わずか4年で生産終了となったモデル
1992年に登場したマツダ「MX-6」は、「クロノス」をベースに専用のボディを与えられた1台です。同時期に発売されたクロノスの兄弟車の中でも唯一の2ドアスペシャリティクーペでした。そんなMX-6のカタログは欧州風味でスタイリッシュでした。
アンフィニ「MS-6」は「クロノス」の派生モデルだった! 今思えば贅沢な2種類のV6エンジンを設定していました【カタログは語る】
カタログは「魅せる」絵作りになっていた
「New V6 Modern」……カタログの表紙にそんなフレーズを掲げて1992年1月にマツダから登場したのが「MX-6」である。ページをめくると最初に目に飛び込んでくるのはヴィンテージレッドのMX-6と「ラテンの旋律。」の文字。それまでもマツダ車というと、日本車の中でも走りもスタイルも欧州調……とくにドイツ車風味のクルマが多かったが、このMX-6ではやや趣を変えてみた、といったところか。長いが最初のページを引用しておこう。
「生きる歓びに、ひたすらまっすぐ突き進む。きょうの愉しさを、自分でどんどん切り開く。そんなラテンの生き方にも似たおおらかなスタイルを、もっと歓迎しようじゃないか。謳うように、軽やかに生きようじゃないか。ひとが輝く一瞬に、最速で向かいたい。甘美なV6の旋律と、あざやかなフォルムのコラージュ。マツダMX-6」
弾けたというより、いかにも精神の解放の謳歌に誘うような(?)、そういう文面も決して嫌いではない筆者をして照れてしまうようなコピーだった。
さらにカタログを見ていくと、しばらく外観、内装の大写しの写真が続く。その次からは、項目ごと「表題」にすべて発音記号付きのイタリア語を使いながらの紹介ページへ。PASSIONE(情熱)=エンジン/サスペンションなどのメカニズム関係、CANTARE(歌う)=オーディオ、FELICITA(幸福)=ボディ/装備……といった風にまとめられていた。
もともとこの頃のマツダ車のカタログは縦×横がスクエア(MX-6の場合は285×285mm)なサイズで、どの車種もアートな装丁を特徴としていた。その中でもMX-6は、石造りの建造物を背景にヴィンテージレッドのMX-6が佇む光景であったり、なかなか「魅せる」絵作りになっていた。もちろん全体に落ち着いたトーンの「絵」のなかでMX-6の姿がクッキリと際立ってみえたのはいうまでもない。
このMX-6で何といっても特徴的だったのは、クロノスをはじめとした、同時期に誕生した言わば兄弟関係にある車種のなかで、唯一の2ドアスペシャルティクーペであったという点。もちろんそれは、前身にあたる「カペラ」にクーペがあったため、その後継車の役割を果たすためでもあった。
スタイリッシュなボディも魅力的だった
とはいえMX-6はまったく独立した1車種に仕立てられただけではなく、それまでの国産2ドアクーペの中でもスタイリッシュさにかけて5本の指に入るといっていい、(言葉にするのはいかにも無粋だけれど)優雅で流麗なフォルムに注目させられた。
カタログを見るとフォルムの説明のパートには、空気抗力係数CD=0.31と数値が記され、全車にリアスポイラーを標準装備することでリアのダウンフォースを確保し、リアタイヤの接地性を向上させたこと、バンパーサイドからタイヤに当たる空気の乱れ、リアピラーからフェンダーへの整流効果などについて説明されている。
「風」が歌詞の中によく出てくるのは小田和正さんの楽曲だが、いかにも舐めていく空気と風が作ったフォルムだったということか。正直にいうと筆者はMX-6よりひと足早く1989年に登場したオペル「カリブラ」(筆者の非常に好きなクーペの1台だった。空気抵抗係数はベースモデルで0.26とMX-6の上をいった)を、MX-6を最初に見た瞬間に連想……というよりもっと単刀直入に「似ている」と思ったもの。とくに全体の空力フォルム、後方に向かってすぼまっていくリアクオーターウインドウのグラフィック等、「どこかで繋がっているのではないか!?」とさえ思えた。
「空力を追求するとみな同じような形になる」とは各社のエンジニアと話をしているとしばしば聞かされた台詞で、このMX-6の関係者から同じ話を聞いたかどうかの記憶がないのだが、眺めていて心地いい、なめらかでキレイなスタイルだったことは確か。2610mmのホイールベースはクロノスなどの4ドア系とは共通で、そこに小さなキャビンを乗せ、1310mmとクーペらしい低全高に仕上げられていたのがポイントだった。
メカニズム面では、V6エンジン(2.5Lと2Lの2機種)を搭載していたことで、走りの面でもスペシャルティ度を高めていた。また4WS(電子制御車速感応型4輪操舵システム)を全車に標準搭載。車速57km/hを境に高速側では同位相とし安定した挙動を作り、低・中速では逆位相とし、最小回転半径も4.7mをモノにするなど、走りと実用性の両面で効果をもたらすものとなっていた。
そのほか装備面では、低音から高音まで安定した音圧を作り出す独自のアコースティック・ウェイブガイドを用いた6.5インチスーパーウーファーを採用したBOSEの専用オーディオもマツダ車らしいアイテムのひとつ。形成医学的見地に基づき、第4、第5腰椎部を支持することでスポーツ走行、ロングドライブにかかわらずランバーサポートなしで疲労を軽減するバケットシートの採用も、地味ながら重要な設計といえた。4年に満たず1995年12月に販売が終了した、じつは儚いモデルでもあった。
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