世界的なSUVブームの今、軽自動車にもその波が押し寄せている。ハスラーやジムニーといった老舗はもちろん、スーパーハイワゴンのスペーシアギアもラインアップされているほど。しかも近頃販売比率も上がりつつあるのだ。そこで気になるのがスペーシアのライバルであるホンダ N-BOXやダイハツ タントといったモデルも参入するのでは? という点だ。その可能性はあるのか!?
文:青山尚暉/写真:スズキ・ホンダ・ダイハツ
既存車アレンジはスズキの伝統芸!! N-BOXはなぜ追わない? 他メーカーがスペーシアギアに追従しないワケ
勢いがハンパないスペーシア! ギアは唯一無二の存在
ここ最近、クロスオーバーモデルの人気が沸騰。乗用車をベースに続々とSUVテイストあるクロスオーバーモデルが登場している。しかもその波は軽自動車にも及び、代表格として、TVCMでもガンガン登場するスズキ スペーシアギアがある。
スペーシアギアとは異なり随所にアイボリーのアクセントを加えたマイスタイルなるモデルを追加するなど、選択肢が豊富なのも人気の理由
軽自動車の中でももはや一番人気のスーパーハイト系に属する、プチバンとも呼べるスペーシアギアは、2022年2月の軽自動車販売台数でもN-BOX、タントに続く3位の座についているほど。しかも前年同月比ではN-BOXの104.0%、タントの111.9%より売れている126.3%と、この時期での人気も絶大だ。そのスペーシアのクロスオーバー版がスペーシアギアであり、今ではややオシャレ方向に振ったデザインを持つスペーシアギア マイスタイルも登場。まさにライバル不在の布陣で、激戦区、スーパーハイト系の土俵で勝負に出ているのである。
スペーシアギの比率は2割強! ターボモデルが大人気
ノーマルのスペーシアやスペーシアカスタムとは異なり、ギアはターボ比率が高いのも特徴。遠出ユーザーが多いのだ
ちなみに、スペーシア全体のモデル構成比では、スペーシア約40%強、スペーシアカスタム約40%弱、スペーシアギア約20%となっているが、母数が大きいため、約20%はかなり健闘していると言っていい。あえてギアを選ぶユーザーは、広く使いやすい軽自動車を望む30-40代ファミリー。家族や仲間とお出かけする機会の多いユーザーや、小型車からのダウンサイザーも少なくないのだ。
迫力、そして存在感あるデザインを求め、なおかつ登録車のような高級感や上級感を軽自動車に臨むスペーシアカスタムとはやや異なるのも特徴。SUVテイストのデザインを求め、平日は純然たるファミリーカーとして使い、週末にはアウトドアに出掛け、アウトドアフィールドにも似合う、1台2役の幅広い使い方に共感している軽自動車ユーザーだという。
ギアの人気のボディカラーはオフブルーメタリック×ガンメタリック2トーン、アクティブイエロー×ガンメタリック2トーン、そしてピュアホワイトパールとなる。オフブルーメタリック×ガンメタリック2トーンルーフは自然の中に似合い、アクティブイエロー×ガンメタリック2トーンは自然の中でも目立ち、安全にもつながるワイルドさもあるカラーとしてのメリットが見て取れる。
注目すべきはターボ比率で、ノーマルスペーシアではNAの比率が高いものの、ギアになるとターボの比率が高いこと。アウトドアへはロングドライブするケース多く、また、アウトドアグッズ満載だとパワーに余裕が欲しくなるといった理由からだと推測する。
スペーシアギアは見た目重視! 割り切りがお見事
ただし、だ。スペーシアギアが本格的にSUV、クロスオーバーモデルだと思うのは間違い。たしかにギア感ある内外装を備え、タフでワイルドな印象をスーパーハイト系軽自動車に与えてはいるものの、実は、最低地上高はノーマルスペーシアとまったく同じ150mmなのである。
スペーシアギアの車高を上げると走行安定性などが犠牲になる可能性もあるため、3サイズは他のモデルと同様。悪路走破性を求めるならばハスラーやジムニーという選択肢を用紙しているのだ
つまり、軽自動車でSUV、クロスオーバーモデルの”雰囲気”を楽しみたい人向けと言っていい。世界に通用するミニマムサイズの本格クロカン、最低地上高205mmのジムニー。あるいは雪国ユーザーの要望もあって登場したと伝えられる、悪路や雪道に強い、乗り心地では軽自動車最上クラスの最低地上高の180mmのハスラーとは、そのキャラクター、走破性においては大きく異なるのである。
考えてみれば、全高1800mmもの、背の高さだけでなく、重心高も高いスーパーハイト系軽自動車の最低地上高をさらに高めたとすれば、全高はさらに高まることになり、走行安定性に悪影響が出る可能性があるということだ。本格的な走破性、最低地上高を望むなら、ジムニーやハスラーがあるため、スペーシアではデザイン的なクロスオーバーテイストにとどめた、とも言えるだろう。
タントはキャラクター的に追加設定の可能性はなし
では、本題である。なぜ、スペーシアのギアが一定の人気を得ているのに、N-BOXやタントが追従しないのか? N-BOXやタントにクロスオーバーモデルが出てこないのか? についてだ。
左側はピラーレス構造となるなど、ライバルの中でも特徴的な構造となっている。加えてウェイクが存在するためタントにSUV風モデルを今すぐ追加するのは考えにくい
タントの場合は、助手席Bピラーレスのパノラマオープンドアを特徴とし、世界初の運転席最大540mmのロングスライドシート(Pレンジ時のみ機能。要解除スイッチ操作)を、助手席最大380mmスライドともに採用している。このことからも分かるように、子育て世代御用達のスーパーハイト系軽自動車として成立しているのだ。アウトドアテイストに仕立てて似合うか? と言われると、キャラクター的にも微妙である。
ダイハツ軽には、アウトドア、車中泊に向くウェイクがあり、シープ的なデザインの、街乗り、アウトドアのどちらにも対応できるタフトがあるため、似たような車種が3台になってしまうことも、タントに”ギア”的なモデルバリエイションが出てこない理由だと推測する。スズキの場合は、ジムニーは別格だから、ある意味、ライトなアウトドア派向け軽は、ハスラーとスペーシアギアの2台だけ、である。
フィット・フリードに続け! N-BOXは設定の可能性あり!?
つぎに、スーパーハイト系軽自動車の中でもっとも売れているホンダ N-BOXにもなぜ“ギア”的なクルマがないのか? については、可能性はなくはない、と予想したい。ホンダNシリーズはN-BOX、N-WGN、N-ONE、N-VANの4車種が現在揃っているが、もちろん、この中にアウトドアテイストあるグレードは存在しない。本格クロスオーバーモデルもなしだ。
軽の王者ともいえるN-BOXはフィットなどにラインアップされるクロスターなるモデルが追加される可能性も!
しかし、登録車を見てみると、フィット、フリード、フリード+に今ではクロスオーバーテイストあるクロスターが揃い、フィットの場合は最低地上高まで高めているほどだ(フリード系はクロスターでも最低地上高はノーマルと同じ)。
よって、フリード寄りの、全高、重心への配慮から最低地上高はそのままの、N-BOXクロスターがあっても決しておかしくない。むしろ、スズキのハスラー、ジムニー、ダイハツのウェイク、タフトのような軽モデルラインナップがないのだから、Nシリーズのクロスオーバーモデルを待ち望むユーザーは少なくないと想像できるのだ。
ただ、ホンダはCR-Vや新型ヴェゼルを見ても分かるように、高全高、高重心を嫌い、走行性能を重視する自動車メーカーだから、なおさらN-BOXの最低地上高を上げる仕様は考えにくいのも事実。最低地上高を上げるとすればN-WGNのほうが現実的だが、車中泊対応となるとN-BOXやN-VANのほうが圧倒有利。そのあたりで悩んでいるのではないだろうか・・・。勝手な想像ですけど。
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