80~90年代に経験した甘くてホロ苦い思い出
いまや、女性からチヤホヤされる”モテグルマ”というもの自体、ほぼ絶滅したが、80年代から90年代にかけてを知る者にとっては、懐かしきバブル期のモテグルマが存在したのはご存知だろう。その筆頭といえば、80年代に「六本木のカローラ」と呼ばれ、夜の六本木通り、および外苑東通りを埋め尽くした2代目BMW3シリーズ(E30)ではないだろうか。
現在はかなり地味なイメージだが、当時は違った。セダンとかクーペとかワゴンというより、BMWの白と青の”プロペラマーク”や”キドニーグリル”に女子は食いついたものだ。ちなみに、呼び方はビーエムダブリューではなく、「ベンベ」だった。
実際、筆者も85年型のBMW325iスポーツパッケージを購入。青山、赤坂、六本木を駆け巡ったものだが、こんなエピソードもある。青山の駐車場に愛車を停めていたら、当時はまだ珍しかったメルセデスベンツ190Eに乗った美女から声をかけられた。「親の190Eに乗っているけど、私がほしいのはBMW3シリーズなのよね」ときた。 こっちとしても、ガンメタの”小ベンツ”には興味津々で、今思えばあり得ない話なのだが、そのままクルマを交換して湘南までドライブ。それぐらい、女子の憧れ、見知らぬ相手と親密なコミュニケーションさえ取れたのが、E30 BMW3シリーズだったのである。
まさにコンパクトなセダンにして、80年代の偶像的モテグルマの象徴だったと言っていいだろう。
当時、カタカナ商売のマニアックな夜の遊び人が、真っ赤なBMW3シリーズ(六本木のカローラ)に対抗すべく、乗り始めたのが、黒の「サーブ900」だった。こちらは、乃木坂た赤坂あたりに出没。乗り手もまた、全身黒づくめの”アルマーニ男”だったりする。こちらも4ドアであり、SUV全盛の今では考えられないが、セダン人気の影の立役者だった。
そして、まだ携帯電話も普及していない時代。カフェやレストランでは、欧州車ブランドのエンブレム付きキーホルダーを、テーブルの上にこれ見よがしに置いたものだ(となりのテーブルの女の子を意識してかはともかく)。
国産ハイソカーの帝王も威力発揮
一方、デートカーとして超人気だったのが、ハイソカーと呼ばれた、メルセデスベンツSLやBMW6シリーズをイメージした、マイコン(今は死語)満載のトヨタ「ソアラ」だろう。ボディカラーはスーパーホワイト限定で人気爆発。ただし、こちらはカタカナ商売の六本木人とは違い、クルマ好きにとってのモテグルマ、いわゆる”デートカー”の象徴であった。
ドレスアップ、チューニングが施されたクルマが多かったのも、BMWやサーブとの違い。後にスーパーホワイトの中古車がソアラ専門店の軒先に並んだのも、今ではなつかく思い出される風景だ。
ちょい悪の象徴「シーマ」がブレイク
80年代後半のハイソカーブームを制したのが、「シーマ現象」という流行語まで生み出すほどの大ヒット車となった日産最高級セダンの「シーマ」だ。とくに”ちょい悪”なユーザーに人気で、むらがる女子もまた、それ風だったのを覚えている。それはともかく、当時の人気車やモテグルマはほぼすべてがセダンだった事実に、改めて驚くしかない。
そのほかにも、メルセデスベンツSECなども王者の風格で、女子大生に人気だったし、女子大生そのものが憧れたクルマが、初代VWゴルフのカブリオと呼ばれたオープンモデルだ。東京・港区界隈の女子大生の足として、当時はこれ以上カッコいいクルマはなかったと記憶する。
青山のカフェで知り合った、女子大生もホワイトのゴルフ・カブリオに乗っており、洗車と幌の艶だしをしてあげる口実で、明治神宮前の自宅におじゃましたことがある。あまりの豪邸ぶりに驚愕したものだが、80-90年代の真正お嬢様御用達の1台が、BMW3シリーズとともに、上品でクラシカルでもあるゴルフ・カブリオだったのだ。
オシャレ派に支持された欧州ワゴン
”六本木のカローラvs赤坂のサーブ”という構図がひと段落した頃、クルマ好き、オシャレ好きの間で密かにブレイクしたのが、空飛ぶレンガという異名を持つ「ボルボ240エステート」と70-80年代の「メルセデス・ベンツ ミディアムクラス(W123)」だった。後者もワゴンが人気であり、280TEが主流だったと記憶している(主に中古車だったはず)。 当時、女性誌の仕事をしていたこともあって、アパレル関係の知り合いも多かったが、そうしたオシャレ命の人たちが乗っている、あるいはひっちゃきになって探している2台だった。90年代といえば、現在では想像もできないほど、インポートワゴンが流行。いまのSUVブームとは違い、車種が限られていたため、街に溢れることなく、ある意味で健全なブームだったと言えるかもしれない。
マセラティはモテ車とは無縁だった事実
さて、BMW3シリーズを手放した筆者が次に手に入れたクルマは「マセラティ・ビターボ(1987年式)」。それはそれは美しく、獰猛な2.5リッターツインターボ(キャブレター)の、BMW3シリーズに対抗した2ドアのイタリアンスポーツクーペだった。
ただし、BMW時代と違ってモテグルマとは程遠かった。そう、マセラティは当時、クルマ好きを除いてほとんどの人が知らない、当時の女子の脳内クルマ辞典には載っていないブランドだったからだ (ボディカラーがガンメタで地味だったこともある)。
三叉の銛、トライデントのエンブレムが燦然と輝くキーホルダーも、女子の心を動かすことなど皆無だったと記憶している(泣)。
また、キャブ仕様なので冬場はエンジンが一発でかからず、当日はアウト(約束したデートも中止)。冬の間はディーラーに預けっぱなしということもあったりした。もっとも、2年乗った後はモノ好きなデザイナーの女性に売却し、その後は彼女に愛されまくったはずである。現在ならば、マセラティに乗っていようものなら、モテまくりのはずだが……。
その後は、貰い物のアメ車をちょい乗りし、メルセデス・ベンツEクラスセダン&ホンダ・アコードワゴンの2台持ちを経て、愛犬のために2代目オデッセイV6アブソルートに乗り換え。ミレニアムの2000年代はミニバンブームも後押ししたのか、意外や意外に女子の評判もよろしかった。
近年はブランド力やデザインというよりも、室内の広さや居心地の良さ、静粛性が女子ウケする時代となっているようだ(ミニバンはフルフラットアレンジでイチャイチャできたし)。そして、いまや「女子大生が乗りたいクルマランキング」でも上位に入る、世界的なSUVブームに至るというわけだ。
80-90年代のクルマ事情、バブル期を知らない人にとって、当時、それほどまでにセダンや輸入ワゴンが一世を風靡し、女子に絶大な人気を誇り、若者にとってクルマがすべてだったことなど、想像もつかないだろう。携帯電話代や高額なスマホ代も必要なく、クルマとテート代だけにお金をつぎ込むことができたのだ。
クルマでモテる……なんて、今では信じられない話かも知れないが、それが真実だったのである。
なお、80年代から今も昔も女子ウケする究極のSUVは、メルセデス・ベンツのゲレンデヴァーゲン(Gクラス)であろう。自称モテ期のワイルドなオヤジにはもってこいであるが、1000-2000万円という車体価格がネック。
そこまでの予算は、というならば500万円台で買える「シープ・ラングラー」がオススメ。世界最高峰の悪路走破性を誇るし、武骨なデザインも新鮮。操縦性や乗り心地はともかく、恋も休日も冒険に憧れる女子のハートに刺さること、請け合いである。
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