現段階ではハイブリッド車のほうがバッテリーEV(電気自動車)より効率的?
脱炭素が叫ばれ、欧州を中心に、ハイブリッドまで含んだエンジン車廃絶の動きが強まりつつある。無論、EVが環境にやさしいエコカーであることに疑いはない。
新型アクアの最高燃費はヤリスHVの36.0km/Lに0.2km/L届かず! 記録を塗り替えてきた超燃費競争はもう終わったのか?
一方で、何でもかんでもEVという風潮に疑問を感じている自動車ユーザーも多いのではないだろうか?
実はハイブリッド車、特に日本の最新モデルを見ると、現時点ではトータルで見ると、EV以上に環境負荷が低いと言えるほど効率的なレベルに達している。クルマの多様なあり方を含めて、きっちり考えるべきものは多い、といえそうだ。
文/高根英幸
写真/TOYOTA、Daimler
【画像ギャラリー】世界初バイポーラ型ニッケル水素バッテリーを搭載した新型アクアをみる
EVがクリーンなのは「走行時」の話
写真はメルセデスベンツのEQシリーズ。すでにEQCなどは日本導入されており、欧州勢はEV化を加速させている
バッテリーEV(以下EV)は、確かに走行中はクリーンな乗り物だ。地下駐車場などで遭遇すると、音が静かなだけでなく、排気ガスを出さないことで人体への悪影響がなく、地球に優しいクルマだというイメージを実感できる。
しかし、それはあくまでも走行時の、その場だけの話だ。実際には、現在の日本においてはEVのCO2排出をゼロにすることはできない。それはEVを作り上げるまでと、走行に必要な電力、そして使用後のリサイクルにおいて結構な量のCO2を排出するからだ。
LCA(ライフサイクルアセスメント=材料の製造時から使用中、そして廃棄時のリサイクルまで含めたCO2排出量の評価)で比べた時、EVは意外と環境負荷の高いクルマなのである。
欧州ではとっくにこの問題に取り組んでいて、再生可能エネルギーを使ってバッテリーを製造、クルマを製造するよう体制作りを進めている。しかしそれでも、原材料から廃棄までを通じてカーボンニュートラルを実現する難しさは並大抵ではない。
それはEV以外のクルマでも同じことだが、環境性能の高さを謳うEVだけにエンジン車よりも製造時のCO2排出量が多いのは矛盾を感じはしないだろうか。
環境負荷で考えれば現状では「EVよりハイブリッド」
写真はレクサス UX300eのシステムイメージ。EVは床下いっぱいにバッテリーを敷き詰めるなど、HVより圧倒的にバッテリー搭載量が多くなる
ハイブリッド車であれば、ガソリン車よりも製造時のCO2排出量は多いがEVほどではないし、燃費性能ではガソリン車より格段に優れている。LCAで評価してもEVよりもガソリン車よりもCO2の排出量が少ない傾向であるのは明らかだ。
それにバッテリーの素材であるリチウムやコバルトは、資源として限りあるだけでなく、採掘や精製の工程で環境汚染を引き起こす物質でもある。鉱山労働者の健康問題や、地元住民や動物、植物への影響も含めて、大量に生産することにリスクがある素材なのである。
コバルトフリーのバッテリーやリチウム以外(例えばナトリウムなど)を使ったバッテリーなども開発されているが、実用化して現在のリチウムイオンバッテリーと置き換えられるには、まだかなりの時間を要する。
「クルマのCO2排出量さえ減らせれば、他の公害問題には目をつぶる」。こんなバカなことを言い出す国はないだろうから、EVが本当に地球に優しいクルマになるまでの道のりはまだまだ遠いのである。
ハイブリッドにもEVと同じ部品が搭載されているから、根本的に抱える問題は変わらない。けれどもバッテリーの搭載量が10分の1程度で済むことを考えれば、1台あたりの環境負荷はずっと少なくなる。
実燃費でリッター30kmを叩き出す最新のHV
ハイブリッド車の環境性能は、車格、バッテリー搭載量等によって異なる。そのなかでも、ヤリスハイブリッド1kmあたりのCO2排出量は65gと少ない。LCAにおいてもEVより環境負荷が小さい
ハイブリッド車といっても、車格やハイブリッドシステム、バッテリーの搭載量などによって、実際の環境性能は大きく変わってくる。
最近のコンパクトカーはガソリン車であっても燃費性能に優れているから、いくらハイブリッド車でも大きなSUVやミニバンとなると、コンパクトカーのガソリン車と比べれば環境性能では負けてしまう。
しかし、ハイブリッド車でも最新モデル、しかもコンパクトカーとなれば話は別だ。トヨタ ヤリスハイブリッドの環境性能には、ガソリン車はもちろんEVだって太刀打ちできないだろう。
1kmあたりのCO2排出量は65gと、EUの厳しい燃費基準(95g/km)を余裕でクリアするだけでなく、LCAで見ればEVよりも遙かに環境負荷が小さいものだ。
さらにヤリスと同じプラットフォームを採用した新型アクアに至っては、バイポーラ型ニッケル水素バッテリーを採用することで安全で長寿命、低コストを実現し、ヤリスハイブリッドとほぼ同等の燃費性能を実現している。
しかも外部に給電機能を備えるなど、バッテリー容量の大きさはこれまでのコンパクトカーのハイブリッドを大きく超えるものだ。
プリウスPHV(8.8kWh)の6割程度のバッテリー容量を確保しているのだから、EVモードでの航続距離も従来のアクアのような2km程度ではなく、もっと長距離を走れるようになっているハズだ。
こうした能力を積極的に活かすようにして、さらに普通充電機能をオプション設定することで、プラグインハイブリッド(PHEV)として進化することも期待できそうだ。
現時点でEVを選べるユーザーは限られる
EV購入時に心配すべき点は、買い替え時の下取り価格と充電の環境である。充電スポットをどうすべきか、急速充電器を多用することのバッテリーの負担などを考慮しなげればならない
これからクルマを購入、あるいは買い替えるユーザーにとってEVを選ぶか、ハイブリッド(PHEVも含む)を選ぶかは、悩みどころなのではないだろうか。
このところEVの紹介記事などで車両価格の高さを指摘する記述も見かけたりするが、それは補助金とガソリンに比べて安い走行時の電気代を差し引いて考えていないからだ。
むしろEVで心配すべきは買い替え時の下取り価格で、あとは充電の環境さえ整っていればEVを買ってもいい状況になってきている。
しかし、駐車場のない一軒家やマンションなどの集合住宅に住んでいるユーザーであればEVの場合、近くに設置されている急速充電器を利用して使い続けることになる。
この急速充電はバッテリーの負担が大きいだけでなく、内部抵抗によってバッテリーが発熱するということは、それだけロスも大きいのである。EVの電費には、この充電によるロスは含まれていない。というのも普通充電だけならロスは非常に小さいからだ。
前述のLCAでも、EVの充電に関してはバッテリーに充電された電力しかカウントしていないが、実際には充電器側と車体側の両方で電力のロスが発生している。
新型アクアのLCAは同クラスのEVと変わらない、というトヨタからの情報もあるが、この充電ロスを考えれば実際にはアクアの方がLCAでは大きく優れることになるハズだ。
充電時のロスは当然、電圧が高くなるほど損失が大きくなるので、近年高電圧化を目指している急速充電の規格も、安全性は確保しても電力損失はそれほど改善することはできない。
何しろ現在、中国と共同開発中のCHAdeMO 3.0(プロジェクト名ChaoJi)では、充電器のケーブル内に冷却液を循環させて、温度上昇を防ぐ機構が盛り込まれるのだ。
充電時の発熱は、すべて電気エネルギーによるものであるから、短時間に充電することがいかに電力を無駄遣いすることになるのか、想像してほしい。
ハイブリッド車の場合、バッテリーを充電するのは、エンジンの動力か走行中の運動エネルギーなので、燃費がすべてのCO2排出量を表しているが、EVの場合はそうではないのだ。この電力という目には見えないモノを捉えてしっかりと評価しなければ、EVやPHEVの環境性能は正確には判断できないのだ。
こうして説明しても、EVもハイブリッド車もユーザーに買ってもらわなければ、優れた環境性能を発揮することなどできない。どちらも最大の目的はCO2の排出量削減なのだから、メーカーも出来るだけ詳しい情報を公開して、お互いの優位性を競い合うような市場を形成していってほしいものだ。
そして、そうしたデータから客観的に考えて、エンジン車の規制を考えるようにするべきだろう。何でも電気にすればいいというものではなく、化石燃料以外にもエンジンを利用する選択肢はあるのだから。
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みんなのコメント
地方や寒冷地では少々充電環境が増えようが、あと10年は様子見かな…
そもそも欧州では、日本より速度域が高く、一回の航続距離が長いとか何たらって、昔からクルマ雑誌等でいわれてたけど、それこそEVに不向きな環境な気がするけどなあ。政治・環境ビジネスの利権が絡んでるのかワケワカラン…