摘発実績から伝わる活躍
「トラックGメン」は、2023年7月21日に創設された。勘違いしている人もいるのだが、トラックGメンが、「働きかけ」「要請」「勧告・公表」の是正措置を行う対象は荷主・元請運送事業者であり、実運送を行う運送会社ではない。
「手積み・手降ろし」を渇望する運送ドライバーが最近増えているワケ あれほど嫌われていたのになぜなのか
設立前の、2019年7月から2023年5月末まで、国土交通省による是正措置の実施件数は、「要請」が4件、「働きかけ」が82件である。対して、トラックGメン創設後、2024年3月31日までの約8か月で、次のように是正措置が行われている。
・勧告/公表:2件(対象となったのは、ヤマト運輸と王子マテリアの2社)
・要請:174件(荷主:88件、元請け:81件、その他(倉庫等):5件)
・働きかけ:478件(荷主:310件、元請け:158件、その他(倉庫等):10件)
それまで約4年間で86件だった是正措置が、たった8か月で654件、
「7.6倍」
も実施されたことになる。それまでが少なすぎたといえばそのとおりだが、それでもこれだけの是正措置を行ったのだ。評価すべきだろう。
是正措置は「氷山の一角」
現在、国内の運送会社は、6万3000社強ある。おそらく、過去に一度たりとも荷主・元請から、不当な取引を要求されたことがない運送会社など皆無だろう。
・運賃の買いたたき。
・対価の支払いを伴わない自主荷役など、付帯業務の強要。
・積み卸しを開始するまでの待機強要。
・高速道路料金・有料道路料金の未払い。
・過積載や異常な長時間労働など、コンプライアンス違反の強要。
「物流の2024年問題」を筆頭とする物流クライシスに対する危機意識の高まりにより、「運送会社やトラックドライバーをいじめるな」という機運も高まりつつあるのは確かだ。しかし、「お客さまは神さまだ」といわんばかりに、運送会社に対する優越的な立場を利用し、このような
「ふらちな行為」
を強要する荷主や元請事業者はいまだに存在する。トラックGメンが、運送会社を苦しめる行為に一定の効果を発揮しているのは間違いがない。だが、その効果は、残念ながら圧倒的に小さい。
運送会社数に対し、先の是正措置件数の割合は、わずかに
「1%」
である。筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)の肌感でいっても、今もなお、荷主・親請に虐げられている運送会社の数が1%しかいないわけがないし、トラックGメンが摘発した654件は、運送会社よりもはるかに数の多い、荷主を対象としたものである。創設から約1年でトラックGメンが出した実績は、このような行為を続ける荷主・元請事業者の氷山の一角でしかない。
この原因はなにか。まずひとつは、トラックGメンの数が圧倒的に少ないことだ。創設時におけるトラックGメンは162人。単純計算で、ひとりのトラックGメンが担当する運送会社数は
「390社」
となる。ただしこれは単純な頭割りであって、運送会社の数が多い都市部では、ひとりのトラックGメンが担当する運送会社数は、さらに多くなる。
筆者が、横浜市中区にあるトラックGメンを取材したのは2023年10月のこと。既に先行する報道では、運送会社に対し訪問ヒアリングを行う様子、あるいは高速道路上のパーキングエリア・サービスエリア等で、休息をするトラックドライバーにチラシを配布したり、ヒアリングを行う様子が報じられていたが、それは運送会社数が少ない地方の話である。運送会社数が圧倒的に多い関東運輸局では、電話でのヒアリングを基本としていた。
もうひとつ、摘発件数の増加を妨げる重大な要因がある。それは、トラックGメンに対し、
「非協力的な運送会社」
の存在である。
「情報を話すのは1割弱」という現実
「電話をしても、半分以上の運送会社は、『何も問題はありませんよ』と答えます。ちゃんとした情報を教えてくれるのは、1割弱ですね」
これは当時取材したトラックGメンの言葉だ。
「荷主からの報復が怖い」
「もしトラックGメンにチクったことがバレたら」
「最悪、取引を切られたら、会社の経営に影響を与える重大な事態となってしまう」
このように考え、トラックGメンへ、荷主・元請からのふらちな要求を告白できない運送会社がいる。
高速SAでトラックGメンからヒアリングを受け、日頃たまった荷主への不満を洗いざらい話したところ、後日そのことを知った社長から叱責(しっせき)された、なんていうドライバーの話も聞く。
ある地方の運送会社社長は、
「荷主も含めて、運命共同体なんですよ」
と話す。地方の限られた経済圏のなかでは、運送会社はもちろん、荷主・元請、あるいは配送先も顔見知りである。例えば長時間の荷待ちを強いられたとしても、その事情も詳しくわかっているのだという。
「ウチみたいな田舎の小さな運送会社では、荷主も配送先も含めて運命共同体なんですよ。このなかで、ウチだけが『いい子』になって、荷主を告発しようものなら、もうこの地域で商売を続けていくことはできません」
と、先の運送会社社長は本音を吐露する。さらにいえば、荷主を告発することで、
「自社のコンプライアンス違反」
が白日のもとにさらされることを恐れる運送会社もいる。トラックGメンが摘発しようとしているのは、長年にわたり、“商慣習”という名目で運送業界にたまった
「膿(うみ)」
である。その膿は、荷主や元請事業者だけにたまっているものではない。運送会社自身も、自ら生み出した膿にまみれているケースがあるのだ。
求められる告発の環境づくり
確かに、下請法では不正行為の摘発による報復措置を禁じている。報復措置とは、次のとおりだ。
「下請事業者が親事業者の不公正な行為を公正取引委員会又は中小企業庁に知らせたことを理由としてその下請事業者に対して,取引数量の削減・取引停止等の不利益な取扱いをすること」(報復措置(第1項第7号))
だが、これだけでは運送会社は安心できない。大胆ではあるが、筆者はトラックGメン等による荷主・元請、あるいは運送会社自身に対し、ある種の“司法取引制度”を設けることを提言したい。
・運送会社が告発し、荷主/元請がそれを認め、かつ是正する意思を示した場合は、是正のための猶予期間を設ける。
・同時に(コンプライアンス違反を自認する)運送会社は、自社のコンプライアンス違反を是正する旨、コミットする。
・荷主/元請はもちろん、運送会社も、それぞれに与えられた猶予期間中にコンプライアンス違反を是正する。
荷主・元請に与えられる是正のための猶予期間は、1~2か月。対して、運送会社は、より長い猶予(例えば半年程度)に設定してはどうだろうか。
運送会社のほうが是正猶予期間が長いのは、荷主・元請がコンプライアンス違反を是正しないと、運送会社自身のコンプライアンス違反は是正ができないことに加え、トラックGメンへの報告を促すための
「インセンティブ」
として作用させるためだ。現在、トラックGメンだけでなく、公正取引委員会が下請法に基づき荷主の運賃買いたたきに対する摘発を進めるなど、政府は運送業界の取引適正化に向け、これまでにない陣容を組み、積極的に取り組んでいる。だが、こういった一連の浄化活動(とあえていおう)を阻むのが、救われる側の運送会社であることはなんとも皮肉である。
自ら進んでブラックな運行、ブラックな経営を行い、運送業界の浄化を阻む運送会社もいる。こういったブラック運送会社の摘発も行いつつ、是正の意思はあるものの、経営への悪影響などを恐れ、荷主が行う不正行為に対する情報提供に二の足を踏む、
「グレーゾーンの運送会社」
が、安心してコンプライアンスを順守する(できる)運送会社へと生まれ変わる仕組みづくりを整備することも必要だと筆者は考える。
先に挙げた司法取引制度の導入は、あくまでアイデアのひとつである。ぜひ政府は知恵を絞って、運送ビジネスの浄化に努めてほしい。
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みんなのコメント
トラックドライバーの仕事はとにかく拘束時間が半端ない。
本気で取り締まるならドライバーを直接Gメンとして雇い後の生活まで政府が保障して、徹底的に荷主を締め上げる覚悟が無いと出来ない。
経団連とズブズブの政府では無理な事ですね。