ただいま人気急上昇中のビッザリーニが、オークションに登場
2年に1度のペースで開催される「グランプリ・ドゥ・モナコ・ヒストリーク」では、それに付随する公式イベントとして、RMサザビーズ社の「MONACO」オークションも大々的に開かれます。第7回を迎えた2024年は5月10日から11日、地中海に面した見本市会場「グリマルディ・フォーラム」を舞台として展開され、総計115台もの魅力的なクラシックカー/コレクターズが出品されました。そんな中、今回AMWでは今から60年ほど前にイタリアで製作されたスーパースポーツ、ビッザリーニ「5300GTストラーダ」に注目。そのモデル概要とオークション結果について、お伝えします。
イゾ「グリフォGL」が約5000万円で落札!「コルベット」のエンジンを積んだジウジアーロとビッザリーニのWネームの希少車とは
鬼才ジョット・ビッザリーニの意地から生まれた
1963年のトリノ・ショーで、ミラノの実業家レンツォ・リヴォルタが率いるイゾ(ISO)社は、ベルトーネ時代のジウジアーロがデザインした2種類の新型スポーツカー「グリフォ」を発表した。グリフォ「A3/L」はカロッツェリア・ベルトーネのブースで、いっぽう「A3/C」はイゾ社のブースで展示された。
ジョット・ビッザリーニがフェラーリ在籍時に手がけた「250GTO」の面影を感じさせるA3/Cと、豪奢なグラントゥリズモ然としたA3/Lは、外見の共通点こそ皆無に等しいが、どちらのモデルもジョルジェット・ジウジアーロのデザインによるベルトーネ製コーチワーク。イタリア一流のスタイリングにレース用に開発された足まわり、そしてアメリカンV8エンジンのパワーが相乗的に組み合わされた、みごとな仕上がりとなっていた。
とくに、ビッザリーニ側の意向が色濃く反映されていたのは「A3/C」。その驚くほど低くてスムーズなプロフィールと、フロントミッドシップ配置の5.3L V型8気筒エンジン構成が、きっとモータースポーツでの成功につながる……、と確信したジョットは、その後18カ月間、イゾ側との合意のもとでごく少数のA3/Cを製作することにした。
ビッザリーニが製造したグリフォA3/Cは、1964年と1965年のル・マンで排気量無制限GTクラスを制することになる。また、1965年にはミュルザンヌ・ストレートにて時速305km/hに迫るスピードを披露し、その速さを証明する。
ところがそののち、ビッザリーニとイゾはレース活動方針や「グリフォ」のネーミングの使用権について紛糾。たもとを分かつことになってしまうのだが、ビッザリーニが自身の名前で「5300GT」としてグリフォを製造し続け、ロードゴーイング用の「ストラーダ」とレース用の「コルサ」の両バリエーションを用意することで、両社は妥協に至った。
ビッザリーニ5300GTストラーダは、表向きはその名のとおり「ストラダーレ(ロードカー)」とされていたが、その仕様は軽量アルミニウム製ボディワークに加工・強化されたプラットフォームシャシー、フレームにリベット止めされたセミモノコック式ボディなど、同時代のコンペティツィオーネの典型的な構成だった。
この先進的なシャシーと、ビッザリーニがフェラーリ250GTOをほぼ手作りで開発した際に得た教訓を活かした、完璧に近い重量配分や空力テクノロジーにより、卓越したパフォーマンスと驚異的なハンドリングが実現されただけでなく、北米シボレー製V型8気筒エンジンの出力は350~420psを発生し、最高速度は290km/hに達すると謳われた。
フェラーリ250GTOから出発したビッザリーニ
このほど、RMサザビーズ社の「MONACO 2024」オークションに出品されたビッザリーニ5300GTストラーダは、シャシーナンバー0264。ビッザリーニが完成させた86台のアロイボディ車のうちの1台で、1967年9月にアメリカ合衆国内に、新車でデリバリーされたと目されている。
「イゾ-ビッザリーニ・オーナーズクラブ」および「ビッザリーニ・レジストリー」によって管理・編集されている情報によると、シャシーナンバー0264は1990年までアメリカに保管され、その後にイギリスに輸入。この段階で、記録に残る最初のレストアが行われた。その後は1998年から2007年までの間、イギリスとヨーロッパ大陸のオーナーを渡り歩いたのち、2008年に著名なイタリア人コレクターのもとに落ち着いた。
そして直近の前オーナーのもとで、2015年9月にビッザリーニの専門書も上梓しているイギリスの専門家、ジャック・クーブス・デ・ハートッグ氏によって車両検分されたのち、2016年11月に今回のオークション出品者である現オーナーに譲渡されたが、その時点ではまだ以前のレストアの痕跡が残されていたという。
シャシーナンバー0264はその後、2017年8月にスイスのローザンヌにある「レベリオン・モーターズ(Rebellion Motors)」社に委託され、数年にわたる徹底的なレストア作業が開始された。
まずは、シャシーのプラットフォームが年数なりに古くなっている状態であることが判明したため、レベリオン・モーターズは同じくローザンヌの「カロッセリー・チャレンジ(Carrosserie Challenge)」社の協力のもと、みごとに修理。必要な箇所には再加工を施し、新しいボディパネルとシャシー補強材を溶接した。
添付されるドキュメントファイルに含まれている請求の大要には、完成したすべての作業が詳細に記載されており、それらを合計するとフルレストアに投入された費用は24万6000スイスフラン(現在の為替レートでは約4200万円)以上に相当したという。
フロントフェンダーにはクロームメッキ仕上げした3列のエアベントが設けられるとともに、パワーウインドウやタルボ型ミラー、クローム仕上げのボラーニ社製17インチ径ワイヤホイールなどの豪華装備もオリジナルとして完備している。
レストア完了ののち、ほとんど使用されることのなかったシャシーナンバー0264は、随所に美しく正しいディテールを残している。さらに、完全オリジナルスペックのシボレーV8・5.3Lエンジンが2基付属しており、そのうちの1基はスイス東部ザンクト・マルグレーテンの「オールドタイマーセンター・オストシュヴァイツ(Oldtimer Center Ostschweiz)」社によって、一部をリビルトされたとのことである。
新車当時、約1万500USドルという価格で販売された5300GTストラーダのパフォーマンスは、競合するほかのイタリアンGTの追随を許さなかった。そして現在、最も権威のあるコンクールやクラシック・レース・イベントでも十分に見栄えのするこのクルマは、あらゆる点で類まれなグラン・ツーリスモである。
「フェラーリ250GTOの父」と呼ばれるジョット・ビッザリーニが語ったとされる言葉は、この類まれなスーパースポーツをもっとも端的に示していると言えるだろう。「私はGTOのアイデアから出発し、それを改良することから取りかかった」
予想落札価格に一歩届かず
ビッザリーニ5300GTストラーダは、わずか86台しか作られていない希少車。その事実とスーパーカーとしての圧倒的な魅力を鑑みてだろうか、RMサザビーズ欧州本社は75万ユーロ~85万ユーロというエスティメート(推定落札価格)を設定した。
ところが実際の競売では、エスティメート下限に一歩届かない73万6250ユーロ、約1億2500万円という落札価格で、競売人のハンマーが鳴らされることになった。
それでも、今を去ること四半世紀前に購読していた日本の某自動車専門誌の広告にて、たしか信越地方のさるイタリアンクラシックカー専門店が、ビッザリーニ5300GTストラーダに「850万円」という正札を付けながらも、長らく売りあぐねているさまを注視していた筆者とすれば、現在のマーケット評価にはなかなか感慨深いものがあるのだ。
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みんなのコメント
と、今は無きロッソビアンコのオーナーは言ってたね