「2Lターボ」という響きは、クルマ好きにとって格別なものがある。
ここ最近の欧州車は、2Lターボをスポーツモデルへ積極的に採用している。国産勢では2000年代以降の排ガス規制強化を機にそのラインナップを大幅に減らしてしまったが、新型シビックタイプRやWRX STIなどが世界を相手に奮闘している。
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本企画では、実は大きく2種類に大別することができる2Lターボについて触れるのを皮切りに、2Lの過去と現在、そして未来について探ってみたい。
※本稿は2017年のものです
文:国沢光宏、鈴木直也、ベストカー編集部
写真:ベストカー編集部
初出:『ベストカー』2017年12月10日号
■2種類の2Lターボとその過去・現在を俯瞰する
TEXT/ベストカー編集部
現在の2Lターボエンジンには、ハイパワー系と、ダウンサイジングを目的としたリプレイス用の2種類がある。まずはこの違いから抑えていこう。
ハイパワー系は単純明快で、2Lという排気量ながら過給器にモノを言わせることで、その倍となる4L NA(自然吸気)エンジン以上のパワー&トルクを発揮する。現在、日本で買うことのできるラインアップでは381psのベンツA45AMGを頂点に、367psのボルボS60/V60ポールスター、320psのシビックタイプRが続いている。
ちなみに、すでにテスト車の存在が報じられ、2019年のデビューが確実視されている次期型ベンツA45AMGでは、この2Lターボエンジンの400ps超えが噂されている。2Lターボが400psという時代にいよいよ突入する。
いっぽう、欧州では完全に定着した感のある小排気量ターボエンジン。国産車ではかつて1980年代前半以降、ハイパワーエンジンの代名詞としてターボやスーパーチャージャーがもてはやされてきたが、主流となっているのは小排気量ターボ&スーパーチャージャーの「ダウンサイジング過給エンジン」だ。
そもそも「ダウンサイジング過給エンジン」とは、これまでV8、4Lエンジンを搭載していたクルマをV6、3Lスーパーチャージャーエンジンへと少気筒化したり、V6、3Lエンジンを搭載していたクルマを直4、1.6Lターボに置き換える(リプレイス)ことで、同じ車格のクルマの気筒数や排気量を減らす考えから始まった。
車両重量を低減するだけでなく、気筒数を減らすことによるメカニカルロス、摩擦抵抗の低減にも効果があり、さらには燃費性能の向上にもメリットがある。いっぽうで、ダウンサイジング化によるパワーとトルクの低下というデメリットも出てくるワケだが、これをターボやスーパーチャージャーという過給によって補填するというものだ。
リプレイス用2Lターボの代表格といえばDセグメントのサルーンで、ベンツCクラスやBMW 3シリーズ、アウディA4といったジャーマン3、それにレクサスISやスカイラインなどのDセグモデルは基本的に2Lターボをメインに据えている。従来までこれらの車種は、2.5~3.5LのV6マルチシリンダーエンジン搭載が主流だったが、2Lターボにリプレイスされている。
過去の2Lターボ激烈ウォーズ
ここで国内における2Lターボの系譜についてすこし振り返ってみよう。
2Lターボのパワー競争が激化し始めたのは1980年代後半。1986年、4代目セリカに185psの3S-GETを積んだGT-FOURが追加されたのを皮切りに、1987年5月にはR31スカイラインに当時のグループAホモロゲモデルとして210ps(ノーマルは190ps)を発揮するGTS-Rが設定された。
同じ年、6代目ギャランにWRCグループAホモロゲモデルとして205psのVR-4がトップグレードとして登場し、以後は各社からWRC用競技ベースの2Lターボ車の登場が相次ぐ。
1990年に230psのパルサーGTI-R、1992年には240psの初代インプレッサWRXと250psの初代ランエボが登場し、この両車がつい最近まで激しい鍔迫り合いを繰り広げたのはご存じのとおり。
惜しい存在だったのは280psを発揮した日産のSR20VET。2001年、初代エクストレイルのGTとして販売されたのだが、ほかの車種には搭載されずに終わってしまっている。
■現行の最強2Lターボエンジンはどれだ?
TEXT/国沢光宏
次に、自動車ジャーナリストの国沢光宏氏に、現行の最強2Lターボエンジンについて語ってもらう。
* * *
現時点での世界ナンバーワンといえば、いうまでもなくベンツA45AMGに搭載されている381ps/48.4kgmである。鍛造ピストンなど多くの部分に競技車両用の素材を使うなど、さすがF1で圧倒的なパフォーマンスを示すメーカーの意地を感じます。
同じF1に出ているホンダ2Lが320ps/40.8kgmに留まっているあたり、F1の成績とイメージはダブってしまう。同じ排気量で15%負けているのだから圧倒的。
ナンバー2となるボルボS60ポールスターに搭載されるDRIVE-eは、367ps/47.9kgmというスペック。このエンジンをベースにしたWTCC用のGRE(グローバルレースエンジン)も、ホンダのWTCC用エンジンより優れているといわれており、参戦から1年でチャンピオン争いに加わるほどの勢い。ちなみにDRIVE-eのポテンシャルたるや高く、400ps仕様まで開発しているそうな。400psに耐えるシリンダーブロックの強度や冷却性能を持っているということ。
市販車用に搭載されるエンジンは競技用と違う。低い回転域から使えなければダメだし、マイナス20度で始動したり、長い時間アイドリングしたりすることも必要。それでいて厳しい燃費規制をクリアしなければならない。DRIVE-eの凄さは、同じ4気筒をPHVのパワーユニットや、安価なベーシックグレードにも使っている点。A45AMGのエンジンも量産ブロックを使う。コストダウンのため手抜きし、最高出力を稼げなくなっている日本勢のエンジンと基本設計からして異なる。
この2基に大きく引き離された3位がスバルWRX STI用のEJ20だ。S208に搭載されるユニットは329ps/44.0kgmというスペック。基本設計の古いポート噴射のエンジンとして考えればすばらしい! WRCに参戦している時代に磨いたエンジンがまだ光っている。
その気になれば400ps/51.0kgmなど余裕のブロックなので(グループN用ではコンピュータを変えるだけで51.0kgm出た)、もう少し余裕ありそうだが、一番古いエンジンが日本一なのは微妙。
4番手選びが超難しい! スペックからすれば320ps/40.8kgmのシビックタイプRなのだけれど、ゴルフRの310ps/40.8kgmの広いトルクバンドや、レスポンスは強烈だったりして。
考えてみたらVWって昨年まで WR(世界ラリー選手権)で圧倒的に強いエンジン作っていた。ツーリングカーレース用の2Lもすばらしいし、なにより400psの400Rというエンジンまで持つ。ポテンシャルの高さを考えたらEJ20を超えていると思う。ということで4位に。
スバルWRX S4用と、ポルシェの2Lターボはいまだホンキでパワーを出そうと考えていない。スバルの場合、2012年に先代レガシィのマイチェンで最初に出したFA20からまったく進化していない。そもそも40.8kgmというトルク制限のあるCVTと組み合わせているため、出すこともできない状況。
同じくポルシェもスポーツグレード用に2.5Lターボを持っているため2Lについちゃ実用エンジンだと考えているようだ。どちらのユニットも直噴だし、10%程度のパワーアップは簡単にできるだろう。眠れる獅子です。
■価格は? 技術の伸び代は? 2Lターボはこれからどうなる?
TEXT/鈴木直也
最後に、同じく自動車ジャーナリストの鈴木直也氏に、ダウンサイジングターボが世に出てきた経緯と、2Lターボエンジンのスペックを見る際の区切りとなるポイント、そして今や最激戦カテゴリーとなった2Lターボの今後について、展望を聞いてみた。
* * *
ターボ、それもスポーツターボとなると、最近はどうしても欧州車が優勢だ。
21世紀初頭、クルマの電動化では日本製ハイブリッドが圧倒的にリード。当初ハイブリッドなんて高コストで売れるはずがないと侮っていた欧州勢は、気がついたら燃費競争でハイブリッドに大差をつけられてしまう。
そこで欧州勢が活路を見出したのがダウンサイズターボだ。欧州の走行パターンなら、この判断には一定の合理性があるし、基本がターボだからそこから高性能版を派生させることも容易。日本製ハイブリッドには「燃費はいいが走りが退屈」という欠点もあって、こちらもけっこうな大勢力となる。
最近は、日本車にもダウンサイズターボが増えてきているし、欧州車はPHEVを主体とするハイブリッド車のラインアップ拡充に一生懸命。お互いに「1周遅れ」ながら、攻守ところを変えて新しい戦いが始まりつつある。
で、今回テーマになっているスポーツエンジンとしての2Lターボだが、前述のような事情があるだけに“タマ数”としては圧倒的に欧州勢の層が厚い。
クラス最強を誇るメルセデスAMGのA45シリーズは、381ps/48.4kgm。ターボに加えてベルト駆動遠心スーパーチャージャーを備えたボルボのポールスター用は367ps/47.9kgm。おなじみのゴルフもGTIじゃなくてRになると310ps/40.8kgm。そのアウディ版S3も、ほぼ同スペック。フランス勢では(もう旧型になったけど)メガーヌR.S.は273ps/36.7kgm。日本で手に入る車種だけピックアップしてみても、まさに充実のラインアップといえる。
このあたりのスペックを見ていると、最大トルク40.8kgmあたりにひとつの区切りがあって、そこを超えて上へ突き抜けているクルマは、エンジンの「ただ者じゃない!」感がすごい。
端的な例がメルセデスAMGのM133型だ。基本設計が古いから最近の高効率ターボに比べると古典的高性能エンジンといった佇まいなのだが、言い換えるならレース仕様過給エンジンに近いコンセプトで開発されているということ。
いまどきの過給エンジンとしては珍しい8.6と低めの圧縮比は、1.8barという高いブースト圧を常用するためのものだし、タコ足マニホールドに直結された大柄なツインスクロールターボ、通気抵抗の少ない専用水冷インタークーラー、極太のインテークダクトなども、量産車というよりは競技車に近いデザイン。
とりわけ、水冷インタークーラー用のラジエターがフロントグリル内と右フロントホイールハウス前のデュアル装備となっているところなど、ふつうの量産車の感覚では信じられない凝り方といっていい。
いくらターボとはいえ、量産車で2Lから380ps/45.9kgmを絞り出すのはただごとではないことが、こういうヘビーデューティなディテールから想像できる。
対照的なのが、過給器をターボとスーパーチャージャーのツイン過給で備えるボルボのポールスター。こちらは、現代ハイテクターボの極致といった印象で、乗った印象もAMGに比べるとずっと洗練されたパワーフィール。ワイルドなA45と比べると速さを感じさせずスマートなのだが、ふと気がつくととんでもない速度に達しているといったタイプだ。
パフォーマンス追求型の2Lターボはだいたいこの2パターンに集約されると思うが、コスト的な問題でA45AMGみたいな競技用っぽいエンジンは存続が難しそう。
最近FF最速を競っているメガーヌR.S.やシビックタイプRのエンジンなどは、ターボ系やインタークーラー周りをもうちょっと簡略化して、そのぶん可変バルタイやウェストゲートの電子制御などで安定した大出力を実現している印象がある。
さすがに、2Lターボスポーツでつけられる価格というと、500万円くらいがマックス。メカニズム的にも、落ち着きどころがあるように思う。
逆に、ボルボポールスターのようなハイテク型は、高級車に搭載することでコストを吸収できるから、新しい技術で伸びる可能性があるかも。電動アシストターボやターボからのエネルギー回生など、コストをかければ実現できるネタはまだまだある。高性能ターボは、高級車がダウンサイズ用として使うことで、さらにいっそう発展していくんじゃないかな?
【番外コラム】2Lターボ車は理論上、市販車レベルでどこまで絞り出せるのか?
TEXT/ベストカー編集部
2Lターボはどこまでパワー&トルクを高められるのだろう?
EJ20ターボをS208で史上最強となる329ps/44.0kgmにまで高めた STIの森宏志取締役開発本部長は、ベストカーの取材で次のようにコメントしている。
「STIではレースをしているので、その技術でスーパーGTマシン並み、もしくはGRC(グローバル・ラリー・クロス)並みにはできます」
とはいえ、量産モデルとしてS208をディーラーで販売する以上、性能と耐久性の保証についてどう折り合いをつけていくのか、そのパワーとトルクのスペックバランスをいろいろ考えながら今回の数値に落ち着いたという。
スーパーGT 500クラスなら現在は550ps以上、さらに今シーズンのGRC用WRX STIは588ps/91.8kgmを発揮している。森取締役開発本部長の言葉どおりに受け取れば、EJ20は充分そのポテンシャルを持つ。
1989年、初代レガシィのデビュー時に220ps/27.5kgm(RS)だったEJ20も、現在のWRX STIでは308ps/43.0kgmにまで進化しているが、実はスペック自体は2007年に登場した先代型からまったく変わっていない。
しかし、やはりランエボとの競争がなくなった今、EJ20の進化が止まってしまったのは痛いところ。これをチューナーはどう見ているのか。
チューニングショップ、「BOZZ SPEED」(埼玉県三郷市)代表の久田泰之氏は次のように語る。
「常識的な範囲ではEJ20はチューンしても400psが限界。水平対向はターボには厳しいレイアウトだし、ブロックがアルミだし、デカいタービンが回らないんだよね。トルクはタービンのサイズで自ずと決まってくるからね。ただし、耐久性を考えなければ500psまではイケるけど、お薦めはしないかな」
そう述べたうえで、「2Lターボで国産史上最強なのは、いまだにランエボIX MRまでが積んでいた4G63。700psまで出してもぜんぜん平気だった。鋳鉄ブロックは強いし、ゆとりがあるからね。ボクからすると“奇跡のストリートエンジン”だったと思う。それに比べて後継エボXのアルミブロックを採用した4B11は600psまでかな。ほかのアルミブロックエンジンよりは強度的に余裕があるんだけど、4G63には到底及ばない」とした。
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