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F1日本グランプリでアストンマーティンのパドッククラブに潜入。コンチネンタルサーカスの世界を知る

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F1日本グランプリでアストンマーティンのパドッククラブに潜入。コンチネンタルサーカスの世界を知る

 9月22~24日、三重県の鈴鹿サーキットで開催され、3日間を通じて22万2000人が来場、決勝日だけでも10万1000人という多くのファンが訪れたF1世界選手権第17戦日本グランプリ。このレースに、国内レース取材歴21年目の筆者がアストンマーティンのご厚意で招待をいただき、初のF1をいきなりのパドッククラブで体感した。これまでオートスポーツwebにはパドッククラブを紹介した記事がなかったこともあるので、どういったものだったのかをレポートしよう。

 まず、そもそも読み始めた読者諸兄の中には、「は? モータースポーツに関わっていながら初のF1!?」というところで驚かれた方も多いだろう。いちおうこれについてはさまざまな理由があるのだが、もともと47歳の筆者がモータースポーツに興味をもったきっかけのひとつがF1(初のテレビ観戦はあの1989年日本GP)ではあるものの、若かりし頃は現地で観戦する費用を作る余裕がなく、20年前にこの仕事を始めてからは、最初のうちは限られた取材パスもウェブ媒体よりも雑誌媒体が社内では優先、そうこうするうちに国内での仕事が多忙になり、いつしかF1が縁遠い世界となっていたのが主な理由だ。もちろん、F1マシンがデモラン等をしているところは観ているのだが。

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 当然、9月22~24日は自宅でテレビ観戦でもするか……と考えていたのだが、以前の仕事の繋がりで、アストンマーティンからパドッククラブへのご招待をいただいた。現地オートスポーツweb取材班は別にいるので、今回は単純にパドッククラブを楽しみ、その雰囲気をお伝えするのが目的。これまで「一生F1を観ないまま仕事を終えるのかな」と思っていたのだが、形はどうあれ、勉強として最高峰を観ておこうとお言葉に甘えることにした。

■『パドッククラブ』とは何か? 購入も可能
 現地の様子についてお届けする前に、まずはパドッククラブについておさらいしておきたい。日本グランプリの場合、ピット棟2階に設けられるのがパドッククラブ。『F1ホスピタリティの頂点』とされる最高級のホスピタリティが設けられ、ピットレーン上から観戦が可能。また専用のピットウォーク、食事、パドック、ガレージツアーなどさまざまな体験をすることができる。

 日本グランプリで言うと、さらに駐車場もサーキット内部(今回は交通教育センター)で、専用の送迎がつく。ちなみに誰でも購入が可能だが、2023年F1日本グランプリの場合、鈴鹿サーキットの販売価格で3日間で78万円。ストレート向かい側のV2席と比べておよそ10倍近い値段だ(ただし、鈴鹿サーキットでの購入の場合はそれ専用のホスピタリティルームとなり、筆者が訪れたアストンマーティンのルームとは別。価格も違うという)。

 ただし、制約もある。ドライバーや関係者が行き交うパドックに下りるためには、専用のVIPパスが必要で、今回の筆者の場合はツアーのたびに用意されるかたちで、自由に下りるわけにはいかない。ドライバーや関係者に接近することはほとんどなかった。筆者はふだん国内レースでは汗をダラダラかきながら、撮影のためにコースサイドに行ったりピットを行き来している立場だが、その日常からすると「みっ身動きがとれん!」という感覚だった。かなり特殊例だとは思うが。

■そこは至高のF1観戦が楽しめる世界
 さて、実際のパドッククラブの様子をお届けしよう。今回は決勝日のみだったが、朝、鈴鹿サーキットに到着。今年だけで8回目の鈴鹿だが、もう周囲の雰囲気からして完全に異なっていて、ファンの皆さんの数が尋常ではない。交通教育センターでクルマを下りた後、ひっきりなしにやってくるパドッククラブ専用のホンダ・ステップワゴンの送迎車に乗り換える。ドアの開閉をスタッフがしてくれる時点で恐縮してしまう。

 ふだんのレース時はあまり立ち寄ることがないセンターハウスの1階にはパドッククラブ専用のゲートが設けられ、和服美人がお出迎え。セキュリティも多い。事前にいただいた金色のパスをゲートにかざしセンターハウス2階に上がると、そこはもう別世界。ウエルカムドリンクが手渡され、目の前で生演奏をしている。大型のモニターが備えられ、F1公式グッズなどもその場で買える。

 センターハウスを抜け、おなじみのブリッジを通るが、左右にはピザやビールのコーナーが。今回のアストンマーティンのホスピタリティエリアは9番の部屋だったので、そこに向かうと、中にはグラス、シルバーが並べられたテーブルがズラリ。こちらも大きなモニターが設けられる。

 もちろん、コース側のドアを開ければピットレーンを上から観られるテラス席に出る。ピット作業は真上から、スタートもバッチリ横から観ることができる。部屋に戻れば、一流のスタッフによる食事、ドリンクをいくらでも楽しめる。

■アロンソ登場。ピット作業も真裏から
 ただ良い席で、食事を楽しめるだけではない。しばらく待っていると登場したのは、アストンマーティン・アラムコ・コグニザントF1チームのエース、フェルナンド・アロンソだ。アロンソ本人を生で見るのは、2003年か2004年かのルノー時代のイベント以来だったので20年ぶりくらいだ。

 アロンソはパドッククラブの来場者に向け、予選を振り返りつつ意気込みをコメント。これほどの近さでコメントが聞けるのは、パドッククラブの特権だろう。さらに、しばらくすると新たなパスを手渡され、専用のゲートを尽くしてパドックへ。ピット内を立ち入り、最新のF1を間近で見ることができた。う~んデカい。スーパーフォーミュラSF23よりもひとまわり大きい印象だ。

 また、枠が限られていたため筆者は参加しなかったが、ピレリ・ホットラップも参加可能。アストンマーティンはヴァンテージをF1セーフティカードライバーのベルント・マイランダーが、SUVのDBX707はストフェル・バンドーンがドライブ。超豪華なホットラップ担当だ。

 さらに、ピットの真裏に設けられたスペースでファンが観ている光景をテレビでも観たことがないだろうか? 『ガレージツアー』と呼ばれるこのツアーを体験することもできる。無線とコース上の映像とピット内の様子を同時に観るなんてことは、国内レースではメディアでも体験することはできない。これだけの経験をできると考えると、3日間で78万円という価格は「高くないのでは?」とさえ思ってしまった。もちろんすべてのパドッククラブで同じ体験ができるわけではないのでご了承を。

■全世界をまわるスタッフ。コンチネンタルサーカスの世界を体感
 もちろん決勝レースもピット棟の上からそのまま観ることができたが、筆者にとってはやはり興味深かったのは、F1という世界とパドッククラブという場だ。世界各国での他のグランプリでもこのパドッククラブは設けられており、今回の日本グランプリでも、ケータリングサービスやスタッフはそのままほとんど外国人スタッフが行っている(イコール、英語が必要)。食事も日本ならでは……というものではなく、洋風でヨーロッパで食事したときと味が近い。

 すなわちスタッフたちはこの後別のグランプリにそのまま移動していくワケで、レースを戦っていたドライバー、チーム以外に、どれほど多くの人たちがF1というものに関わっているのか驚かされた。昔からよく使われる『コンチネンタルサーカス』とはまさにこれ。フォーミュラワン・マネージメントの力の大きさ、お金のかかりぶりはモータースポーツ最高峰ということを痛感させられた。国内レースに足りない部分があることも。

 そんなパドッククラブだが、参戦する各チームやスポンサーのパスがある。アストンマーティンがなぜこのパドッククラブを出すのかを見聞きすると、これもF1らしさというべきか、ヨーロッパ文化が見えてくる。

■パドッククラブという存在がもつ意味
 アストンマーティンという伝統のスポーツカーブランドは、その歴史とモータースポーツで培われた文化とは切っても切り離せない関係にある。オーナーたちはそのクルマがもつポテンシャルに加え、そういった歴史とバックグラウンドに惹かれクルマをパートナーとする。

 そんな世界各国のオーナーたちが、ブランドの挑戦の最高峰であるF1という舞台を楽しむためのエリアがパドッククラブと言える。今回アストンマーティンのチーフクリエイティブオフィサーで、F1にも深い造詣をもつマレク・ライヒマンと同席する機会があったのだが、彼はアストンマーティンの母国イギリスらしく、競馬に例えて説明した。

「モータースポーツでもそうだが、競馬では、“ただ観戦する”人は目の前を通過する馬を観るだけだ。しかし、馬主であればパドックに入り、馬の調子を確かめ、専用の席で観るだろう。それと同じことだ」とライヒマンは言う。

 オーナーならば誰しもが楽しめるわけではなく、限られたオーナーのみの特権だが、パドッククラブはF1で活躍するブランドに貢献・所有する人たちの社交場……というのが率直な印象だ。ちなみに、そういった場に慣れていない筆者は恐縮し続け、食事もドリンクもろくに楽しめないまま一日が終わったのは言うまでもないのだが。こういうときは己の貧乏性を呪わざるを得ない。

 初めてのF1を、その世界観を知ることができる席から味わわせてくれたアストンマーティンには感謝申し上げたい。

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