トヨタがめざす「もっといいクルマづくり」の新たな開発拠点、テクニカルセンター下山(Toyota Technical Center Shimoyama)が一部稼働を開始。ニュルブルクリンクを参考に設計されたという新たなテストコースの印象はいかに?(ホリデーオート2019年7月号より抜粋/再構成)
国内で稼働するトヨタ自動車の研究開発拠点は3箇所。製品開発の要である本社テクニカルセンター(愛知県豊田市)、将来のクルマに生かす技術を先行開発する東富士研究所(静岡県裾野市)、そして寒冷地試験や超高速試験を行う士別試験場(北海道士別市)だ。
インプレッサWRX STIの系譜 “鷹の目”と言われた第二世代の最終型
いずれも国内有数の規模を誇る広大な敷地と巨大な施設だが、さらなる「もっといいクルマづくり」を目指して、本社からクルマで30分(約12km)という利便性に優れた下山地区(豊田市と岡崎市にまたがる山間部)に新たな研究開発拠点「Toyota Technical Center Shimoyama」の建設を進めている。
まず驚かされるのは、約650ヘクタールにも及ぶ広大な敷地だ。同社の東富士研究所も広いが、その3倍弱、東京ドームのおよそ140個分に相当する。しかも総工費は約3,000億円。ちょっとした国家プロジェクト並みである。
注目すべきは環境への配慮が隅々まで行き渡っているところ。水源としての機能、貴重な動植物の生育環境保全、周囲の自然環境との連続性等々。実際に研究所の周囲は自然林に覆われていて周囲の里山と見事に調和している。外から見ても、その中に自動車の研究開発施設があることは窺われない。
この広大な研究開発施設が最終的に完成するのは2023年度。今回、一部自動車メディアに公開されたのは、第1期工期として2019年4月に完成したばかりのカントリー路である。名だたる難コースとして知られるドイツ・ニュルブルクリンク北コース(=ノルドシュライフェ)を模した総延長5,385メートルのテストコース。本物のノルドシュライフェは1周2万832メートルなので4分の1スケールではあるが、自然の地形を生かしたアップダウン(高低差約75m)や先が読めないブラインドコーナー、摩擦係数の低い路面、狭いコース幅やジャンピングスポットなどなど、本物を彷彿とさせる難コースに仕上げられている。ここを発表されたばかりの新型GRスープラで試走してきた。
まさしく小さなニュル。過酷なコースが「もっといいクルマ」を生み出す
新型GRスープラの評価はさておき、このコース、かなり手強いと感じた。実はノルドシェライフェを模したと伝わるテストコースは、ホンダ(北海道・鷹栖)や日産(同・陸別)も所有している。もっとも、このふたつはあくまでニュルは参考レベルで、サーキット風味のテスト路という印象がある。まさしく小さなニュル。過酷なコースが「もっといいクルマ」を生み出す
一方、今回の下山では前述2社のそれよりも平均速度は低めに設計されていると思われるが、クルマとドライバーにかかる負担はもっとハード。続々と登場するブラインドコーナーは前後左右から上下まで、絶え間ない重力変化が遠慮なくドライバーとクルマを襲う。
さらにコーナーから逸脱してしまった際の待避路(エスケープゾーン)が狭いので、心理的な圧迫感も相当なものだ。まさに手に汗を握る。こんな過酷なコースでも安心してハンドルを握れるクルマこそ、トヨタがめざす「いいクルマ」だ。
実際に設定速度で走れば、十分にクルマに負荷がかかるようになっているそうだ。しかも、それぞれのコーナーは異なるテーマが与えられており、仮にひとつ目をうまくクリア出来ても、その次に異なる「課題」が待ち構えている。それを瞬時に理解・解析する能力がドライバーに求められると同時に、その操作に応えられるクルマも求められる。「クルマを鍛え上げ、味づくりを徹底的に実施」するために設計されたテストコースであることを実感する。
今回、試走したカントリー路エリアは広大な研究開発施設の一部でしかない。2021年度には、2kmの直線路を組み込んだ超高速周回路(写真)を含むテストコースエリアと車両実験棟エリアも完成予定。さらに2023年度には新ビジネスの企画・設計拠点となる車両開発エリアが完成する。まだ、ここで鍛え磨き抜かれたクルマは世に出ていないが、それは時間の問題。従来のように世界中でテスト走行を重ねるとともに、新たなテストコースで鍛え上げることで、走る歓びをさらに高めたトヨタ車が世に出始めるのは、そう遠い日のことではない。
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