初代モデルは商用バンをベースに乗用車へ仕立てた
日本国内で独自の進化をしてきたのがワンボックスカーだ。なかでもデリカは本格派の4WD性能を備えるクルマとして個性が際立つ。さらにミニバンへと進化していくデリカ・ヒストリーを振り返る。
【試乗】新型デリカD:5は走り激変! フルモデルチェンジを名乗らないのが不思議なほどの進化を体感
1969年 初代デリカ・コーチ【T系】
前年登場のトラックをベースとした9人乗りのマルチパーパスビークル
商用バンとともに乗用の「デリカ・コーチ」が登場。3列シートで各3人掛けが可能な9人乗り仕様。乗用車らしくラジオやヒーター、いちょう絞りのレザー張りシートなど豪華装備を搭載する。1.1Lの直4エンジンは58馬力を発生、最高速度は115km/hと公表された。 日本の自動車史において、意外にも重要な役割を果たしているのが商用車だ。トラックやバンのことである。こういうクルマの大活躍があったからこそ、高度経済成長は成し遂げられたと言えるだろう。
現在、クルマのボディ構造は「モノコック」がほとんど。ボディそのものによって強度を確保する手法である。だがかつては「フレーム構造」が多かった。多くはハシゴ型のフレームを持ち、その上にエンジンやボディを載せる方式。もちろん商用車のトラックもそうだった。
アメリカのようにフロントエンジンのトラックではなく、日本ではRRやキャビン下にエンジンを搭載するキャブオーバー型が多かった。理由は限られたサイズでできるだけ荷台を大きくするためだ。だがトラックでは荷物が濡れることがある。そこで荷台部分までルーフを伸ばしてクローズドボディにしたクルマ=ワンボックスカーが登場する。
フレーム構造の利点は、フレームの上に収まるボディの自由度が高い点にある。フレーム構造だったトヨタ・クラウンにもかつてはピックアップトラックがあった。ダイハツ・コンパーノは、セダン、オープン、ライトバン、トラックと4種のボディをラインアップしていたほどだ。
商用バンが主だったワンボックスだが、乗用ワゴンモデルも用意された。これが現在まで続くミニバンのルーツと言える。
1961年に軽自動車のスバル・サンバーが登場。RRレイアウトの軽ワンボックスで、これが大ヒットしていた。普通自動車で日本初のワンボックスカーは1966年登場のマツダ・ボンゴ。これを皮切りに続々と日本でワンボックスカーが登場する。デリカもそのなかの1台。
まず1968年にトラックのデリカを登場させ、翌年にワンボックスのデリカ・ライトバン/ルートバンに加え、乗用ワゴンモデルのデリカ・コーチを登場させた。ボンゴなどは8人乗りだったが、デリカは3人掛けのシートを3列揃え、9人乗りとしていた。わずか1.1Lエンジンで9人乗りとは恐れ入る。ともあれここからデリカ栄光の歴史が始まった。
1971年「デリカ75シリーズ」へと進化
1971年、トラックの積載量が600kg→750kgになったことから「75シリーズ」と呼ばれるモデルにスイッチされた。エンジンはスポーティカーだったギャランクーペFTOと共通の1.4L(86馬力)を新搭載。フロントにガーニッシュが備わるなど、外観も変更されている。
エンジンは当時のギャランクーペFTOと基本的に共通する1.4L OHVを新搭載。86馬力と大幅にパワーアップした。
2列目シートの左側に折りたたみ式シートを採用。1~3列目まで3人掛けを可能とする9人乗りが初代デリカの特徴だ。
1972年 デリカ・キャンピングバン
20年も時代を先取りしたRV仕様
1972年に登場した「デリカ・キャンピングバン」。ポップアップルーフを備え、上段ベッドやハンモックなど標準装備。キッチンやレンジもオプションで設定した。オートキャンプブームの約20年前に本格的なキャンパー仕様を設定していたのだ。のちに「RVの三菱」と呼ばれるだけあってさすがの慧眼だ。
1979年 2代目デリカ・スターワゴン【L系】
日本初、4WDワンボックスの追加で一躍トップスターへと急上昇
乗用モデルは新たに「スターワゴン」の名が与えられた。サイレントシャフト付きの86馬力を発生するサターン80エンジンを搭載し、ワンボックス初の5速MT仕様も用意。翌1980年にはハイルーフ&1.8L車追加。1981年には対面シート仕様が設定された。
1982年、フォルテのシャーシを用いワンボックス初の4WDモデルを設定。これが大人気となり四駆ブームに火を付けた。
1985年 デリカ・スターワゴン・シャモニー
のちに定番となる冬期限定特装車が初登場
1985年に登場したデリカの冬季限定にしてスキー仕様特別仕様車「シャモニー」。現在まで続く定番特装車だ。1980年代後半のスキーブームを予見したようなモデル。
戦後から作り続ける本格4WDの性能をデリカも受け継ぐ
戦後、自衛隊の前身、警察予備隊から「小型トラックを作ってほしい」と依頼され、自動車メーカー3社がその競争入札に応じた。トヨタは「ジープBJ 型」、日産は「4W60型」、そして三菱はアメリカのウィリス社と提携し本家のジープを用意した。競争を勝ち抜いたのは三菱。かくして三菱は1953年からジープのノックダウン生産を行ない、一般向けにもジープを販売する。それはじつに45年間、1998年まで続いた。ちなみに敗れたトヨタ・ジープBJ 型は後にランドクルーザーとなり、日産の4W60型は後にパトロール(日本ではサファリ)となって現在に至っている。間接的にランクルの生みの親は自衛隊と言えなくもないのだ。
三菱は戦後間もないころから4WD車を作り続けてきたということになる。ノウハウは十二分に蓄積していたのは間違いない。1978年、三菱はフォルテというフロントエンジンのピックアップトラックをリリースし、さらに1980年、そのフォルテに4WDを追加する。ジープ生産の技術を詰め込んだモデルだった。そして1982年、フォルテ4WDの技術を流用し、日本の自動車史に残るクルマを登場させる。
それが初代パジェロだ。頑丈なラダーフレーム構造にパートタイム4WDを搭載する本格派のクロスカントリー4WDである。当初は商用バンのみの設定で特殊なクルマと思われたが、1983年乗用モデルを追加、さらに4ドアのロングボディを登場させた。パジェロ人気に火が付くと、日本に空前の「四駆ブーム」が巻き起こる。1987年に映画「私をスキーに連れてって」が公開されるとスキーブームが始まり、4WD車の人気はますます加速していく。ステッカーを山ほど貼った4WD車や、ハイリフトのクルマなどが街にあふれ、まさにブームだった。
パジェロ登場の同年、パジェロと同様の4WDシステムを移植されたクルマが、なにを隠そうデリカ・スターワゴンだった。これが国産ワンボックス初の4WDで、しかも本格的なクロスカントリー走行もできるクルマだった。デリカ4WDもまた人気となり、パジェロとともに四駆ブームを牽引する。2&3代目「スターワゴン」時代は、デリカ=4WDというイメージが確立した。
1986年 3代目デリカ・スターワゴン【P系】
デリカ=4WDというイメージを確立し大人気パジェロとともにRVブームを牽引
先代同様、3代目も主力は4WDモデル。クロカン4WD並みの走破性を誇り、搭載エンジンは2Lガソリンと2.5Lのディーゼルターボ。標準ルーフに加えハイルーフも設定。ハイルーフには「クリスタルライトルーフ」と呼ぶゴージャスなサンルーフ仕様を設定するなど、装備も極めて豪華だ。
セカンドシートはロングスライドに加え回転機能付きで、前向き&後ろ向きのほか、斜め30度の位置でも固定できる。一体型のオーディオなど装備は充実している。
こちらは2WD。ハイルーフ仕様に「クリスタルライトルーフ」を設定。上級モデルは高級車のような豪華装備を誇る。
1982年-1991年 初代パジェロ
四駆ブームを巻き起こした大人気4WD
スターワゴン時代のデリカ4WDと基本的に同じシステムを持つクロスカントリー4WDが初代パジェロ。1987年公開の映画「私をスキーに連れてって」以降のスキーブームも重なって、パジェロは空前の四駆ブームを巻き起こした。
1994 4代目デリカ・スペースギア【P#系】
パジェロ譲りの本格派フルタイム4WDを搭載
衝突安全基準に対応するため短いノーズを設けてミニバン化した4代目「スペースギア」。2代目パジェロと同様の頑丈なビルトインラダーフレーム、フルタイム化されたスーパーセレクト4WDを備える。3L V6など4種類のエンジンを搭載する。全長5mを超えるロングボディも用意された。
バブル期の開発だけあって、豪華絢爛と言える装備を誇る。8人乗りのセカンドシートは対座はもちろん、90度の位置で固定することができた。
2WDモデル。ロングには10人乗りも設定。先代同様、上級モデルにはクリスタルライトルーフを用意した。
安全性を高めるためにボディ形状も進化する
1990年代に入ると、自動車の安全性が重要視され始める。日本でも衝突試験が行なわれようとしていた。これがワンボックスカーに大きな試練を突きつけてきた。ワンボックスカーでは、衝突時につぶれてキャビンを守ってくれる「クラッシャブルゾーン」が圧倒的に足りない、という問題である。そこでワンボックスは、短いノーズを設けクラッシャブルゾーンを確保、安全性を向上させた。1991年日産バネットはバネット・セレナに、1995年にはトヨタ・ハイエースもグランビアに進化した。
デリカも進化が必要だった。ベースとしたのは、1991年に2代目モデルへと大きく進化を遂げていたパジェロである。そして1994年、4代目デリカとなる「スペースギア」が登場する。パジェロと同様の頑丈なビルトインラダーフレーム構造、ロック可能なセンターデフを持つスーパーセレクト4WDを搭載し、4WDモデルは高いクロスカントリー性能を誇った。大バリエーションを用意し、さまざまなユーザーに応えたのだ。またこの頃、重要なクルマが他社からデビューしている。
それは1994年に登場したホンダ・オデッセイである。ワンボックス進化型ではない、乗用車の延長線上にあるミニバンだ。オデッセイは大ヒットし、今度は「ミニバンブーム」を巻き起こす。出自が違うとはいえ、ミニバン化したワンボックスにとっても、これは追い風となった。
デリカ・スペースギアも大いに人気を集め、三菱のドル箱車種へと成長。オデッセイ、スペースギア以外にも、ホンダ・ステップワゴンや日産エルグランドなど、ミニバンのベストセラーが数多く生まれている。
一方、北米では1980年代後半からSUVが人気を集めていた。それが2000年代になると人気はグローバル化、世界的な人気ジャンルへと成長する。三菱は2001年にエアトレックを投入。その後継モデルとして2005年、アウトランダーが登場する。三菱らしく高性能な電子制御式4WDを搭載していた。
これが5代目デリカ「D:5」に受け継がれる。D:5の個性はミニバンとしては圧倒的に高い走破性にある。ミニバンとSUVのクロスオーバーとして唯一無二の存在と言えるだろう。
2007年 5代目デリカD:5【CV系】
高いオールラウンド性能を持つSUVとミニバンのクロスオーバー
「D:5」とサブネームが変更された5代目。初代アウトランダーと共通する電子制御式4WD、可変バルブタイミング機構付きの2.4Lエンジンを搭載、いわばミニバンとSUVのクロスオーバーモデルと言える。4WDが先行販売され、すぐに2WDが追加された。
当初は8人乗りのみ設定、のちに7人乗りが加わる。トランスミッションはCVTで、スポーティなパドルシフトを備える。
2WDの主力に据えたのは専用エアロパーツを装備する「ローデスト」。のちに4WDモデルにも設定された。
2005年 アウトランダー
D:5と共通の4WDシステムを採用する
三菱の新時代SUVとして2005年に登場した初代アウトランダー。2WD/4WDオート/4WDロックの3モード備える電子制御式の4WDなどD:5同様のシステムを搭載。
国産ミニバン初のクリーンディーゼルエンジン
2012年、デリカD:5は国産ミニバンで初めて規制をクリアするクリーンディーゼルエンジンを搭載。2.3Lターボは、36.7kg-mというガソリンよりはるかに高いトルクを発生した。
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