2020年2月のドイツ・オペルブランドの日本再導入が発表から、約1年半となる8月4日、オペル日本サイト開設が発表され、日本導入に向けた情報のアップデートが行われた。現時点では、2022年上半期のディーラーオープンと販売開始を予告している。
ドイツの自動車メーカーのオペル(OPEL)は現在、PSAとFCAが合併してできたステランティスグループの傘下にある
日産初代プリメーラが欧州車を超えたと高く評価された本当の理由
かつてオペルは日本にも正規導入されていたが、2006年に完全撤退を発表。そのためクルマ好きであっても、あまりオペルについては詳しくないだろう。そこでオペルとその日本販売の歴史を簡単に振り返りつつ、再導入されるオペル車についても合わせて紹介したい。
文/大音安弘、写真/OPEL、FavCars
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■ドイツ最大のミシンメーカーから始まったオペル
オペルの歴史は、とても古い。アダム・オペルによって1862年に創業されたミシンメーカーが原点だ。これが大成功を収め、瞬く間にドイツ最大のミシンメーカーへと発展。その高い技術力を活かし、自転車の製造にも進出し、ミシンと自転車の両方で、その名を欧州に広めた。
意外なことに、自動車への進出は、創業者アダム・オペルの死後となる。ライバルとなる自転車メーカーの増加による販売減から、会社を引き継いだ5人の息子たちによって自動車への取り組みが始められた。
しかし、自動車は新技術と複雑な機構の塊で、同社のとって未知の世界だ。そこで自動車メーカーへの第一歩は、少量生産を行っていたルツマン(ドイツ)のパテントと生産設備などいっさいを買収。1898年にプロトタイプを完成させ、自動車メーカー「オペル」としての歩みをスタートさせる。
オペル ルッツマン(Lutzmann)。単気筒 1.5L、3.5psのエンジンをリアに搭載、1899年から1902年の間に65台製造された
しかしながら、オペル第一号車となる「4HPシステム ルツマン」は、あまりにも原始的で、ライバルとなる他車との勝負は厳しく、すぐに生産打ち切りを決断することになった。
■ターニングポイントとなったGMとの提携
次の手として選んだのが、1902年よりスタートしたダラック(フランス)のライセンス生産だ。ダラック車の経験を基に、独自の開発にも着手することで、自動車メーカーとして急成長を遂げたオペルだが、その背景には、モータースポーツに積極的に参加して活躍を見せる一方、ドイツの他社に先駆けて、価格を抑えた小型車にも力を入れるなど柔軟かつ積極的な姿勢が功を奏したようだ。
ターニングポイントとなったのは、第一次大戦後のこと。低価格のアメリカ車進出により、戦後の痛手を引きずるドイツの自動車メーカーは厳しい淘汰に見舞われる。多くが廃業する中で、オペルは、GMと接触し、提携を打診した。
最終的には、1931年にGMの完全な子会社となっている。このように自動車メーカーとしての歴史の多くは、GMとともにあったのだ。その後は、GMの欧州戦略の拠点として大きく活躍する。また世界的ニーズの高い小型及び中型車の開発拠点としても大きな役目を担った。
日本との縁といえば、GMのグローバルカー構想で生まれた車種たちが思い出される。1970年代に展開された「Tカー」は、オペルでは第3世代のガデットとなったが、このガデットをベースに生まれたのが、いすゞの初代「ジェミニ」である。さらに80年代に送り出された「Jカー」は、オペルの中型車である第3世代「アスコナ」をベースに、いすゞ初代「アスカ」が誕生している。
オペル アスコナ(Ascona ) 1970年から1988年まで製造された。いすゞアスカ(初代)はアスコナ3代目の姉妹車となる、またWRCでアスコナ400が活躍した
■過去の日本でメジャーだったオペルのクルマ
日本での販売は、古くから輸入元を変えて行われてきたが、オペル車が最も注目を集めたのは、2000年に公開されたTVドラマ「Beautiful Life~二人でいた日々~」での車両提供だろう。
木村拓哉演じる美容師と、常盤貴子演ずる難病を患った車いすの女性との恋を描いた連続ドラマだが、車いす女性の「町田杏子」の愛車がハンドキャップ仕様となったオペルヴィータだった。
日本で1995年から2004年まで販売されたオペル ヴィータ(VITA)。海外ではコルサ(CORSA)だが日本では商標の問題で改名された
小さく愛らしいヴィータと健気で優しい杏子の人柄のイメージが重なり、ドラマの好調はヴィータの売上貢献にも影響を与えたと聞く。世間の関心をオペルに向けるきっかけとはなったが、オペル自体の認知に繋げることはできず、これ以降のヒットには恵まれなかった。
また異色の存在としては、オペルのミニバン「ザフィーラ」をベースとして、2001年よりスバル「トラヴィック」が販売されていたこともある。しかしながら、同時にオペルザフィーラも販売が継続されていたため、トラヴィックの存在は、輸入車らしい価格であったザフィーラの存在意義を薄めることになり、オペルブランドの販売低下に拍車をかけることに。結果的には、オペル日本撤退に大きく影響を与えたとも言われている。
オペル ザフィーラ(Zafira)。初代ザフィーラは当時GMと資本提携のあったスバルがトラビック(TRAVIQ)として2001年から日本でOEM販売していた
2017年にオペルは、オペルの姉妹ブランド「ボクスホール」とともに、GMからグループPSA傘下に収まった。その後、新経営戦略「PACE! 」が策定され、再び世界に名を轟かせるオペルとなるべく、積極的な世界進出を描いた。現在、世界60か国に展開しているが、2022年までには、新たに20以上の市場を開拓するとしている。そのなかに日本への再進出が含まれていたのだ。
■日本復活第一弾に予定されているのは三車種
今回の発表では、日本導入を予定している車種についても情報がアップデートされた。2020年の発表時では、コンパクトハッチ「コルサ」、スライドドア付きMPV「コンボ ライフ」、コンパクトSUV「グランドランドX」の3車種としていた。しかし、最新の発表では、「コルサ」、「モッカ」、「グランドランド」の3車種に改められている。
2019年に欧州で発売された新型『コルサ』。プジョー208やDS3クロスバックと同じEMP1プラットフォームを採用する
2020年に発表された新型の2代目モッカ(MOKKA)。デザインのベースにコンセプトカー「オペルGT Xエクスペリメンタル」を採用し、次世代のブランドアイデンティティと先進性を表現する
2021年に改良されたCセグSUVの新型グランドランド(GRANDLAND)。このクルマをオペルでは「フラッグシップSUV」と位置付けている
コルサは、Bセグメントのコンパクトハッチバックで、かつて日本では「ヴィータ」として販売された。最新世代は、2019年に発売されたシックなデザインの5ドアハッチバックで、日本にはガソリン仕様とEV仕様のふたつのパワートレーンを導入する予定だ。
ガソリン仕様は、最高出力100psの1.2L 3気筒ターボエンジンにパドル付き8速ATを組み合わせる。EVとなる「eコルサ」は、50kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載。最高出力136ps、最大トルク260Nmを発揮する。これらの性能からもわかるように、メカニズムとプラットフォームはプジョー208などと共有している。
モッカは、BセグメントのコンパクトSUVで、最新世代となる2代目は2020年に登場。オペルの新デザインコンセプト「BOLD&PURE」を初採用したスタイリッシュなSUVだ。コックピットもディスプレイメーターを中心とした先進的なデザインで、スペシャルティな色合いも強いモデルだ。
日本仕様には、1.2L 3気筒ターボと8速ATの組み合わせが予告されている。ボディサイズは、全長4151mm×全幅1790mm×全高1523mm(欧州値)なので、日本の道路でも扱いやすいサイズのようだ。
グランドランドは、CセグメントのコンパクトSUVだ。当初、日本導入モデルは「グランドランドX」だったが、このモデルが2021年の改良型で、名称を改めたものだ。グランドランドXは、2016年に発売されたものだが、当時、グループPSAとの協業が進められていたため、プラットフォームは、EMP2をベースに開発されている。
パワーユニットは、最高出力130psの1.5L 4気筒クリーンディーゼルターボを搭載。現時点ではオペルのフラッグシップモデルとなるが、ボディサイズは、全長4480mm×全幅1840mm×全高1615mmと程よいサイズとなっている。
当初予定されていた「コンボ ライフ」は、「シトロエンベルランゴ」と「プジョーリフター」の姉妹車となるモデル。候補に挙がったことからも、将来的には導入の可能性は高いと見られるが、スタート時は、日本市場で世界的なブームが続くSUVを中心としたモデルラインとすることで、オペルを訴求させることを目的としているのだろう。
■16年ぶりの復活に期待!
グループPSAの技術を多く取り入れて開発させている最新世代のオペルは、日本でもシトロエンとプジョーが順調な販売拡大を見せていることからも、質感や走りについては同等のものが提供されると考えてよいだろう。
気になるのは、その味つけとブランドの世界観だ。以前の日本撤退発表から16年のブランクがあるだけに、新オペルは未知の存在といっても過言ではない。世界の名立たる輸入車ブランドが鎬を削る日本で、どんな魅力を提案してくれるのか、楽しみだ。
2018年に公開されたオペル「GT X EXPERIMENTAL」 コンセプト。このクルマはオペルデザインの新しい方向性をかたちにしたもので、次世代へのブランドアイデンティティを表現している
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