内燃エンジン版と似た運転した印象
まだ発展期にあるバッテリーEVだからこそ、新領域へ挑むチャンスがある。大胆なチャレンジは難しいご時世だとしても。
【画像】マフラーの音が懐かしい? アバルト500e ミニ・クーパー SE 1950年代のオリジナルも 全141枚
自動車市場には、宇宙船のような新モデルの購入をはばからない、新しい物好きのアーリーアダプターが一定数存在する。しかし、バッテリーEVのラインナップがある程度出揃い、ほぼ彼らは満たされたといっていい。
2024年の欧州では、アーリーマジョリティへターゲットが進んだ。高い価格は諦めつつ、もっと親近感の湧くモデルが望まれている。そんな人たちの共感を得るであろうモデルが、最新のアバルト500eとミニ・クーパー SEだ。
どちらも、1950年代に発売されたオリジナルを想起させる、馴染みのあるスタイリングをまとう。内燃エンジン・モデルから乗り換えても、深刻なカルチャーショックを受けないよう、技術的な開発も施されている。
実際、今回の比較試乗の前に、3気筒エンジンを積んだ新世代のミニ・クーパー Cをしばらくお借りしていた。その後に電動のクーパー SEへ乗り換えたのだが、殆ど違和感がなかったことに驚いた。運転した印象は、とても似ている。
もちろん、ATが変速することはない。エンジンノイズも聞こえない。ところが公道に出れば、同じファミリーであることを実感する。内燃エンジン版とプラットフォームが異なるにも関わらず。
ドライバーズカーとしての高い可能性
カメラマンのマックス・エドレストンも、アバルト500eを運転して、アバルト595の延長にあると話していた。両メーカーが狙った、親しみやすさが体現されているのだろう。それはつまり、既存のホットハッチと直接的に比較されることも意味する。
果たして、小さな電動ホットハッチというコンセプトは、完成の域へ至ったといえるだろうか。内燃ホットハッチと、実力は肩を並べただろうか。今回は、これを小さな2台で検証してみたいと思う。
アバルト500eの発売時にも、同様の疑問を抱いた。その頃はまだ電動のライバルが存在せず、比較は難しく、ちょっと答えを濁した。それでも、ドライバーズカーとしての高い可能性を感じたことは間違いない。
筆者がアバルト500eを運転するのは久しぶり。AUTOCARを定期的にお読みいただいているなら、これが長期テスト車両だとお気づきかもしれない。車内にはチョコレートバーのパッケージと、犬の匂いが残っていた。日常的な親和性は高いようだ。
改めて接してみると、フィアット500eも含めて、多くの関心を集めることへ納得できる。先代よりひと回り大きくなったが、まだ間違いなく小さい。ユーロNCAPの安全性試験を考慮すれば、拡大は避けられない。
全長が短く、シルエットはキューブのよう。ブリヂストン・ポテンザが、ボディの四隅で踏ん張っていて可愛い。
ステアリングホイールの感触は濃く、スポーツシートの座り心地は快適。幅員の狭い田舎道でも運転しやすく、すぐに乗り慣れたクルマのように感じられてくる。
エグゾーストノートが懐かしい?
エンジンサウンドやエグゾーストノートが懐かしい、と思うドライバーもいらっしゃるだろう。だが、筆者はそうでもない。
2024年の現実は、少し息苦しそうなノイズを放つ3気筒か4気筒ターボに、多段ATという組み合わせが現実的な選択肢。パワフルでも、味わい深いとはいいにくい。
静かで瞬間的に、アバルト500eは154psのパワーを繰り出す。うるさそうな表情を浮かべた歩行者から、睨まれることはない。
英国では、内燃エンジンのホットハッチは希少になった。フォード・フィエスタ STは生産が終わり、ヒョンデi20 Nもディーラーから姿を消した。ホンダ・シビック・タイプRやトヨタ・GRヤリスは高額だし、導入台数も限られる。
アバルト500eでは、サウンドジェネレーターで人工のエンジン音を聞くことはできる。だが、ずっと2速に入ったままのようで、音質も良いとはいえずボボボッとうるさい。そのスイッチは、オフのままで構わない。
駆動用バッテリーの容量は37.3kWhあり、1度の充電で走れる距離は、カタログ値で251km。現実的には、225km前後のようだ。
車内空間は広いとはいえない。自分の身長は185cmと高めだから、太ももが座面からはみ出てしまう。シートを後ろに下げても、余裕は感じにくい。
背が低めの場合は、シートを高く設定することになると思う。身長に関係なく、右ハンドル車では左足を休めておく場所が限られるのも惜しい。
この続きは、アバルト500e x ミニ・クーパー SE(2)にて。
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