検が29日月曜日に予定されていたため、正式結果は29日まで出されません。ひとまず、カワサキの抗議を協議し、レース実行委員会が「暫定結果を更新」するのを待って、最新の「暫定順位」とし、その結果で記者会見を実施するのでしょう。

そして21時35分。FIMのレース実行委員会は暫定結果を変更。優勝は#10カワサキ、2位#21ヤマハ、3位#33ホンダの順となりました。
「レースは赤旗提示の時点で終了。#10KRTはレース終了後5分以内にピットに戻らなかったため、一時は順位認定から除外しましたが、#10KRTから抗議があり、協議したところ『レース後5分以内にピットに戻らなければならない』というルールは、EWC(=世界耐久選手権)ルールブックに明文化されておらず、ルールブックに規定されている『赤旗提示の場合は、そのひとつ前のフィニッシュライン時点での順位を正式結果とする』を適応。よって優勝は#10カワサキレーシングチームです」とはFIMセーフティオフィサーのポール・デュパークさん。これによって、カワサキ26年ぶりの鈴鹿8耐制覇が決定したのです。

もちろんこの結果に対して、他チーム、特に一度は5連覇達成が実現したヤマハは抗議する権利を持ちます。しかし、ヤマハは「カワサキの抗議で暫定結果が覆った経緯を聞きたい」との申し入れのみで抗議をせず、事情説明の後、ヤマハは「FIMの裁定を尊重し受け入れる」と表明。大混乱の鈴鹿8耐に、ようやくピリオドが打たれたのです。

レース後、FIMの正式声明には、暫定結果が変更された理由が記されていました。
「赤旗提示の規則を再度厳密に精査したところ、FIM世界耐久選手権ルール1.23.1に定められた赤旗中断時の規則を適用し『赤旗提示時の1周前(216周)の順位』を結果として採用する」とのこと。
ルールブックでは、レースが「終了」して5分以内にフィニッシュラインを通過しない(またはピット、パルクフェルメに戻らない)車両は順位認定から除外されてしまうことは明記されていますが、「赤旗中断」での終了については規定がなく、「赤旗中断」のルールを適用する――ということでしょう。

いずれにしろ、あのアクシデントがあるまでは、まぎれもなく優勝はカワサキでした。それは、戦っていたライダー、チーム員すべてが実感していることでしょう。ヤマハの5連覇を願っていたファンは、言いたい所もあるでしょうけれど、ヤマハが「FIMの裁定を尊重し、受け入れる」という素晴らしくフェアでスポーツマンシップにのっとった声明を出しています。ここは飲み込みましょう! 2019年の鈴鹿8耐を制したのは、#10「カワサキレーシングチームSUZUKA8H」です。

S.E.R.T.のマシンがオイルを噴いてからのレース進行について、批判が続出しています。曰く、赤旗を出すのが遅い、オイル旗は出たのか、セーフティカーはなぜ介入しなかったのか……などなど。この批判の矛先が鈴鹿サーキットやモビリティランドにも向いていますが、これはお門違い。EWC世界耐久選手権の一戦である鈴鹿8耐は、FIMが主催・運営し、FIMが大会審査するもので、鈴鹿サーキットはその場所を提供、競技役員を供出しているだけです。赤旗やセーフティカー介入の判断はFIMレースディレクション、セーフティオフィスが決定し、その理由については一切の抗議質問が認められていません。どうしてあそこでセーフティカーを入れないの!と質問しても、回答は出てこないわけです。

いずれにしろラスト30分、ちょうどコースに雨が落ちてくるころまで、上位3チームが接近し、ロウズが高橋を逆転する19時15分後ごろには、トップ3がほとんど15秒以内にひしめいていた超激戦でした。終わり方に少しスッキリしないものは残りましたが、令和最初の、2019年の鈴鹿8耐は、ものすごい激闘だったと記憶しておきましょう。

□2019-20 世界耐久選手権 最終戦
鈴鹿8時間耐久ロードレース
観客:10万9000人(4日間合計)

1:カワサキレーシングチームSUZUKA8H 216周
2:ヤマハファクトリーレーシング
3:レッドブルホンダ
4:F.C.C.TSRホンダFRANCE 215周
5:ヨシムラスズキMOTULレーシング
6:YARTヤマハ 214周
7:MuSASHi RT ハルクプロHonda 213周
8:S-PULSE ドリームレーシング 211周
9:KYBモリワキレーシング
10:ホンダDREAM RT桜井ホンダ

写真提供/Kawasaki YAMAHA 写真・文責/中村ひろふみ

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