コスト度外視で最高の技術を全て投入した
「筑波サーキット=59秒3」の市販車最速のラップタイム更新とともに、2420万円という車体価格も話題になっている日産GT-R NISMO 2020年モデル。ガソリン車のスーパーハイパフォーマンスモデルの先行きが不透明な時代に入ってきた昨今を見据えて、いままでコスト等の規制で量産車としてできなかったことも、全部出し切ってしまおうという意気込みで開発した入魂の一台だ。
松田次生選手「日産 GT-R NISMO」で渾身のスーパーラップ! 前人未到の筑波サーキット59秒361を記録
ボディの基本骨格やドア以外の外装部品は、ほとんどドライカーボンを使って軽量化し、エアロはSUPER GTのレース車両を手掛けた空力エンジニアが手掛けているので、エアロダイナミクスは大幅に進化。パッと見ただけではわかりづらいかもしれないが、これまでのGT-Rとは次元が違う性能に仕上がっている。
例えば、新開発専用カーボンセラミックブレーキは、フロントφ410mm、リヤφ390mmの大径ながら、従来のスチール製ブレーキより、1輪当たり4kgも軽く、世界最高峰のストッピングパワーを誇る。大阪オートメッセ2020の会場で話を聞いた担当者によると、このNISMOのブレーキは世界最高のブレーキとのこと。
「このクルマには黄色のキャリパーがついていますが、ブレーキローターが1000度を超えてくると、他の色のキャリパーではすぐに変色してしまうんです。黄色が一番熱による変色に強く、退色を防ぐには黄色しか選択肢がなかったのです。そういう意味で、黄色いキャリパーは本物の証拠といえるでしょう」
前述の通り、GT-R NISMOはボディの隅々までエアロダイナミクスを追求され、カーボン製エンジンフード、カーボン製フェンダーでフロント周りが軽くなった分、空力でダウンフォースを稼ぎ、前後の重量バランスを最適化している。
拡幅カーボン製フロントフェンダーには、上部&後部アウトレットダクトが装着され、エンジンルームのエアをここから抜くことで高速域の接地性を確保。ルーフも平織りカーボン素材と低比重素材のサンドウィッチ構造とし、4kgも軽量化。さらにパネル表面の平滑性、耐候性、そして遮音性なども確保され、高級車にふさわしいクオリティに仕上がっている。
専用のドライカーボン製トランクリッドは、外装大型部品では世界初の高圧成型法(PCM工法)を採用した逸品で、いずれもGT-R NISMOならではの、特殊なカーボンにこだわっている。
またバケットシートも進化していて、シートバック全体をカーボン素材にコア材を重ねる3層構造に。軽量化+上半身全体をより安定させる構造にバージョンアップ。
ホイールも新構造のレイズ製鍛造20インチで、GT-R NISMO GT3の開発技術から回転方向のねじれに強い9本スポークを採用。合わせてタイヤもパターンおよびプロファイルを最適化し、タイヤが路面に接する際の接地面積を最大化。コーナリングフォースが約5%もアップしている。
エンジンも2013年以降600馬力のままだが、「パワーでタイムアップしたと思われたくない」「1馬力も上げずに、タイムを上げていく」という開発陣の意向で、レスポンスのいいGT-R NISMO GT3のタービンや気筒別点火時期制御など細かい部分もチューニング。600馬力級のマシンとしては、ターボラグがほとんどない、無類のハイレスポンスエンジンに仕上がっている。
「正直、現状で投入できる技術は全部盛り込み、やりつくしました」と開発者がいうほどの渾身の一台。
「GT-Rで究極を目指していろいろなことを試したり、開発をしてきたおかげで、他車種のNISMOのロードカーやアフターパーツにフィードバックできました。GT-R NISMOの存在意義はすごく大きなものにあります。GT-R NISMOを知っているからこそ、できるクルマ、パーツがあるので、コストの面をある程度、度外視してまで作る意味は十分あると思います」
ランボルギーニにもフェラーリにも作れない、ジャパニーズ・スーパーカーであり、ポルシェ911のような長寿モデルという点を見ても、2420万円は、むしろ「安い」といえるプライスだ。
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