質実剛健を旨とするダイハツが真面目に作った遊びグルマ
トヨタ・グループの一員として、おもに軽自動車やサブコンパクトカーの開発でリーダーシップを発揮しているダイハツ工業。以前にフェロー&フェローMAXを紹介したときにも触れたように、大阪大学工学部の前身であった大阪高等工業学校の研究者が中心になって設立された発動機製造株式会社に端を発しています。
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それもあって、質実剛健なクルマづくりが身上ですが、かつてはフェロー&フェローMAXのSSで見せたように軽自動車のパワーウォーズに参入したり、MAXでは軽自動車初のハードトップボディをトライしてみたり、と“それだけ”ではない、クルマも幾つか登場させていました。そんななかでも、もっとも世間を驚かせた1台がフェローバギィです。今回は質実剛健を旨とするダイハツが真面目に作った遊びグルマ、フェロー バギーを紹介します。
レーシングカーや電気自動車とともにモーターショーに参考出品
フェローバギィがお披露目されたのは1968年(昭和43年)の10月26日に開幕した東京モーターショー。ダイハツのブースには、同年の日本グランプリにおいてGPIクラス優勝(総合10位入賞)を果たしたレーシングカー(グループ6のレーシングスポーツ)のダイハツP-5が展示されました。また、商用車館では軽商用車のフェロー・バンをベースにした電気自動車が参考出品されるなど、研究開発でさまざまなチャレンジを実践していたダイハツらしい展示車両が多く見られていました。 そんなダイハツのブースのなかで、ひときわ異彩を放っていたのがフェローバギィでした。バギー(Buggy)はもともと馬車のタイプのひとつを指すものでしたが、近年では1960年代に北米の西海岸で人気が急上昇した、軽便なボディを持ったクルマを指すことが一般的になっています。
当時からバギーはフォルクスワーゲンをベースにして、ボディの上屋を取り去りオリジナルのボディに乗せ換えて作られたケースが多く見られました。また多くのカーアクションで知られる俳優のスティーブ・マックィーンは、NASAが設計した鋼管スペースフレームにシボレーV8エンジンを搭載したクルマをGMに特注。オフロードレースとして知られるバハ1000kmにも参戦していましたが、このクルマもバギーの一種とされています。
さて、1968年の東京モーターショーに参考出品された「フェローバギー」です。1966年10月に発売されたダイハツの軽乗用車、フェローを名乗っていますが、ベースとなったのは乗車ではなく軽商用車(ピックアップトラック)のフェローピックアップ。ハイゼットのピックアップがベースになったとの解釈もありましたが、ダイハツの広報資料ではフェローピックアップがベースになったと明記されています。 誤解が生まれた原因は、フェロー(のセダン)がモノコックボディでサスペンションが4輪独立懸架であるのに対して、フェローバギーはラダーフレームでリヤサスもリーフリジッド。これはフェロー(の商用車)の前身である、ハイゼットピックアップと同じだったからでしょう。ところが、ダイハツ初の軽乗用車となったフェローには商用モデルのピックアップも存在しており、そちらはラダーフレームでリヤサスもリーフリジッドを踏襲していて、これがベースとなったようです。
何よりもフェローの型式はセダンがL37SでピックアップはL37P(Sはセダン、Pはピックアップ)。フェローバギーは、L37PB(Bはバギー)とされていて明らかにフェローシリーズ(L37系)のピックアップから派生したことを示しています。ちなみにダイハツでは市販するにあたって、モーターショーのときに使用していたフェローバギーではなくフェローバギィを正式名称としていました。
時代を先取りしすぎたユーティリティ・ビークル
モーターショーに出展されたフェローバギーには、スピードとビーチ、カントリーの3タイプが用意されていました。
ラダーフレームのフロントに、フェローの2サイクル2気筒の水冷ユニットを搭載し後輪を駆動。サスペンションはフロントがコイルで吊ったダブルウィッシュボーン、リヤがリーフリジッドで、フェローピックアップのシャシーが流用される格好となっていました。
エンジンは、モーターショーの時点ではスピードとビーチにはフェローSS用と同じ32ps仕様が、カントリーにはベースモデルに搭載されている23ps仕様が搭載されていました。FRPで成形されたボディは3タイプともに基本的に共通で、ドアもないオープンボディとなっていましたが、ビーチのみはドア部分を削り取ったような形状となっていて乗降性も、少しだけ考慮されていました。 フロントウインドウはジープなどでよくみられる可倒式で、これを起こしたウィンドウフレームの上部に幌の前端を装着するソフトトップが採用されていました。またベースとなったフェローピックアップ同様、登録(軽自動車なので正確には届出)は軽商用車となり、そのために必要なカーゴスペース(荷台面積)をボディ後方に設けていて、最大積載量も150kgを確保していました。それもあって、軽トラックとして考えれば充分なユーティリティを持っていたのです。まぁ、随分モダンなトラックでしたが……。
室内(クルマは個室と言うけれど、これはテラスとかベランダじゃない? との声もありますが)じつは十分に開放的で、FRPでボディと一体成型されたダッシュボードには、フェローから転用されたスピードメーターをセンターにマウント。ドライバー正面にはワイパーやライトのスイッチが取り付けられていました。
シンプルと言えば究極のシンプルですが、決して安っぽくなかったのは、クルマの存在そのものが非日常だったからでしょうか。モーターショーではさらにフェローSSから転用されたタコメーターやナルディタイプのステアリングも奢られていましたが、市販モデルではタコメーターはなく、ステアリングもベースモデルのそれが流用されていました。
ちなみに市販されたものは、モーターショーに出展されていた3タイプのうち、ドア部分がえぐられていたビーチをベースに通常のボディに変更した1グレードのみ。ふたり乗車/最大積載量150kgのトラックとして発売されました。今見ても斬新なコンセプトでしたが、残念ながら早すぎた登場だったということかもしれません。
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みんなのコメント
バモスホンダなんかもそう。
現代の軽自動車よりはるかに自由な感じ。