保存状態の善し悪しは市場価格を左右する?
「フェラーリ vs ランボルギーニ」のライバル関係は、国際クラシックカー市場でも同じこと。ここ数年はランボルギーニのV12ミッドシップモデルが優勢であり、当時の仮想敵だったフェラーリ各モデルと比較しても、高めの相場が定石。でもフェラーリの中でも特別な要素を持つモデルや個体は、しかるべき評価が下されているようです。RMサザビーズ北米本社が2024年8月15日~17日にアメリカ・モントレー市内で開いた「Monterey 2024」には、フェラーリ「365GTB/4 デイトナ」が登場。その車両解説と、オークション結果についてお伝えします。
フェラーリ「デイトナ」が6億円弱で落札! スパイダーがクーペより5倍も高値になる理由とは?
FRフェラーリの金字塔! 365GTB/4 デイトナとは
フェラーリ「365GTB/4 デイトナ」は、20世紀における大排気量スポーツカーデザインの範として知られ、エンジニアリングとスタイリングの新たな基準を打ち立てた名作である。
フェラーリのデザイン史上、ほかに類を見ない特異かつ優美なボディシェイプを誇るこのモデルは、フェラーリのクラシックV型12気筒FRベルリネッタの中でも特別な存在感を確立し、今日においても高く評価されている。
1968年に発表された365GTB/4は、フェラーリがロードカーに4391ccのVバンクあたりDOHCエンジンを初めて搭載したモデルである。このモデルは1967年のデイトナ24時間レースにおいて、フェラーリ「330P4」と「412P」が1-2-3フィニッシュを達成したことにちなみ「デイトナ」というニックネームで呼ばれた。このエピソードは、エンツォ・フェラーリが公式に認めたものではないにせよ、長年の定説にして伝説となっている。
レオナルド・フィオラヴァンティが手がけたボディデザイン
レオナルド・フィオラヴァンティ率いるピニンファリーナが革新的なデザインを手がけ、架装はスカリエッティが担当した365GTB/4は、時を同じくしてリアエンジン搭載のフラット12モデルが開発中であったため、じつは一時しのぎのモデルとして登場した。
フェラーリの伝統的FRグラントゥリズモの最後を飾ることになったこのモデルは、今や伝説ともいうべき、パワーとスタイルを誇示するものだった。
352psという驚異的な出力を誇る365GTB/4は、ランボルギーニ「ミウラ」を抑えて世界最速の市販車となった。エンジンの低位置配置を可能にするドライサンプ潤滑、理想的な前後50:50の重量配分を実現する5速トランスアクスル、全輪独立懸架サスペンションを採用したデイトナは、スピードに乗ったときのキレのあるハンドリング特性を実現した。
そして、タイヤの接地性に優れたワイドホイールと4輪ディスクブレーキが、優れたオールラウンド・パッケージを完成させ、最終的にはレースカーとしても素晴らしいことがル・マンやデイトナのレース現場にて証明されることになる。
ジョアッキーノ・コロンボが開発したクラシックなショートブロックV型12気筒エンジンを搭載した最後のFRフェラーリとして、デイトナは20年にわたる開発の究極の進化を遂げ、クラシック・フェラーリが織りなしてきた一連の歴史を「勝利」で締めくくったのだ。
リトラクタブルなのに、プレキシ並みの落札価格!
さきごろ「Monterey 2024」オークションに出品されたフェラーリ 365GTB/4 デイトナは、生産最終期にあたる1973年式。
つまりデイトナの中でも前期型にあたる、固定式4灯ヘッドライトを樹脂製カバーで覆った通称「プレキシ」モデルと比べると安価な市場価格となるはずの後期型、リトラクタブルモデルであるにもかかわらず、RMサザビーズ北米本社は75万ドル~90万ドル(邦貨換算約1億1100万円~約1億3320万円)というエスティメート(推定落札価格)を設定していた。
これは、近年における後期型デイトナのマーケット市況と比較すると、かなり高めの価格となるのだが、その自信を裏づけていたのが以下のヒストリーである。
1973年8月下旬に完成したこのデイトナ・ベルリネッタは、シャシーナンバー「16795」。「アルジェント・メタリッツァート(シルバーメタリック)」のボディペイントに、英コノリー社製の黒い「ヴァウモル・レザー」でトリミングされたインテリアが組み合わされているのだが、特筆すべきはモデナのスカリエッティ工場で施された仕上げの大部分が、今日に至るまで維持されていることであろう。
もともと米国市場向けのスペックで製作され、世界的クラシックカー・コレクターとしても知られたウィリアム・ハラーの有名な販売代理店「モダン・クラシック・モーターズ(MCM)」社に引き渡されたのち、そこからアイオワ州ダビューク在住のジャック・フロスト博士に新車で販売された。MCM社の納車前書式と販売に関する書簡は、今回の販売に際して添付されたドキュメントファイルに残っている。
フロスト博士は熱狂的なデイトナ愛好家だったようで、少なくとも1台の下取りと1台の工場納車を含む一連の取引で、MCMを通じて5台のデイトナ(スパイダーを含む)を購入したことが判明している。
シャーシナンバー16795は、これら5台のうちの最後のデイトナであり、ビル・ハラーからこのベルリネッタを購入したあと、フロスト博士は1980年まで走らせることなくディーラーに委託し続け、最終的にアイオワに持ち帰った。
フロスト博士は、ほかのデイトナには乗ることを楽しんでいたようだが、このシルバーのデイトナはあくまでコレクションだったようだ。彼はこの個体を登録することなく、所有期間中ずっと「イタリアンMSO」社に預けていた。そしてその数十年の間は、空調管理された保管庫で最適なケアを享受した。
ホイールやラジオなど魅力的なオプション付き
フロスト博士が1994年にこのフェラーリを売りに出したとき、21年にわたるシングルオーナーによる几帳面な管理ののちでも、オドメーターはわずか188マイル(約302km)しか表示していなかった。フロスト博士はデイトナをケンタッキー州ルイビルのケヴィン・コリンズに売却し、彼はデイトナを5年間所有したあと、オドメーターに361マイル(約581km)が表示された状態で、ペンシルベニア州の高名なディーラーに売却した。
その後は2000年10月に、ニューヨークのさるエンスージアストが入手。この時点でオドメーターは475マイル(約764km)を表示していたが、2013年後半にコネチカット在住のコレクターの手に渡り、2018年1月に今回のオークション委託者である現オーナーに売却された。
この魅力的なデイトナには、「ボラーニ」社製ワイヤーホイール、ベッカー社製「メキシコ」ラジオ、エアコンなどの純正オプションが、新車として製作された当初から装備されている。
また、エンジンとトランスアクスルもマッチングナンバーのままであり、コレクターズアイテムとしてのポテンシャルを備えているのも間違いあるまい。
くわえて、これまで報告された走行距離の増加は、オークション公式カタログ作成時の走行距離4367マイル(約7000km)が実際の走行距離であることを示唆している。
「このエレガントなベルリネッタは、ドライビングを楽しむための理想的なメカニカル・リフレッシュが施されており、公道での使用や“プリザーヴド”クラスのコンクール・デレガンスへの出品も可能である。低走行距離、マッチングナンバーのデイトナがオリジナルのコスメティックとカラーリングで展示されれば、いかなるスポーツカー・コレクションも充実したものになるに違いない」
自社カタログ内でそんな謳い文句を記していたRMサザビーズ北米本社の目論見はみごとに当たったようで、競売が終わってみればエスティメート上限に近い85万7500ドル。現在のレートで日本円に換算すれば約1億2800万円という、同じデイトナでも「プレキシ」時代の車両に匹敵する高額で落札されるに至ったのである。
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