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【DBX生みの親】マシュー・ベッカー アストン マーティン車両特性エンジニア AUTOCARアワード2021

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【DBX生みの親】マシュー・ベッカー アストン マーティン車両特性エンジニア AUTOCARアワード2021

現代の英国車に欠かせないエンジニア

text:Matt Prior(マット・プライヤー)

【画像】英国車を語る上で重要な人物【マシュー・ベッカーが携わったクルマ3選】 全137枚

translator:Takuya Hayashi(林 汰久也)

今年のAUTOCARアワードでムンディ賞(エンジニアリング部門)を受賞したのは、アストン マーティン・ラゴンダの車両特性エンジニアリング担当チーフエンジニア、マシュー(マット)・ベッカーだ。ベッカーは、時として広報担当者を不安にさせるような、さりげない気楽さと誠実さでクルマについて語る人物である。

ベッカーがムンディ賞を受賞したのは、「アストン初のSUVである新型DBXの開発に貢献したから」というだけでは、彼の影響力を過小評価することになるだろう。しかし、この優れた新型SUVが、アストンのラインナップを広げ、利益を上げるために重要な役割を果たしたことは否定できない。そして、このクルマの開発にはベッカーの才能と経験が生かされているのだ。

アストンのような比較的小規模かつ大グループに属していない企業にとって、この挑戦は決して過小評価できるものではない。

ベッカーは、英シルバーストンのストウ・サーキットに隣接するアストン マーティンの開発工場のミーティングルームで、記者とテーブルを挟んで座りながら、「SUVを作るのが簡単だと思っている会社は間違っていると思います」と話してくれた。

「あのプロジェクトに着手したとき、わたしはSUVを手がけたことがありましたが、かなり初歩的で受動的なもので、DBXに比べれば簡単でした」

父から受け継ぐ天性の才能

2015年にアストンに入社する前、ベッカーはロータスでエンジニアリング部門に所属し、ここでは語ることのできないクルマの開発にも携わっていた。

彼は、ロータスのエンジニアリングの権威であるロジャー・ベッカーの息子として、プロトタイプカーに囲まれて育った。

「父がわたしを迎えに来るときは、いつも違う開発中のロータスに乗っていました。ヨーロッパ、エリート、エクセル、エスプリ、すべてです」

「わたしは将来を強制されたわけではありませんが、幼い頃から脳にチップが埋め込まれていたようなものです。父がどう運転していたか、よく覚えています。なぜクルマを動かしているのかと聞くと、ステアリングの反応、アクスル、ロールの挙動など、ステアリングが必要な情報を与えてくれるのを感じようとしているのだと言っていました」

「12~13歳のわたしには、父が何を言っているのかさっぱりわかりませんでしたが、それがきっかけで、ビークル・ダイナミクスの道に進みたいと思うようになりました」

ベッカーは16歳で見習いを始めたが、現在ロータスの車両特性およびプロダクト・インテグリティ担当ディレクターであるギャバン・カーショウや、マクラーレンでF1テクニカル・ディレクターを務めるジェームズ・キーと同じタイミングだった。

ベッカーは当初、ビークル・ダイナミクスを習うことは許されなかった。エンジニアは23歳からでないと、テストドライビングに参加できないことになっていたのだ。しかし、ロータスの有名な開発ドライバーであるアリスター・マックイーンの指導を受けているうちに、ベッカーには天性の才能があることに気がついた。

「結局、エンジン技術者として働くことになりました」とベッカーは言う。21歳のときにエリーゼの開発エンジニアの仕事が舞い込んできてからは、運転することが仕事になった。

「エリーゼのメタル・マトリクス・コンポジット・ブレーキ、ヒーター・ベンチレーション・システム、ヘッドライトなど、基本的には何でもやっていました。しかし、最終的には『111Sのタイヤ開発をやらないか』と言われ、ついに来たか!と思いました。それが入り口でした」

白紙からの挑戦、エヴォーラ

その後、シリーズ2のエリーゼ(ベッカー曰く「みんなが思っている以上にダイナミクスが大きく変わった」)や、340R、2イレブンなど、エリーゼやエキシージのプラットフォームを使ったさまざまな派生モデル、さらには他社向けの機密車の開発に携わった。

そして、まったく新しいロータスが誕生した。

「2007年頃、会社はエヴォーラを作りたがっていました。エリーゼ・シリーズ2は既存のクルマを発展させたものでしたが、エヴォーラは完全に白紙からのスタートで、開発責任者であるわたしが設計チームや解析チームと協力して、『このクルマにはこういうことを実現してほしい』と言うチャンスでした」

エヴォーラは、脚の長いGTカーだった。ベッカーは、「エリーゼに長く乗っていたので、長い距離を走るとどれだけ疲れるか、わかっていました」と語る。

「エリーゼのように俊敏でありながら、より快適で、より寛容なクルマを作りたかったのです」

しかしベッカーは、顧客ではなく「エンジニアのためのクルマ」を作っていたことや、エヴォーラの後部座席に人を乗せるためには「乗客を液体にしなければならなかった」ということも認めている。その上、取り回しは良かったものの、タイヤウェルが広くなったことで、ペダルの位置が悪くなってしまった。

「ロータスでのキャリアが終わりに近づいた2014年、『エヴォーラを作り終えたが、次は何をしようか?』と考えていました。その頃はまだ、ジーリー(ロータスの現オーナー企業)は不在でした」

ベッカーは、アストン マーティンをはじめとする複数の企業と話をしたが、ちょうどその頃、以前彼をヘッドハンティングしようとしていたアンディ・パーマーがアストンのトップに就任したのだ。「何か運命的なものを感じました」とベッカーは言う。

自由に作ることができたDBX

「アンディは、アストンのサイクルプランを教えてくれました。ポルシェやランボルギーニ、そしてマクラーレンでもない限り、自分の知識を応用して新しいことを学ぶ機会を与えてくれるところは他にないと思っていました。でも、そのようなポートフォリオを持っているわけではないので、思い切って挑戦してみました」

その後、ベッカーは「わたしのキャリアの中で最大のカルチャーショック」を受けたという。入社初日にベッカーが手渡されたのは、頭字語とその説明が印刷された6~7枚の紙だった。これは、フォードのプレミア・オートモーティブ・グループ(PAG)の一員であった時代の「フォード語録」の名残であった。

入社した頃には、DB11の開発プロジェクトがすでにかなり進んでいたが、ヴァンテージの開発には大きな影響を与えることができたほか、DBSスーパーレッジェーラも特に気に入っているという。そして、4年半のプロジェクトであるDBXは、ベッカーが最初から指揮をとったクルマだ。

「膨大な量のベンチマーキングをしなければなりませんでした。製品を理解し、わたし達が求める特性を得るためには、死ぬほど測定する必要がありました」

ライバルとなるSUVを見ると、大抵の場合、大手メーカー・グループの一員である。そのような大グループには、規模のメリットとニッチに合わせなければならないというデメリットがある。

「解析すると、このモデルはこの数値が原因でこう感じるのか、ということがわかります」

「しかし、DBXで求められていたものを実現できたのは、わたし達が自由に動くことができたからです。クルマのパッケージだけでなく、ダイナミクスの面でも自分たちが望むものを作るチャンスが与えられたのです。わたし達は、『ああ、数値ではなくこの人たちがこのクルマを作ったんだ』と思いました」

こうしてDBXが完成した。パーマーが追放され、新たな投資家によって新CEOのトビアス・モアースが就任した直後のことだった。

「彼は、これまで一緒に仕事をした中でも、最も技術的に優れたCEOの1人です。彼と初めて会ったとき、AMGのブッシュの違いについて議論していたのですが、彼はクルマのサスペンション・ブッシュの軸方向やねじり方向のレートなど、あらゆることに精通していました」

「トビアスは、アストンの顧客にとって快適性が重要であることを知っています。快適ではないGTカーは望まれていないのです」

モアースは、DBXというクラス最高の乗り心地とハンドリングを兼ね備えたクルマの導入にあたり、ベストなタイミングでCEOに就任した。そして、彼のもとには世界で最も著名な車両エンジニアの1人、ベッカーがいる。

憧れのクルマ

関わりたかったクルマ3選

マシュー・ベッカーが仕事で取り組みたかった3台のクルマについて尋ねた。

ポルシェ911 GT3:「エンジニアの多くは、ポルシェの911 GTカーのファンです」

マクラーレン720S:「マクラーレンに乗ると、ロータスに似た感じがします。720Sは、快適性、パフォーマンス、フィーリングのバランスが取れています」

ロータス・エラン26R:「シルバーストンでレースをしたことがありますが、クルマのシンプルさ、つながり、楽しさを思い出させてくれました」

リチャード・パリー・ジョーンズについて

ベッカーの謙虚さは、アストン マーティンに入社した際、非常勤取締役のリチャード・パリー・ジョーンズに師事を依頼したことからもうかがえる。

「彼とは、おそらく隔月で会っていました。わたしがやっていることについて、キャリアだけでなく日々の課題も含めて話していました。彼はカウンセラーのような存在でした。

「彼と初めて会ったのは2007年だったと思います。最初に気づいたのは、彼がすべての数字やデータに精通しているということでした」

パリー・ジョーンズとのテストドライブについては次のように語っている。

「彼は、ダイナミクスだけでなく、共振、ブレーキの感触、スロットル・フィーリングなど、クルマ全体をセクションごとにチェックする方法をとっていました。でも、必ずステアリングから始めるのです。彼の指導が受けられないのは寂しいですね」

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