創設2年目を迎え、新たにFIAステータス認証を取得した『FIA TCRワールドツアー』の第2戦が、5月2~4日にモロッコ・マラケシュのサーキット・モーレイ・エル・ハッサンで争われ、約7年前の同地でWTCC世界ツーリングカー選手権にデビューし、予選で最速タイムを記録していたヤン・エルラシェール(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コー03 TCR)が「忘れ物を取り戻す」完璧なポール・トゥ・ウインを達成。続くレース2も僚友マ・キンファ(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コー03 TCR)が制するなど、強豪が息を吹き返す復活劇を演じている。
ツーリングカーではおなじみの開催地として知られるモロッコのサーキットにとっては、世界的なパンデミックが発生する以前となる2019年以来の国際レース招聘となった。この市街地コースでイベント初開催となった2009年当時は全長4.545kmのコースが設定され、その後2012年から2019年まで使用されていた2.971kmのレイアウトがWTCC時代から定着してきたが、今回はさらにその短縮版となる1.701kmのショートコースが新たに設定された。
元王者ジロラミ完勝。新型クプラ・レオンVZが2戦連続のワン・ツーデビュー/TCRヨーロッパ開幕戦
そのモロッコと言えば、国際舞台で地元の盟主として名を馳せたメディ・ベナーニが、今回のイベントでは招待選手としてチーム・クレーレ・スポーツより参戦。デリバリーが開始された新型クプラ・レオンVZ TCRのステアリングを握り、こちらも今季よりTCR世界戦に挑戦するゴート・レーシングからは、同チームのTCRヨーロッパ・レギュラーを務めるドゥサン・ボルコヴィッチが、FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCRでワールドツアーのグリッドに加わることになった。
その全15台による勝負となった週末最初のFP1は、開幕勝者で初代“World Tour”チャンピオンに輝くノルベルト・ミケリス(BRCヒョンデN スクアドラ・コルセ/ヒョンデ・エラントラN TCR)がトップタイムを記録する。しかし補正重量の40kgを搭載したヒョンデは、いかにフェイスリフトを受けたアップデート版と言えども、ここからは苦しい展開が続くことに。
代わって主役の座に就いたのは、今回からBoP(バランス・オブ・パフォーマンス)重量が20kg軽量化されたリンク&コー03 TCRで、一足早く昨季にもフェイスリフトを受けている新型モデルの“2冠”王者は、FP2での最速を皮切りに予選Q1ではトップからわずか0.024秒差の2番手、そしてQ2では0.259秒差で逆転ポールポジションをさらってみせた。
「良い予選だった。チーム全員によってうまく運営されていたし、このラップをまとめるためにクルマに多くの労力を費やした。決して簡単なことではなかったよ」と、まだ若干20歳だった約7年前のマラケシュで当時RCモータスポーツが走らせた『ラーダ・ベスタWTCC』で予選最速タイムを記録するも、計量未計測で結果から除外の憂き目にあっていたエルラシェール。
■圧倒的なワン・ツー勝利も「簡単ではなかった」と元王者
「数年前の2017年、僕はレース1をポールからスタートするはずだったのに、失格になったのをみんな覚えているかな? それは僕にとってWTCCでの初めてのレースだったんだ」
「こうして数年後にポールポジションからスタートできることをうれしく思うし、適切なタイミングでクルマの能力を最大限に引き出すことができた。埋め合わせをするチャンスを得たんだから、明日のレースに全力を注ぐ必要があるね」
迎えた現地土曜、午前11時30分からのオープニングヒートは、息苦しい暑さのなかでタイヤを温存することが最大の課題となるなか、フロントロウに僚友のサンティアゴ・ウルティア(リンク&コー・シアン・レーシング/リンク&コー03 TCR)を従えたエルラシェールが、グリッド最上位からほぼ独走状態へ。
オーバーテイクの機会さえない圧倒的なワン・ツー勝利を収めたにも関わらず、レース後のWTCR世界ツーリングカー・カップ元王者は「自分の思いどおりにはことが運べなかった」とし「仕事は終わったが簡単ではなかった」と明かした。
「ストリートトラックではスタート時に何が起こるかわからないが、レース中はずっと賢くプレーするべく、背後のサンティ(ウルティア)から良いサポートを受けることができた」とエルラシェール。
ただし気温34度の条件で路面温度も50度近辺まで激しく上昇し、36周を走破したコクピット内部も「60度を超えるような状況だった」と続ける。
「タイヤが長く持たないのでかなり大変だったよ、可能な限り速く走らせつつ、マネジメントしてライフを節約しなければならなかった。この条件で36周というのはかなり長い。とくに運転席は65度に達するような状況だしね。でもチームにとって良いポイントになったし、チャンピオンシップはまだ長いよ」
続くレース2も、予選トップ10リバースの採用で中国人ドライバーがポール発進を決めると、その背後に並んだエステバン・グエリエリ(ゴート・レーシングチーム/FL5型ホンダ・シビック・タイプR TCR)とボルコヴィッチのホンダ艦隊が追走する状況で、ポジション変動の脅威なく“ライト・トゥ・フラッグ”を達成する結果に。
一方で、タイトル争いの主役となるエルラシェールとミケリスは、オープニングラップのターン1で接触し、エラントラN TCRにダメージを与えたエルラシェール自身はレース中盤でリタイアを喫する事態に。
このインシデントに対し、スチュワードは「問題を徹底的に検討した結果、168号車(エルラシェール)のドライバーがT1で105号車(ミケリス)を押し、クルマをスライドさせてポジションを奪ったという衝突の責任があると判断した」とし、次戦ミドオハイオでの3グリッド降格とペナルティポイントを与える裁定を下した。
その北米大陸でのFIA TCRワールドツアー第3戦ミドオハイオは、6月8~9日の週末にスポーツカー・コースで争われる。
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