いよいよプレーオフが迫る終盤戦を迎えたNASCARカップシリーズ第21戦『M&M’s Fan Appreciation 400』は、今季複数回にわたり“因縁の勝負”を繰り広げて来たデニー・ハムリン(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)と“2022年台風の目”ロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)が、残り18周のリスタートで直接対決の構図となり、これまでの「借金を取り立てた」ハムリンが無慈悲なライン取りで宿敵をウォールに押しやり、僚友カイル・ブッシュ(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)を従えJGRがワン・ツー・フィニッシュを飾った……かに見えた。
しかしレース後、再車検の検証を踏まえてJGRは月曜正午までの上訴を断念し、トヨタ・カムリ2台の失格処分が確定。この裁定により、3位でフィニッシュラインを通過したチェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が「ドライバーなら誰も望まない形」ながら、今季4勝目を手にしている。
終盤独走のトヨタ・カムリ、クリストファー・ベルが今季14人目のウイナーに/NASCAR第20戦
7月23~24日の週末にペンシルバニア州ポコノ・レースウェイで開催された1戦は、プラクティスをチャスティンが、クオリファイをハムリンが制するなどレース前から不穏な空気が醸成され、筋書きのないドラマに向け、すべてのお膳立てが整ったような進行を見せた。
これでキャリア通算36回目、今季3度目のポールウイナーに輝いたハムリンの背後には、同じくチームメイトのカイルが続いたものの、その兄カート・ブッシュ(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)はターン3のクラッシュで激しい衝撃を伴いドクターストップ。代役として決勝3時間前には、チーム所有者であるジョー・ギブスの孫で、現在はNASCARエクスフィニティ・シリーズでタイトル戦線に絡むタイ・ギブスに白羽の矢が立ち、19歳の有望株が予想外のカップシリーズ・デビューを飾ることとなった。
「ここに至るすべての出来事と、メンバー全員の熟慮と期待に心から感謝している」と、今季エクスフィニティ・シリーズですでに4勝を挙げているタイ・ギブス。「まず第一に、カートの無事と迅速な回復を祈りたいし、彼が一刻も早く良くなることを願っている。彼はこのチームに多大な貢献をしているからね。でも、僕の目にはあの“McDonald’s TRD Camry”がとても速そうに見えているんだ!」
こうしてトヨタ陣営の話題づくしで始まった決勝は、序盤から波乱続発の展開となり、まずスタート直後のターン2では先頭走者ハムリンがいきなりウォールにタッチし、5番手へ後退することからレースが始まる。その間、フロントロウに並んだカイルが160周のうち63周でリードラップを刻んでステージ2を制する一方、42周目にはハムリンがふたたびコーションの起因になるなど、対照的な展開が続いていく。
しかし終盤に向け優位なトラックポジションを得たのはハムリンの方で、残り18周のリスタートでは予選3番手からリーダーの座に立ったチャスティンに並びかける状況で、誰もが“結末を予期する”最後の勝負へと挑むことに。
このふたりの因縁は6月のワールドワイド・テクノロジーズ・レースウェイ(WWTR)の1戦にまで遡り、ともにトップ5圏内を争う渦中でハムリンは再三に渡ってシボレーに突かれ、バランスとポジションを失うことに。その後も幾度かのレースでやり合ったふたりは、その度にハムリンが憤慨。チャスティンも過失を認めながら、これがレースであり「今後も挑戦を止めない」との態度を示し続けてきた。
そんなふたりのポコノでのラストバトルは、チャスティンが上段アウトサイドのハイ、ハムリンが下段のボトムを選ぶと、ターン1からレコードラインを踏み抜いていったハムリンがまったくスペースを残さず立ち上がり、チャステインは成す術なく外壁に押しやられる結末に……。
コントロールを失った1号車のシボレー・カマロZL1は、エリオットの9号車をかすめるようにバンクを滑り、好調ケビン・ハーヴィック(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)のノーズを破壊してインサイドへスピンアウト。
これでカイルを従えたハムリンがクルーズでトップチェッカーを受け、同地通算7勝目を手にした男に対し、レース後には当然のように“因縁対決”への質疑が飛ぶこととなった。
■1枚のクリアテープがレギュレーションに抵触。両車失格に
「つまり、あなた方は僕に何をして欲しかったんだ? 僕に何を期待した? 我々は彼からポジションを奪い返し、彼はレーストラックの幅を使い果たしてしまった。それだけのことだろう? お互いディープにドライブし、彼は僕が激しく勝負するだろうことを知っていた。僕が経験させられた“荒廃と漂流”のあと、今日は彼がそれを味わっただけのことさ」とハムリン。
一方のチャスティンも、ハムリンに対しては殊勝にも「借りがある」ことを認め「皆は、僕らが何を負っているのかを知っていたと思う。そして今日、彼はそれを『現金化』した」と応じた。
「自分の行動が結果をもたらすことを、僕としても良く理解しているつもりだ。この1~2カ月の間、僕はラインをまたいで彼のレースを破壊したことを知っていたし、彼は今日、それを返すことに決めたんだろうね」と続けたチャスティン。
「もし、僕らの間に過去の歴史がなかったとしたら、2カ月前にもっと賢くレースをしていたとしたら……ターン1には充分な余裕があっただろう。この1~2カ月間、それでは遅すぎることに気づいたよ。その学びを得て……(次戦7月30~31日の第22戦)インディに向かうとするよ」
こうして幕を閉じたかに見えたレースウイークにはまだ最終幕が残り、優勝者であるハムリンと2位カイルのJGRカムリには、車両のエアロダイナミクスに影響を与えるフロントフェイシアに異素材が発見される。
シリーズのマネージングディレクターを務めるブラッド・モランは「本来あるべきではない場所に、このような素材があった理由はまったく正当性がない」として、11号車と18号車の違反について月曜正午までチーム側からの上訴を待ち「最終的な裁定を判断する」とした。
しかしその上訴期限も過ぎ、ここで2台の失格が確定。NASCARの競技担当上級副社長であるスコット・ミラーは、2019年の失格規定導入以来初の適用となった事例に対し、ラジオを通じて「非常に驚いているし、とても残念だ」とのコメントを残した。
「それはノーズ下部からスプリッターにも繋がるロワーフェイシアに位置していた。承認されたCADファイルに対し、我々が事実上その形状から逸脱していると判断したパーツは、ビニールの余分な層だった」と続けたミラー。「JGRの意図について推測したくはないが、しかし、それはクルマの空気力学に影響を与えると信じるに足る場所だったよ」
一方、当のJGRもレース後に詳細な車両検証を実施し、チームで競技ディレクターを務めるウォーリー・ブラウンは次のような声明をリリースした。
「レース後の11号車、18号車に実施した違反検証にて、双方の車両とも1枚のクリアテープがフロントフェイシアの下端それぞれ、ホイールハウス開口部左前と右前に施工されていることがわかりました。追加された部品は幅2インチ、長さ5インチ半、厚さ0.012インチで下部に取り付けられていました」
「変更されたビルドプロセスに対し組織内で適切に精査されておらず、NASCARのルールに違反していることを認識しています。この間違いをお詫び申し上げます。また、二度と起こらないよう新たなプロセスへの修正を実施していきます」
これにより「他人の不幸を祝うのは本当に正しいとは思わないし、トロフィーはハムリンが手元に置いていても構わない」と語った3位のエリオットが正式な勝者となり、タイラー・レディック(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)、ダニエル・スアレス(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)のトップ3に。注目のタイ・ギブスは併催のNASCARエクスフィニティ・シリーズ第19戦でノア・グラグソン(JRモータースポーツ/シボレー・カマロ)に惜しくも敗れて2位となり、カップ初戦も完走18位で終えている。
一方、こちらはひさびさ併催となったキャンピング・ワールド・トラック・シリーズ第16戦は、レギュラーシーズン最終戦をチャンドラー・スミス(カイル・ブッシュ・モータースポーツ/トヨタ・タンドラTRD Pro)が勝利で飾り、ゼイン・スミス(フロントロウ・モータースポーツ/フォードF-150)がランキング首位を獲得。服部茂章率いるハットリ・レーシング・エンタープライズは、16号車タンドラTRD-Proを駆るタイラー・アンクラムが16位、チェイス・パーディの61号車タンドラは11位で終え、プレイオフ進出を逃す結果となった。
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