VWタイプ1をベースにしたスポーツカー
どんな時代でも、クルマ好きは手頃なスポーツカーを求める。第二次大戦で荒廃したドイツやオーストリアでさえ、フォルクスワーゲン・タイプ1をベースにしたロードスターやクーペが、戦後間もない頃から多くのコーチビルダーによって生み出されていた。
【画像】VWビートルがベース D&SスポーツカブリオレとWDデンゼル1300 356とビートルも 全85枚
フェルディナント・ポルシェ氏は、ドイツ・シュツットガルトのリッター社にポルシェ356のボディ製作を依頼。独自のシャシーを設計し、約2年を投じて初期の50台の生産にこぎ着けた。
そのドイツには、同様に独自のスポーツモデルを構築しようと考えたコーチビルダーが存在した。ダネンハウアー&シュタウス(D&S)社だ。356より、ずっと控えめな内容ではあったけれど。
D&S社は、タイプ1の原型となるKdFワーゲンのプロトタイプ用ボディ製作へ、リッター社とともに関わった経験を持っていた。それ以外の同業者より、フォルクスワーゲンの構造には詳しかったといえる。
1949年5月に新しいドイツ連邦が成立すると、D&Sも通常営業に復帰。大量生産されコンポーネントを転用しやすい、フォルクスワーゲンをベースにしたスポーツカーの需要へ応えることで、事業拡大を狙った。
腕利きの板金工であり、自動車のメカニックとしても経験を積んでいた義理の息子、カート・シュタウス氏も新事業に参加。創業者のゴットヒルフ・ダネンハウアー氏とともに、シュツットガルトにワークショップを構えることになった。
ポルシェ356に似たフロントデザイン
メカニズムに関しては詳しかったが、カーデザインには充分な経験がないと理解していた2人は、エンジニアのヴニバルト・カム氏のもとで学ぶ学生へスタイリングを依頼。滑らかなロードスターが描き出された。
ゴットヒルフとカートがデザインに細かな手を加え、スポーツカブリオレの原型が誕生した。エンジンとフロントシートの間に、カバーで覆える荷室が設けられていたのが特徴といえる。
1950年のクリスマスがやってくる頃には、最初の1台が完成。フロントシートの後ろには、2+2として使える簡易的なベンチシート付きの荷室が与えられていた。
今回ご登場いただいたダネンハウアー&シュタウス・スポーツカブリオレは、1951年後半の製造。設計やデザインはオリジナルのままで、左右に分割されたスプリット・フロントウインドウが初期型の目印となる。
D&Sの方がよりボディに厚みがあるものの、フロント周りの造形はポルシェ356に似ている。タイプ1を祖先とするクルマとして、避けられない近似性なのかもしれない。
シャシーは、フォルクスワーゲンのスケートボードと呼ばれた構造を踏襲している。ポルシェのように、独自設計は取られていない。
ボディ側面へ回ってみると、余計な膨らみのないフラットな面構成に気づく。空気力学に長けていた、ヴニバルトの影響は明らかだろう。丸みを帯びたフォルムは、テールに向けてなだらかに傾いている。ホイールアーチも小さい。
コンポーネントの入手はスウェーデンから
全体的には、ポルシェ356ほどスポーティとは感じられないし、優雅には見えない。特徴的な処理も限定的で、エンジンリッドの上に載った後ろ向きのエアインテークが、控えめに個性を主張している。
一方でポルシェとは異なり、D&Sはタイプ1用コンポーネントの入手に苦労していた。ドイツ国外のディーラーが手っ取り早い手段だったようで、主にスウェーデンから調達していたという。
今回のスポーツカブリオレの場合、ベースとなっているのは1950年製のタイプ1。顧客がベース車両を手配したか、どこかのルートを通じて入手した証拠といえる。
しかし、それ以外の情報は殆ど不明だという。1980年まで、オーストリア・ウイーンで朽ち果てた状態にあった。
地元に住むルドルフ・エッテル氏は、初期のポルシェがあるという話を聞き、クルマを見にいった。その後、希少なD&Sスポーツカブリオレだと判明した。
エッテルは、クルマを買い取るとレストア。ボディをホワイトに塗り替え、38年間も大切に楽しんだ。1989年には、イタリアで開催される公道ラリー、タルガ・フローリオにも出場している。
2018年にドイツのカーディーラーへ売却されるが、すぐに現オーナーのマーク・レイノルズ氏の目に留まった。彼は空冷フォルクスワーゲンの部品サプライヤーを英国で営んでおり、不足ない知識を持っていたが、購入までには数か月の交渉が必要だった。
この続きは後編にて。
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所詮、日本の旧車を愛でる人のレベルはこの程度