最も古い車両は1911年製! 大正時代発祥のレース場跡をビンテージバイクが実走
11月29日(日)、愛知県津島市にて『第3回ビンテージバイク・ラン in TSUSHIMA』というイベントが好天のもと盛況に開催されました。
【関連写真17点】1910年代のトライアンフ、1920年代のインディアン、1950年代のキャブトンが走った!
パレードに参加した二輪オーナーは32名。最も古いモデルは、今から109年前の1911年(明治44年)に英国のABINGTON KING DICK(アビントン キングディック)というメーカー製です。日本で動態保存されている車両はこの1台だけかもしれません。
ほかにも希少価値の高い二輪車が勢ぞろいした様子は、圧巻の一言。
本当にエンジンが掛かり走ることができるのか。どんな排気音なのか。見学に訪れた市民は興味津々でした。
会場は、津島市民の憩いの場として100年の歴史を誇る天王川(てんのうがわ)公園。 このイベントを企画したのは、二輪車と津島の地をこよなく愛する有志で結成された「ビンテージバイク・ラン in TSUSHIMA 準備委員会」のメンバーです。
大正15年から昭和42年まで開催された「天王川オートレース」
1920年(大正9年)に開設された天王川公園では、1926年(大正15年)に、第一回全国オートバイ競争が開催されました。時には20万人の観客を記録するなど、全国からプロ、アマチュアを問わず腕自慢のレーサーがテクニックを競い合いました。
この大会は、第二次世界大戦時の中断をはさみ1967年(昭和42年)まで続けられた一大イベントでした。この天王川オートレースの歴史を次代に継承しようという思いから企画されたとのことです。
そして今年は、天王川公園開設100周年を記念して、念願であった当時のコースの一部を使いパレードランが実現できることになりました。
天王川公園の池の外周は約800メートルあり、まさにダートトラックコースというべき形状です。この地をオートレース会場に選定した理由も理解できます。
ビンテージバイク・ランは、この池の外周に沿って約200メートルを走ります。午前の部は、第二次世界大戦以前(1944年以前)に製造された15台が出走しました。
それぞれ当時のライディングウエアのイメージで身を固め、1台ずつライダーとマシンの紹介をされた後にスタートです。時には白煙が舞い上がり、オイルの焼けた独特なにおいも相まって、観客はタイムスリップしたような異次元の世界に引き込まれます。ライダーは、晴れの舞台のために仕上げてきた自慢のバイクでご満悦の笑顔です。
それを見守る観衆も、子供から年配者までみんなが笑顔になります。
わずか200メートルコースの往復ですが、ゴールしますと拍手喝采で労をねぎらいます。大正、昭和の時代に走ったであろうビンテージバイクが同じコースを走ったことで、歴史は蘇るとともに、次世代へと語り継がれる二輪文化がこの時に生まれたと感じました。「いいものを見させてもらった」というお礼の言葉を会場のあちらこちらで聞くことができました。
1910年代の戦前車を所有するオーナーさんにインタビュー
参加者の中でお二人に話を伺うことができました。
大正元年のラッジ マルチ&大正3年のトライアンフ ジュニアを所有する加藤さん
展示車としてRudge Multi(ラッジ マルチ・500cc)を出展。英国で1912年(大正元年)に製造されたもので、イベント1週間前に愛車の1台に加わったモデルとのことです。これから実動に向けてのレストアに着手したいとのことです。
パレード走行には、1914年(大正3年)製造の英国トライアンフ社のトライアンフ・ジュニアで参加されました。このマシンは、父上が岡崎市で経営していた自転車店時代から愛用されていたもので、それを譲り受けたものだそうです。
106年の時の中で、戦争や自然災害など幾多の困難にも直面されたと思いますが、奇跡的に継承された1台です。
大正8年のリーディング スタンダードを所有する鈴村さん
1919年(大正8年)英国にて生産されたREADING STANDERD(リーディング スタンダード・990ccVツイン)。
日本には少数輸入されたとのことですが、日本に現存するのはこの1台かもしれません。岐阜県恵那市の造り酒屋さんの蔵に保存されていたとのこと。こちらも奇跡の1台です。
このマシンについては、資料がほとんどないとのことで、資料探しにも取り組みたいと語っていました。
明治44年のアビントン キングディックを所有する水谷さん
パレードを走った戦前の車両で最も古いマシンは、1911年(明治44年)に英国のABINGTON KING DICK(アビントン キングディック)というメーカー製です。
エンジンは軽やかに回り109年前のバイクとは思えないコンディションでした。オーナーの水谷さんは、毛織物で全国に名を馳せた津島にふさわしく、おしゃれなツイードスタイルで軽快な走りを披露してくださいました。
第二次世界大戦後の車両はハーレーダビッドソンが多め
戦後(1945年以降)に生産された車両の多くはハーレーダビッドソンの重厚なマシンたちです。
トップと2番目は女性ライダーが大型バイクを見事に操り観衆を沸かせました。
会場には当時の「天王川オートレース」を見ていた人も
【75歳の男性 津島市在住】
「20歳の頃ここで見たよ。砂埃がすごくて見るのも大変だったが、迫力はあったねぇ。池の周りを走るコースは当時と同じだが、もっと広かった。あちこちに桟敷席があった。入場料は取らなかったからタダで見られたよ。池を渡る木の橋は昔もあった。木なので滑って転んで順位が変わり、ここが勝負所だった。この公園が人で埋まったね。バイクが走るところを見られて感激だよ」
【76歳の男性 津島市近郊に在住】
「新聞で天王川を昔のバイクが走るというニュースを見てやってきた。昭和42年のレースを間近で見た。23歳ころだったね。このあたりが人で満杯になって、それは凄い大会だった。1986年に、ここでパレードランと模擬競争を行った時も見ている。今日は、当時の写真を主催している人たちに見てもらおうと持ってきたんだ。居てもたってもいられなかった。来年もぜひやってもらいたいね」
と、当時のアルバムを広げていると、周りには数名の観客が集まり当時の話に花が咲きます。最後のレースの時に、公園でお好み焼き屋をやっていたという婦人は、アルバムの写真を撮影しながら、感慨にふけっていました。
【20歳代の女性 家族3名での観戦】
「見たことのないバイクがいっぱい走っていて、音も匂いもすごい。走っているところを家で待っているおじいちゃんに見せてあげたい」
と、最前列で熱心に映像撮影をしていました。
このように家族連れで見学している人が多く見かけられました。100年前のバイクが走るわけですから、バイクに詳しくない人にとっても必見のイベントでした。
このイベントを通して、世界と日本の二輪車産業の歴史と進化、そして盛衰に至るまで肌身に感じることができました。
戦後の中京地区は、二輪産業が活発な土地だった
会場には、名古屋郷土二輪館を運営し、中部産業遺産研究会会員をされている、冨成一也氏が収集された天王川オートレースに関わる資料が公開され、会場を訪れた人たちが熱心に観察していました。
(冨成氏は八重洲出版が発行した数々の出版物に、中京地区の二輪車産業の歴史について執筆しています)
30歳ころから休日を利用して、二輪産業にゆかりのある方々や天王川オートレースに出場された方や家族に面会して、お話を伺いながら資料の収集に努められたとのことです。
多くは、残されていなかったそうですが、会場に展示された当時のプログラムや優勝旗、賞状などから当時の歓声が聞こえてくるようです。
冨成氏の説明によると……
「中京地区は、戦前から毛織物の産業や軽機械工業が盛んな地域で、毛織物で財を成した人たちによる協賛や選手の育成などで大会を全面的に支えてきました。戦後の中京地区では二輪車産業が新たに栄え70社を数えるメーカーが存在していました。オートレースも様々なメーカーが出場しました。1950年代後半になると、東海地区のホンダ、スズキ、ヤマハが高性能な二輪車を続々と販売し、中京地区の二輪車産業は衰退の一途をたどります。また、繊維関連の産業の衰退と、1959年(昭和34年)の伊勢湾台風による甚大な被害もあり、天王川オートレースは、1967年(昭和42年)を最後に幕を閉じました。そして、1962年(昭和37年)に本格的な国際レーシングコース・鈴鹿サーキットが開業したのも少なからず影響していたと考えます」
ここで、二輪車の歴史と天王川オートレースを時系列に並べてみたいと思います。
大変大雑把なのですが、少しでも時代背景がわかりますと、より一層興味が湧いてくると思います。そして天王川オートレースが1967年まで開催されていたという事実に改めて驚かされます。
1885年 ドイツのゴットリープ・ダイムラーによる二輪車第一号が誕生
1888年 ダンロップによる空気入りタイヤが誕生
1899年 英国マチレス社がエンジン付き自転車を発売
1902年 英国トライアンフ社が自転車にベルギー製エンジンを搭載し発売。英国ノートン社がプジョーエンジン搭載車を発売
1903年 米国ハーレーダビッドソン社が406ccの二輪車第一号を発売
1907年 第一回マン島T.T.レースが開催される
1909年 島津楢蔵による国産第一号の二輪車「NS号」が完成
1911年 ビンテージバイク・ランin TSUSHIMAのパレードランに参加した最も古い車両「ABINGTON KING DICK」が生産される
1913年 関西の鳴尾にてオートレースが開催される
1914年~1918年 第一次世界大戦
1926年 天王川で第一回全国オートバイ競争が開催される
1926年 名古屋をスタートするオール日本T.T.レースが開催される。北陸、信州を回る1280kmの行程
1930年 多田健蔵氏がマン島T.T.レースに出場(日本人として初)
1939年~1945年 第二次世界大戦
1946年~ 中京・関西・東海・東京各地域で原動機付き自転車や二輪車を生産する企業が急増
1946年 本田技術研究所設立、ホンダA型(自転車補助用エンジン)を発売
1953年 名古屋T.T.レースが開催される
1955年 第一回浅間高原レースが開催される
1959年 ホンダがマン島T.T.レースに出場(日本メーカーとして初)
1962年 鈴鹿サーキット開業
1967年 最後の天王川オートレースが開催される
1986年 天王川公園にて、津島青年会議所主催によるパレードを開催
2020年 第3回「ビンテージバイク・ランin TSUSHIMA」が開催される
レポート●高山正之(元Honda広報部 二輪担当) 写真●モーサイ編集部 編集●上野茂岐
参考資料●『輸入車100年史』(1988年八重洲出版)
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