連載/石川真禧照のラグジュアリーカーワールド
自動車メーカーのドイツ御三家といえば、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディだが、この3社に共通しているのは、ベーシックな量産モデルのほかにレーシングテクノロジーを投入したスポーツモデルのシリーズが用意されていること。3社ともに、サーキットレースを中心としたモータースポーツにも力を入れており、そのノウハウを生かしたハイパフォーマンスカーを開発している。メルセデス・ベンツはAMG、アウディはRSというブランドで、BMWはMという名称を用いている。今回、紹介するのは「M4」だ。
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2021年1月に日本に上陸し、春から納車を開始したスポーツモデルは、4シリーズ2ドアクーペをベースにしている。ノーマル仕様のM4、サーキット走行も可能なM4コンペティション、さらに高性能な走行が可能なコンペティションカー、トラックパッケージの3モデルが用意されている。
試乗したのは、中間モデルの「M4コンペティション」(1348万円)。このグレードはコンペティションという位置付けだが、高性能3眼カメラ&レーダーや高性能プロセッサーを用いた最先端運転支援システムを標準で装備している。高速道路での渋滞時には、一定条件下でのハンドルから手を離してのハンズオフ走行も可能な運転支援機能も装備されている。
こんなに先進技術が装備されているサーキットモデルなんて、今までにはなかった。日常使いでもまったく普通に使えそうだ。そんな「Mマシン」というのも初めての体験だ。
「M4」の外観はこれまでのMモデルと比較してもかなり迫力がある。フロントのキドニーグリルは大型で、太いメッキと水平方向のダブルバーを採用。エアインテークも大型タイプを装着している。
サイドデザインはMモデル専用のサイドギル、ドアミラー、ダウンフォース性能を得るためのリアスポイラーを標準装備している。リアは空力性能を高めるためのディフューザーやワイドトレッドをクリアするためのワイドフェンダーが迫力だ。
内装もMロゴのドアシル、専用デザインのメーターパネル、ハンドル、スポーツシートが目に入ってくる。パワーユニットもなかなかのものだ。BMWが得意とする直列6気筒(※BMWにV6はない)。3ℓツインターボガソリンエンジンは、480PSの出力と550Nmのトルクを発生する。このノーマル仕様をベースに510PS、650Nmまでチューンされている。
ボンネットの中は、圧力損失を最小限にした吸気ダクト、重量を最適化し高回転まで安定したパワー供給を実現した鍛造ピストン、低回転時でも高いトルクを発生するツインターボなどが配置されている。最高速は250km/hリミッターだが、オプションで290km/hまで出せるようになっている。
ボディーを含め、ドライブトレーンを構成する名パーツにはアルミニウムを多用し、軽量化と運動性能の向上が図られている。ブレーキも軽量化された大径ブレーキディスクと6ポッドMコンパウンドブレーキを標準で装備。ミッションはドライブロジック付きの8速MステップトロニックAT。M4クーペにはMTも用意されている。
今回、レーシングコースでも通用する「M4コンペティション」を試乗したのだが、他の取材も兼ねて、東京から御殿場まで行かなければならなかった。レース用にもなるマシンで御殿場まで走るのは、音、乗り心地を考えると正直、気が重かった。それは同乗者も同じだった。
しかし、この考えは完全に間違っていた。高速道路を走り出してすぐに体感できたのは乗り心地のしなやかさ。確かにコーナーやレーンチェンジの時のハンドルのクイックさや身のこなしはレーシングカーのように俊敏で、気を抜くことは許されない。だが、目地の乗り越えや路面のゴツゴツした動きは、Mモードでコンフォートに相当する「ロード」モードではかなり抑えられる。これならば東京~大阪間を走っても疲れは軽減できるはずだ。
もちろん、セットアップ(エンジン/シャーシ/ステアリング/ブレーキ/Mトラコンコントロール)ボタンで好みの性能をセットすれば、サーキット走行用の硬さと重さになる。かつての高性能GTは、サーキットまで自力で走行し、パドックでスペアタイヤなど不用なものをクルマから降ろし、ヘッドライトなどにガラス飛散防止用テープを貼り、ゼッケンをつけてレースに参加し、入賞する。帰りはリアシートに入賞カップを積み込み、ゼッケンをはがし、家に向かうということができる、そんなクルマのことを指していた。このBMW「M4コンペティション」はまさにそういうクルマだ。
◆ 関連情報
https://www.bmw.co.jp/ja/all-models/m-series/m4-coupe/2020/bmw-4-series-coupe-m-automobiles-overview.html
文/石川真禧照(自動車生活探検家)
雑誌「DIME」の連載「カー・オブ・ザ・ダイム」を長年にわたり執筆。取材で北米、欧州、中東、アジアをクルマで走破するなど、世界のクルマ事情に詳しい。国内外で年間に試乗するクルマは軽からスーパーカーまで200台以上。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)副会長。日本モータースポーツ記者会(JMS)監事。日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)選考委員。
撮影/萩原文博(静止画)、吉田海夕(動画)
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