いま、日本における「走りのセダン」が危機的状況にある。
スポーティな4ドアセダンといえば、かつて日本市場でも隆盛を極めたカテゴリーであるが、現在はトヨタ・マークX(5月販売台数275台)でさえ次期型開発凍結→生産終了カウントダウンと言われており、日産フーガ(同20台)、スカイライン(同35台)、ホンダアコード(同106台)、マツダアテンザセダン(18台)、スバルレガシィB4(同124台)と、ほぼ「死に体」と言っていいカテゴリーになっている。
そんななかで、今度の新型クラウンはスポーティ志向に寄せて開発された。あのクラウンでさえ、なりふり構わず「スポーティさ」をウリにしてきたのだ。しかし日本自動車史を振り返ってみれば、魅力的で、若者が憧れた(!?)4ドアセダンが数多くラインアップされていた。比較的高額ではあったが、(少なくとも輸入セダン勢よりはお手頃で)頑張れば買えるようなポジションに「走りのセダン」が数多くラインアップされていたのである。
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しかしこうしたモデルの大半が、新車市場から去っていってしまった。それはなぜなのか。本稿ではそんな名車たちを振り返りつつ、(難しいとは思うが)復活を祈願したい。
文:片岡英明
■ミニバンや輸入車勢に追いやられたカテゴリー
自動車の基本となるカテゴリーが、実用性を重視した4ドアのセダンである。アメリカや日本ではセダンと呼び、イギリスでの呼び名はサルーンだ。日本でも戦前から、多くの乗用車にセダンが設定され、人気だった。今は、まったく人気のない国産セダンのカテゴリーだ。
が、20世紀後半までの日本車の主役といえば、セダンだったのである。
ファミリー層だけじゃない。ハイソカーブームが到来し、バブル景気が後押しした1990年の前後10年は、多くの若者が「走りのセダン」に憧れ、オーナーになることを夢見たのだ。
だが、90年代半ばになるとアウトドアブームの後押しを受け、クロスオーバーSUVが登場し、マルチパーパスのミニバンも売れ行きを伸ばした。
キャビンはそれなりの広さにとどまり、序列の枠に収まっているセダンは、瞬く間に主役の座から転がり落ちている。21世紀になると整理され、消滅するセダンが相次いだ。しかしこのカテゴリー、依然としてヨーロッパ勢は元気がいい。ドイツ勢を中心に、日本車が抜けた穴に入り込み、販売を伸ばしている。
そういう状況で日本メーカーが単発で頑張ってみても、完全復活はしばらく難しいだろう。だが、ニッポンのモータリゼーションを衰退させないためにも、国産セダンには、あの頃の輝きをもう一度、取り戻して欲しい。少なくとも本稿に登場した5台のうち、アコードを除くすべてのクルマは車名からしてなくなってしまった。この状況だけでもなんとかしたい。
■トヨタ チェイサー ツアラーV
トヨタ・チェイサーツアラーV
兄弟車のマーク2よりスポーティなキャラクターを与えられ、より若い層を狙った上質なスポーツセダンがチェイサーである。
そのスポーツグレードは、4代目のX80系までは「アバンテ」と「GT」だった。が、5代目の90系からは「ツアラー」を名乗り、フラッグシップは「ツアラーV」だ。今でもカッコいいと思えるのが、1996年に登場し、チェイサーの最後の作品となった6代目のX100系ツアラーVである。ツーリングカーレースのJTCCにも参戦し、速い走りを見せつけた。
心臓は2.5Lの1JZ-GTE型直列6気筒DOHCターボだ。最高出力280psは変わらないが、VVT-iを採用することによって実用域で分厚いトルクを発生する。当然、高回転ではターボならではの鋭いパンチと力強い伸びを堪能できた。
5速MT車がツアラーVの販売の3分の1を占めたことからも、楽しいクルマだったことが分かる。4輪ダブルウイッシュボーンのサスペンションもいい仕上がりだ。意のままの気持ちいい走りを満喫できる。
■日産 グロリア グランツーリスモアルティマ
日産・グロリアグランツーリスモアルティマ
プレステージセダンの代名詞だったグロリアと兄弟車のセドリックが大きく変わるのは1987年だ。それまでの主役は豪華なブロアムで、ユーザーも保守層が中心だった。だが、Y31型はブロアムに加え、走りの楽しさを前面に押し出した「グランツーリスモ」を設定し、アクティブ層をも取り込むことに成功する。ちなみに、このY31型をベースに開発され、大ヒットしたのがシーマだ。91年に登場したY32型グロリアからは、一段と装備を充実させたグランツーリスモ・アルティマも登場する。
そして真打ちといえるのが1995年6月にデビューするY33型グランツーリスモ・アルティマだ。エクステリアはキープコンセプトだが、エンジンはVG系から新世代のVQ30DET型3L、V型6気筒DOHCターボに進化した。低回転域のトルクはそれなりと割り切っている。が、ターボゾーンに突入すると270ps/37.5kgmのパワーとトルクが炸裂し、豪快な加速を見せつけた。
サスペンションもドライバーズカーらしい、ビッグトルクに負けない、地に足がついたものだった。突出したパワーが魅力の「一芸車」というわけでなく、こうした細かい足回りへのこだわりを見せるところなどが、現代まで続く根強い人気の秘訣といえよう。
■トヨタ アリスト V300
トヨタ・アリストV300
トヨタにとってシーマは、衝撃のプレステージ・スポーツセダンだった。そこで打倒シーマを目指し、送り出したのがアリストだ。1991年に登場した初代アリストは、マジェスタのメカニズムを用いているが、性格は直球勝負のスポーツ路線である。3Lの直列6気筒DOHCとDOHCツインターボは驚くほどパワフルだった。ジウジアーロがデザインした個性的な4ドアボディは今も魅力的だ。
その2代目は1997年夏に登場する。(初代とは異なり)2代目はマジェスタの派生モデルではなく、フロアから新設計だった。動力性能だけでなくエンジンの搭載位置にまでこだわり、前後重量配分の最適化を図った「本気」のスポーツサルーンだった。
V300が積むのは3Lの2JZ-GTE型直列6気筒DOHCツインターボだ。最高出力は280psにとどまるが、最大トルクは46.0kgmもある。だからアクセルを踏み込むと強烈なGを感じる加速だ。が、あくまでもジェントルで、荒々しく感じない。
4輪ダブルウイッシュボーンのサスペンションは上質な乗り心地を確保しながら正確なハンドリングを実現している。鼻先を切り詰めているため、まさにオン・ザ・レールの走りなのだ。
■ホンダ アコード ユーロR
ホンダ・アコードユーロR
多くの「走りのセダン」がターボを使ってハイパワー化したのに対し、ホンダは別のアプローチでラインアップの強化をはかった。
1997年に発売した6代目アコードに(このモデル自体、全車VTECエンジンを採用したスポーティな仕様だったが)2000年6月、4代目プレリュードのタイプSに搭載されていたスポーツエンジン「H22A型」を搭載したアコードユーロRを追加(欧州では先行して「アコードタイプR」として発売されていた)。
当時NSXやインテグラ、シビックに用意されていた「タイプR」よりはマイルドな設定であったが、各種エアロパーツのほかレカロ製バケットシート、MOMO製ステアリングが用意され、エンジンはNA、2.2Lで220ps/22.5kgmを絞り出す。これを5MTで走らせると(このクラスの4ドアセダンと比べると)非常に面白い走りをもたらした。
他のスポーツセダンとは一線を画した、ホンダらしい仕上がりを持つスポーツセダンであった(なお姉妹車であるトルネオにも「ユーロR」は設定された)。
■三菱ギャランVR-4
三菱・ギャランVR-4
ギャランは1987年10月に登場したE30系で世界に通用するスポーツセダンに成長した。そのフラッグシップとして送り出されたVR-4は「アクティブ4」と名付けた先進的なメカニズムを搭載し、痛快な走りを見せている。そして次の世代ではV型6気筒エンジンを積み、上質ムードも手に入れた。が、名車と言えるポジションに駆け上がるのは、1996年8月に直噴のGDIエンジンを積むレグナムを携えて登場した8代目のギャランだ。
刺激的な走りを見せるのは、素直なハンドリングのフルタイム4WDに2.5Lの6A13型V型6気筒DOHCターボを組み合わせたVR-4である。
このエンジンはパワフルだ。2000回転からモリモリとパワーとトルクが湧き出し、強いGを感じさせながら加速していく。しかも滑らかだし、クルージング時は静粛性も高い。学習制御を組み込んだ電子制御5速ATもかしこい。
が、操って楽しいのはタイプVの5速MTである。ハンドリングも軽快だ。V6エンジンだからノーズは重いが、4輪マルチリンクのサスペンションは動きがいい。4WDでも気持ちよく曲がる。スポーツドライビングの楽しさは、最近のセダンに負けていなかった(ワゴンの「レグナムVR-4」もあった)。
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