ステーションワゴンとシューティングブレークの違いは?
時代の流れとマーケティングによって本来の意味から遠ざかっている部分もあるが、シューティングブレーク(shooting brake)はスタイリングに気品がなければならない。ほとんどの場合で実用性は二の次とされているが、荷物の積載スペースは確かに広く、便利だ。
【画像】日本で最も「身近」なシューティングの1つがこれです。【メルセデス・ベンツCLAを写真で見る】 全17枚
一般的には、流線型のボディを持つステーションワゴンのことをシューティングブレークと呼ぶ。もともとは狩猟に使われる特注の車両を指す言葉だが、現在での意味合いは大きく異なっている。
自動車メーカーが正式に発売することもあれば、第三者のコーチビルダーが既存モデルを改造して作ることもある。少量生産の限定モデルだけでなく、何万台と出荷する量産車もある。ここでは、特に素晴らしいシューティングブレークをいくつかご紹介したい。
アストン マーティンDB5とDB6
アストン マーティン初のシューティングブレークは、「DB」の頭文字で知られるオーナー、デビッド・ブラウン氏のために作られた。身内向けのものだったが、それを見た顧客は自分も欲しいと言い出した。
そこで、アストン マーティンはコーチビルダーのハロルド・ラドフォードを招き、DB5とDB6をベースにシューティングブレークを仕立てた。フロントガラスから後ろがすべて新設計で、頭上のヘッドルームと積載スペースは十分に確保された。
しかし、この改造によって、ただでさえ高額なアストン マーティンの新車価格が50%上乗せされた。DB5が12台、DB6が6台しか生産されなかった理由も納得できる。
フェラーリ330 GT
フェラーリの基準から見ても、この330 GTシューティングブレークはかなりセンセーショナルなスタイルだ。米国のフェラーリ輸入業者の息子であるルイジ・キネッティ・ジュニア氏とアルフレード・ヴィニャーレ氏によって考案され、標準の330をベースに製作された。
残されたオリジナルのボディパーツは、フロントガラスとドアの一部のみ。それ以外はすべて手作りで、もともとはダークメタリックグリーンで仕上げられていた。英国出身のアーティスト、ジャミロクワイのフロントマンであるジェイ・ケイ氏が所有していただが、その後ライトゴールドに塗装された。
アストン マーティンV8ヴァンテージ
1960年代のDBベースのシューティングブレークを彷彿とさせる、V8ヴァンテージ・スポーツマン・エステート。ルーフ部分をまったく新しいものに変更し、積載スペースを確保した。
スイスのルース・エンジニアリング社が1800時間をかけて製作し、発表時には世界最速のエステート(ステーションワゴン)と称された。オーナーとなったドイツの顧客は、スキー板を車内に積めると主張したが、このクルマが雪の積もったアルプスの道路でどうやって走ったのか、気になるところだ。
オーグル・トリプレックスGTS
GTSは、調光ガラスのサンディム・ガラス(Sundym glass)を披露するために、トリプレックス・ガラス社の依頼を受けてオーグルが製作したシューティングブレークだ。
ルーフの前半分とリアのサイドウィンドウに曲面ガラスを採用し、1965年のロンドン・モーターショーで観衆を沸かせた。その後も複数のショーに登場する予定だったが、英国のエディンバラ公の専用車としてリクエストされ、2年間使用されることになった。
アストン マーティンEG
このワンオフのアストン マーティンEGの流麗なラインは、ヴァンキッシュをベースとしている。フランチェスコ・ボニオーロ氏がデザインし、「EG」という車名は初代オーナーのイニシャルに由来する。
ベース車より600mm長く、リアハッチからウッド張りのトランクに素早くアクセスできる。ルーフには調光ガラスのイソライト(Isolite)によるパノラミックパネルが装備され、スイッチ1つでキャビンを明るくしたり、暗くしたりすることができる。
ボルボ1800 ES
ボルボといえばステーションワゴン、というイメージはもう古いのかもしれない。しかし、この1800 ESは、今日我々がよく知るボルボのワゴンの先駆者とも言える1台である。
モデル存続のために旧式化した1800クーペをシューティングブレークに変えるという大胆な決断だったが、見事に成功し、1971年から1973年にかけて8077台が販売された。1枚ガラスのリアハッチは当時としては斬新で、1986年の480 ESで再び採用された。
リライアント・シミター
リライアントは、前述のオーグルGTSの成功にいち早く着目し、クーペのシミターをベースとするシューティングブレークを作ることにした。1968年、オーグルのトム・カレン氏のデザイン協力を得て、独自のGTEを開発した。
4座の独立シートと大きなトランクを備えたシミターGTEは、フォードから供給された3.0L V6エンジンによる力強いパフォーマンスも手伝って、たちまち大ヒットとなった。熱心なファンの1人が英国のアン王女で、リライアントの歴史にさらなる華やかさを添えた。
フェラーリ・デイトナ
フェラーリ・デイトナ・シューティングブレークは複雑な血統を持つため、一歩間違えれば混乱したデザインに終わっていたかもしれない。しかし、イタリアのメカニカル、裕福な米国人オーナー、そして英国のコーチビルドによって、非常に衝撃的なフォルムが完成した。
米国のボブ・ギトルマン氏が依頼し、英国のパンサー・ウエストウインズが実現させた1台だ。荷室へのアクセスはトップヒンジ式のガルウィング・ガラスパネルからだが、ウッドとレザーで覆われたコンパートメントにあまり大きなスペースは期待できない。
ジェンセンGT
ジェンセンは、初期のボルボP1800クーペの生産には携わっていたが、1800 ESとの関係はなかった。それが、同社が1975年までシューティングブレークの人気に気付かなかった理由かもしれない。
こうして誕生したジェンセンGTは、信頼性と品質の問題をある程度解決したとはいえ、ベースとなったのは旧来のジェンセン・ヒーレーだ。荷物の積載に便利で、ロータスのエンジンも優れたパフォーマンスを発揮したが、販売は軌道に乗らず、1976年までの約1年間にわずか473台しか売れなかった。
リンクス・ジャガー・イベンター
ジャガーXJ-Sの「フライングバットレス」(リアに伸びる三角形のフィン)は、常に賛否両論だった。そこで英国のレストア会社リンクスは、リアを巧みに作り変えてシューティングブレーグとし、よりエレガントなクルマに仕上げた。
後部座席は積載スペースを最大化するために折りたたみ式となった。イベンターは1986年から2002年までの16年間に67台が生産された。
ランチア・ベータHPE
フィアット傘下にあっても、ランチアは常に独自の個性を表現してきた。高性能ワゴンを意味する「ハイ・パフォーマンス・エステート」の頭文字をとったHPEは、リライアント・シミターと同様の流れで開発されたシューティングブレークだ。
クーペのベータのフロントボディを使用しながら、セダンのフロアパンを採用することでソフトな乗り心地とロングホイールベースを実現した。これは非常にうまくまとまり、10年で7万1000台を販売した。最終年、ランチアは最高出力135psのスーパーチャージャー付き「ボルメックス(Volumex)」エンジンを導入した。
BMW Z3 Mクーペ
多くのシューティングブレークがそうであったように、Z3 Mもまた、コンパクトなスポーツワゴンに可能性を見出したBMW社内の熱心な従業員の間から生まれた。
彼らは秘密裏にZ3ロードスターをベースに同車を開発し、以来多くのファンを喜ばせてきた。E46型M3のエンジンを搭載することで、パフォーマンスは飛躍的に向上した。BMWはM以外のバージョンも導入しているが、右ハンドルの設定はなかった。
フェラーリFF
フェラーリFFの発表会では見るべき点が多くあり、そのシューティングブレークのスタイリングはあまり注目されなかった。最高出力660psの6.2L V12エンジンを搭載し、0-100km/hを3.7秒で駆け抜け、最高速度335km/hを誇る四輪駆動のフェラーリである。
それでいて、4人がゆったりと座れ、450Lのトランクも備えたボディワークは、まさに驚嘆に値するものだった。これは実用的なファミリーカーと言えるかもしれない。価格を除けば。
メルセデス・ベンツCLAシューティングブレーク
メルセデス・ベンツは、4ドア・クーペとシューティングブレークに対する世間の関心の高まりに敏感だった。2015年に発売されたCLAは、まさにそのタイミングにあった。
このモデルをシューティングブレークと名付けることで、トランクの荷室不足という問題を巧みに回避した。その代わり、CLAクーペよりも実用的なモデルとして位置づけられている。予算が許すなら、メルセデスAMG CLA 45が一番のお勧めだ。
メルセデス・ベンツCLSシューティングブレーク
CLSのラインナップにシューティングブレークが加わったのは第2世代から。特にAMG仕様では、その流麗な外観とアグレッシブな雰囲気で注目を集めた。
しかし、流線型ボディにもかかわらず、メルセデス・ベンツのステーションワゴンであることに変わりはなく、当時のアウディA6アバントやBMW5シリーズ・ツーリングよりも広い積載スペースを備えていた。
ベントレー・コンチネンタル・フライングスター
このベントレー・コンチネンタルをベースにしたシューティングブレークを製作する際、イタリアのコーチビルダー(カロッツェリア)であるトゥーリング・スーペルレッジェーラは、クーペボディではなくGTCコンバーチブルをベース車両に選んだ。
既存のルーフを交換するよりも、オープンカーからワンオフのワゴンを作る方が容易だからだ。イタリアの職人たちは、後部座席を折りたためば最大1200Lの荷物を積めるハンサムなワゴンを完成させた。
アウディ・シューティングブレーク
アウディが「シューティングブレーク」の名前を使ったコンセプトカーは複数ある。最初のモデルは2005年の東京モーターショーで発表され、後の第2世代TTに見られるデザイン要素の多くを予告するものだった。
しかし、長いルーフラインとテールゲートのおかげで、独特の外観を持っていた。量産化されるのではないかという噂もあったが、2007年に正式に否定された。
クエスト・テスラ・モデルS
クエスト・テスラ・モデルSシューティングブレークは、犬を乗せるスペースの必要性から開発されたものだ。これは、冒頭で紹介したようなシューティングのルーツである狩猟、魚釣り、射撃にさかのぼるものだが、電気自動車(EV)であるという点で非常に現代的な1台だ。
英国のコーチビルダー、クエストが製作したもので、延長されたルーフとハッチにカーボンファイバーを使用しているため、重量増加は標準のモデルSから12kgに抑えられている。
キア・シード・シューティングブレーク
韓国のキアからシューティングブレークが登場。ハッチバックやステーションワゴンといったシードの従来のラインナップに、華やかなモデルが加わった。これは、クロスオーバーやSUVに飽き始めた一部の消費者が、よりスタイリッシュなワゴンを求めていることを示す動きだ。
シューティングブレークは、3ドアのプロシードに代わる形で導入され、スポーティ性に重点を置いている。
アストン マーティン・ヴァンキッシュ・ザガート
アストン マーティンは、顧客の要望に合わせたコーチビルト車というコンセプトに力を入れようとしている。ヴァンキッシュ・ザガート・シューティングブレークは、同社のQ部門によって99台のみが生産され、V12エンジンは標準のヴァンキッシュより最高出力が27ps向上している。
2人乗りだが、アストン マーティンによれば、電動テールゲートとダブルバブル・ルーフが装備された「非常に実用的なGT」になっているという。
ポルシェ944カーゴ
ポルシェ944は、もともと4座のシートと十分なトランクを装備し、実用性に優れている。しかし、DPモータースポーツという会社にとっては十分ではなかったようだ。
同社はグループ5レーシングカーのポルシェ935 K3を開発したことで知られるチューナーで、944にはフォルクスワーゲン・パサートのリア部分を移植。当時は8台が顧客向けに生産され、現在でも改造キットを1万8000ユーロ(約300万円)で注文できるようだ。
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