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一切妥協のないドゥカティ──新型ムルティストラーダV4S試乗記

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一切妥協のないドゥカティ──新型ムルティストラーダV4S試乗記

ドゥカティの、第4世代になる新しい大型バイク「ムルティストラーダV4S」に田中誠司が試乗した。印象は?

よく出来たイタリアン・バイク

あまりにもよくできている。それだけにイタリアニタ(イタリアらしさ)を感じにくい。けれども、イタリア人から優秀なひとをよりすぐり、十分にコストをかけ、しかもドイツ人と組んで何かを作れば、こういうものになるのが宿命なのだろう。

というのが、「エンデューロ」「スポーツ」「アーバン」「ツーリング」の“フォー(4)・バイクス・イン・ワン”をターゲットに、究極のマルチパーパス・モーターサイクルを目指して開発されたドゥカティ「ムルティストラーダV4S」を走らせての感想である。

ドゥカティは2012年に買収され、アウディの傘下に入った。その高い技術力やブランド力を、アウディとその親会社であるフォルクスワーゲン・グループで生かすことが狙いだと当時は説明されたが、実際にはアウディならびにフォルクスワーゲンの技術やプロセス、企業文化がドゥカティに移植されたという側面も強いようだ。

上級マルチパーパスモデル

今回の新型ムルティストラーダで掲げられたコンセプトは“Form Follows Function”、形態は機能に従うというフレーズである。これってドイツの工業デザインを語るときよく参照されるものではないのか? それをドゥカティが堂々と語るのに、おどろいた。

しかしそもそも、Form Follows Functionの考え方は国際的なコンセプトだった。高層鉄骨建築物をてがけていたシカゴの建築家ルイス・サリバンが提唱した考えを、彼に学んだフランク・ロイド・ライトが受け継いだのと並行して、1920年代を中心に活動したドイツの「バウハウス」が基本方針とした結果、ドイツの工業デザインの礎になるポリシーとなったのだそうだ。

実際のムルティストラーダV4Sの特徴は、量産二輪車で世界初採用のアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)のため設置されたレーダーユニットをフロントに掲げ、従来のL型2気筒より軽量コンパクトな170ps/125NmのV型4気筒エンジンをアルミ合金製モノコック式フレームに吊り下げる。

高出力エンジンの冷却とウィンドプロテクションに優れたフェアリングを装着、オフロードとオンロードのパフォーマンスを両立するためストロークの長い電子制御サスペンションを搭載し、タンデム走行を重視した幅広のリアシートに、ライダーの体型に合わせて着座高さを柔軟に変更できるフロントシートを組み合わせてある。

多少機能を犠牲にしたとしても見栄えをよくしようという、イタリアのデザインで典型的と思われていた方向性が一切みられないのは意外である。と、同時に、いまや幅広いラインナップを誇り、カッコいいオートバイなら多くの選択肢をオファーできるドゥカティが、上級マルチパーパスモデルのムルティストラーダV4Sは機能一辺倒で押そうという戦略は、筋がとおったものともいえる。

フレキシビリティの高いエンジン

多くの日本人ライダーにとってアドベンチャースタイルのバイクの難関は、シートの高さや取りまわし性能だろう。試乗したムルティストラーダV4Sにはシート高810mmのローシートが取り付けられており、身長172cmの筆者でもかろうじて両方の足が同時に地面に届く。このフロントシートは20mm高くセットできるほか、さらに+20mmと+35mmのオプションも用意される。

小山のような外観にくらべて、乾燥重量が215kgと、それほど重くなく、ハンドルバーも適度な高さにあるから、「これならたしかに普段づかいもできるな」と、思った。ステップも自然に足が伸びる位置にあり、疲れにくい。

エンジンは従来型ムルティストラーダ1260のL型2気筒から、いわゆるレーサーレプリカである「パニガーレV4」をベースに大幅な変更を施したV型4気筒1158cc「V4グランツーリスモ」に変更されている。

パニガーレのエンジンは吸排気バルブの開/閉作業をともに特殊な形状のカムシャフトでおこなう、ドゥカティ独自のデスモドロミック式だが、V4グランツーリスモはバルブを押し開ける作業はカムシャフトに、閉じる作業は金属製スプリングに任せる、一般的なバルブシステムを用いることで整備性と耐久性を高めてある。

“ツインパルス”と呼ばれる、4気筒が均等な間隔ではなく偏ったタイミングで燃焼する方式により、ムルティストラーダV4 Sのエンジンは2気筒エンジンに近い小気味良いリズムを伴い軽快にスタートする。

ボトムエンドのトルクはそれほど強くないが、いざ走り出してしまえばフレキシビリティは非常に高い。3000rpmから上では瞬時にしてのけ反るような加速が手に入り、とりわけ6000~9000rpmの範囲では、高速周回路でけっこうなスピードが出ていてもフロントタイヤがリフトする気配を感じ、おののくほどだ。

いっぽう、最高出力を出す10500rpmからレブリミットの11500rpmにあっては、バイブレーションも強めになるしトルク感もおとろえてくる。4気筒らしい官能性は高回転が得意なデスモドロミックを持つ、パニガーレや「ストリートファイター」におまかせあれということだろう。

重心の高さや側面積の広さにより、横風に強いほうではなさそうだが、上下に調節可能なスクリーンの採用などにより見た目以上にウィンドプロテクションはすぐれていて、長距離を楽にこなせるはず。

高速周回路で試すことができたACCや同じく二輪車世界初採用の“ブラインド・スポット・ディテクション”については、別稿にてあらためて詳しく紹介する。

走行モードの違い

テストコースにはタイトなワインディングロードや、グラベル(砂利)のルートも設けられており、車両の電子制御セッティングを変更しながら試すことができた。

自動的に走行状況を読んで減衰力を変えてくれる電子制御ダンパー、トラクションコントロールやABS(アンチロック・ブレーキ・システム)、クラッチレバーを握らず変速できるクイックシフターが搭載され、それらの作動の俊敏さを任意に変更できる。さらにスロットル・レスポンスやリアサスペンションのプリロード等も、車載の液晶モニターとハンドルに備わるスウィッチを通じて好みを選べる。

それぞれ何段階かある設定を組み合わせた“ライディング・モード”のプリセットが4種類存在し、これがフォー・バイクス・イン・ワンのゆえんとなっている。

「スポーツ」モードを選びリアサスペンションを固め、スロットルレスポンスを高めて走れば、コーナーの連続するロードコースを積極的に走らせることが可能だ。電子制御サスペンションが車体の無駄な動きを排除してくれるおかげで、減速~旋回~加速という流れが損なわれない。ピレリ・スコーピオン・トレイル2という、ダート走行をわずかに意識したトレッドパターンながらロードユース向けのコンパウンドを備えるタイヤもしっかりグリップしてくれて、危なげない。

同じタイヤのまま「エンデューロ」モードを選び、これも数々のコーナーを組み合わせたグラベルの上を走ると、前後左右に多少滑っていることは意識させられるものの、電子制御サスペンションがしなやかに動き、トラクションコントロール・システムがエンジンから後輪につたわるアウトプットを絶妙に調節してくれて、オフロード走行経験が乏しい筆者でも難なくクリアしてしまった。ぐいぐいスロットルを開けていくと、リアタイヤがかろうじて横にグリップしながら前に進んでいくのが面白い。

妥当な価格設定

ドゥカティが一切の妥協なくこのムルティストラーダV4Sを送り出していることは、288万円~という販売価格にも反映されている。今回の試乗車の場合はトラベル&レーダー・パッケージ(33万円)がここに加わる。

アドベンチャー・バイクのフィールドで迎え撃つ、BMW「R 1250 GS」は219.2万円~、今年7月にデビューを飾るハーレーダビッドソン「パン アメリカ 1250」は231万円~である。

しかし「オンロードでもオフロードでも負けたくない」という気の強いモーターサイクリストにとって、電子制御をふんだんに駆使してその名のとおりの“ムルティストラーダ”を実現した新型ドゥカティの走りは、多少のエクストラに代えがたい大きなアドバンテージをもたらすだろう。

文・田中誠司 写真・安井宏充(Weekend.)

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