超カーガイだったマックイーン
ハリウッドの伝説的な主役であり、熱烈な自動車愛好家だったスティーブ・マックイーン。彼の人生は2輪と4輪でのレースを生きがいとし、日常でもフェラーリやジャガー、ポルシェ、コブラなどのスポーツカーに彩られてきた。その代表作といえる作品が、自ら率いるソーラー・プロダクションが制作した本格カーレース映画の「栄光のル・マン」だ。フェラーリvsポルシェの闘いを、レーサーの視点で構成されたリアリティある仕上がりから、今も名作として支持されている。
【画像】マックイーンのフェラーリ 275GTB/4がオークションに登場 7.9億は高い? 安い? 全25枚
これまでもマックイーンの愛車は何度かオークションに姿を現している。2007年にフェラーリ 250GTベルリネッタ・ルッソが出品され231万ドルで落札。当時250GTLルッソの相場は75万ドル前後で、マックイーンが所有したヒストリーで約3倍になったのである。2011年には栄光のル・マンのオープニングシーンに登場したポルシェ 911Sが出品された。当時911 2.2Sの相場は10万ドル程度だったが、マックイーン所有車と栄光のル・マンの劇中車というヒストリーから、驚きといえる137万5000ドルで落札されている。
フェラーリ 275GTB/4とは
8月に開かれたRMサザビーズのモントレー・オークションに、スティーブ・マックイーンが所有していたフェラーリ 275GTB/4が出品された。
フェラーリ 275GTBは、快適性を重視して開発された2シーターのベルリネッタで、1964年にデビューした。当初はショートノーズ・スタイルだったが、1966年にロングノーズ・タイプに進化する。エンジンは伝統のコロンボタイプの発展形となるV型12気筒SOHCで、3.3Lの総排気量から280psを発揮し、最高速度は258km/hをマークした。機構的にも前後重量配分に優れるトランスアクスルと4輪独立懸架が、フェラーリのロードカーとして初めて採用された。
275GTBが人気を集めた理由のひとつが流麗なスタイリングにある。ピニンファリーナの手による’60年代らしい曲線で構成された官能的なラインに、リアフェンダーでキックアップするコークボトルラインやトランク後端を跳ね上げたダックテールなど、当時の流行を取り入れたデザインだった。
1966年10月に開かれたパリ・サロンで進化型の275GTB/4がデビューする。最大の変更点はDOHCヘッドの採用にある。モデル名に追加された「/4」は、4カムシャフトを意味する。4カム化により最高出力は300ps、最高速度は268km/hに達した。スタイリングは2カムのロングノーズ車に準じるが、エンジンフード中央に細く浅いバルジが設けられたことが識別点。275GTB/4は1968年までに300台が送り出された。
マックイーンの275GTB/4
1960年代後半にマックイーンは、超希少な275GTS/4 N.A.R.T.スパイダーに乗っていたが、信号待ちの時に追突されてしまう。マックイーンは、N.A.R.T.スパイダーの修理に時間がかかることに我慢できず、すぐ手に入る275GTB/4を購入したのである。購入した275GTB/4は1967年後半に作られ、外装色はちょっと変わったノッチョーラ(ヘーゼルナッツ)という黄色がかった薄茶色で、インテリアはブラックレザーだった。
購入した275GTB/4は、信頼するリー・ブラウンの工房に持ち込まれ、キャンティ・レッドと呼ばれるダーク・マルーンでリペイントされた。マックイーンの要望で、N.A.R.T.スパイダーから取り外したボラーニのワイヤーホイールと、運転席側のフェンダー上に1950年代のポルシェ・レンシュポルト風のサイドミラーが取り付けられた。仕上がった275GTB/4は、マックイーンのお気に入りの1台として、撮影現場への通勤に使用された。1971年にはこのフェラーリを俳優のガイ・ウィリアムズに売却した。
その後何人かを経て、1970年代後半にクラッシュを喫する。そして1980年に損傷した状態で入手した新オーナーは、ルーフをカットしてN.A.R.T.スパイダーに改造してしまった。1997年にサンフランシスコへ、2009年になるとオーストラリアへ渡り、元ポルシェのワークスドライバーで1983年ル・マン優勝者のヴァーン・シュパン氏が入手する。シュパン氏は、このフェラーリをオリジナルの姿に戻すべきと考え、レストアに着手する。まず徹底的な考証を行い、スパイダー改造時に取り外された部品の大半を探し出して入手することができたという。
こうして275GTB/4の車体と部品はフェラーリ・クラシケに送られ、レストアが始められた。マックイーンに敬意を表し、彼の注文色であるキャンティ・レッドで仕上げられ、さらに当時の仕様に戻すため、ワイヤーホイールと独特なサイドミラーが装着された。またカリフォルニアの希少なブラック・ライセンスプレートが残されていることも見逃せないポイントだ。
レストアが完成した275GTB/4にはフェラーリ・クラシケ認定書が備わる。そのままマラネッロのムゼオ・フェラーリでの「シネマのフェラーリ展」で公開されている。その後2014年にシュパン氏はオークションへ出品し、イギリスの愛好家が落札する。彼は2016年のヴィラ・デステ・コンコルソ・デレガンツァでこの275GTB/4を披露した。
再びオークションに登場
そして、マックイーンが所有したフェラーリ 275GTB/4が再びオークションに姿を現した。この8月に開催されたRMサザビーズ・モントレーオークションに出品されたのである。
実は2014年のモントレー・オークションで、マックイーンの275GTB/4は1017万5000ドル(当時のレートで10億4294万円)で落札されていたのである。この時はレストアが完成した直後の完璧な状態で、コレクターズカー・バブルが始まった時期だったこともあり、大盛り上がりした結果だった。今年のモントレー・オークションに再登場したマックイーンの275GTB/4は、主催者発表の予想落札額は500-700万ドルと控えめだった。入札を終えてみれば、最終的に2014年の約半分となる539万5000ドル(約7億8767万円)でハンマーが振り下ろされた。
直近における275GTB/4の相場は350万ドル前後となるだけに、マックイーンが所有していたヒストリーを考えると、ノーマルの約1.5倍止まりの539万5000ドルは大バーゲンといえる。今回のモントレー・オークションは、貴重な大物物件が多数出品されたため、マックイーンの275GTB/4が、陰に隠れてしまったのかもしれない。
ここにきてクラシック・フェラーリの落札額は上昇傾向にあるだけに、次にマックイーンの275GTB/4がオークションに姿を現したときは、再び1000万ドルの値を付けるに違いない。
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275GTB自体数決まってるから値上げはしゃーない