■FF車が普及する前はどんなモデルがあった!?
コンパクトカーやミニバン、SUVなど、人気があるクルマのほとんどが前輪駆動(以下、FF)を採用しています。
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FFはフロントエンジン・フロントドライブの略ですが、クルマの前側にエンジンとトランスミッション、デファレンシャルギアをレイアウトして、ハンドル操作による操舵と駆動の両方をフロントタイヤが担うものです。
昔はエンジンをフロントに配置してリアタイヤを駆動するFRが多かったのですが、主要部品を一か所にまとめることで室内空間や荷室容量が確保できるFFは、スペース効率が優先されるコンパクトカーを中心に1970年代後半から日本でも広まりました。
ほかにも、FFにはメリットがありますが、反面、ハンドル操作が重く最小回転半径が大きくなる、アクセル操作によってはハンドリングに影響するなどのデメリットもあり、当初はFFを敬遠する人もいました。
しかし、現在では多くの技術的課題は改善され、駆動方法に拘るドライバーは少数となっています。
いまや爆発的に普及したFFですが、黎明期はどんなクルマがあったのでしょうか。そこで、各メーカーが開発した初期のFF車を5車種ピックアップして紹介します。
●マツダ「ルーチェロータリークーペ」
1966年にデビューした4ドアミドルクラスセダンマツダ「ルーチェ」は、欧州車のようなスタイリッシュなデザインで人気となりましたが、1967年の第14回東京モーターショーには、ルーチェとは異なる低く長い独特のプロポーションの2ドアハードトップクーペ「RX87」を展示。
1969年に「ルーチェロータリークーペ」として発売されました。
搭載されたパワーユニットは最高出力126馬力を発揮する1.3リッター2ローターのロータリーエンジン「13A型」で、ルーチェはFRでしたがルーチェロータリークーペはFFを採用。現在までで唯一無二のFFロータリー車です。
エンジンを縦置きとしたことで、ロングホイールベースによるエレガントなスタイルを実現し、公称最高速度190km/hの動力性能と美しいスタイルから、キャッチコピーは「ハイウェイの貴公子」でした。
ところが、大卒の初任給が約3万円だった時代に車両価格は145万から175万円と、非常に高価なクルマだったため販売は低迷し、1972年生産を終了。
なお、この13A型ロータリーエンジンは、2代目ルーチェ以降に搭載されていた「13B型」エンジンとは構成部品に互換性がなく、マツダも部品供給には熱心でなかったため、残存するルーチェロータリークーペをクラシックカーイベント以外で目にすることは、滅多にありません。
●日産「チェリー」
1970年に日産初のFF車として発売された「チェリー」は、「サニー」よりも小柄で、軽自動車からの乗り換えや初めてクルマを購入する層をターゲットとしていました。
当時のサニーが直線的なラインで構成されたボディに対し、チェリーは丸みの強い個性的なデザインで、コンパクトサイズのボディにサニーと同じエンジンをフロントへ横置きに搭載していました。
チェリーのエンジンは1リッターと1.2リッターの直列4気筒OHVエンジンで、A型という型式で呼ばれる名機です。
ボディバリエーションは4ドアセダンおよび2ドアセダンでしたが、1971年に、より若々しくスポーティなクーペを追加。
なかでも「クーペ1200X-1」はキャブレターをSUツインキャブ仕様に変更して1.2リッターOHVエンジンながら80馬力の最高出力を絞り出していました。
しかし、操縦性はFF独特の癖があり、アンダーステアが強いクルマだったため、コーナーリングは得意ではなかったようです。その対策として、1973年には太いタイヤを装着するため、オーバーフェンダーが装着された「クーペ1200X-1R」が登場しました。
ルーフからテールまで丸みを帯びた、斬新で独特なハッチバックデザインは当時の若者たちを魅了して人気となっただけでなく、レースでも活躍。
初代チェリーで培ったFFのノウハウは、後継の「チェリーF-II」や初代「パルサー」へと受け継がれていきました。
●ホンダ「シビック」
ホンダは「N360」や「ライフ」「1300セダン/クーペ」などでFFの販売実績が豊富だったなか、1972年にこれまでとは異なる発想のコンパクトカーである「シビック」を発売しました。
ボディの四隅にタイヤをレイアウトしたデザインで室内の広さを確保し、前後を切り詰めたデザインはイギリスの「ミニ」に近く、車名のとおり「市民の」ためのクルマとして開発。
デビュー当初は60馬力の1.2リッター直列4気筒SOHCエンジンを搭載した2ドアセダンで、トランスミッションは4速MTのみの設定と、シンプルなグレード構成でした。
後に「☆(スター)レンジ」と発進用の「Lレンジ」を持つ2ペダルの「ホンダマチック」が追加設定され、クラッチ操作が苦手なユーザー層も取り込みます。しかし、重量配分が前寄りだったため、ハンドル操作が重いとの指摘も多く出てしまいました。
そして1973年には、排出ガス浄化技術「CVCC」を採用した1.5リッター車と4ドアセダンを追加。このCVCCエンジン搭載車はクリア不可能といわれたアメリカの排出ガス規制をパスして、1975年モデルからアメリカにも輸出され、燃費の良い低公害車として多くのホンダファンを生みました。
■スバルの伝統的レイアウトは50年以上前に完成
●トヨタ「ターセル/コルサ」
各メーカーのコンパクトカーが、次々とFF化される流れのなか、静観していたトヨタも1978年に同社初のFF車「ターセル」と姉妹車の「コルサ」を発売しました。
同じトヨタのコンパクトカー「スターレット」と似た外観デザインでしたが、FFの利点を活かしてホイールベースを長く取り、コンパクトカーでありながら広い室内空間としたのが特徴でした。
さらに、当時のFF車の多くがエンジンを横置きとしていたのに対して、ターセル/コルサは縦置きを採用。トランスミッションがエンジン後方に置かれたため、スペース効率は横置きに劣りましたが、整備性が良いことやAT搭載の障壁が少なかったこと、左右等長のドライブシャフトにより「トルクステア」が抑えられるメリットがありました。
ちなみに、当時人気絶頂だった歌手の山口百恵をCMキャラクターにして、特別仕様車「百恵セレクション」が登場するなど話題になります。
ターセル/コルサはトヨタのラインナップのなかで、あまり目立つ存在ではありませんでしたが、5代目まで代を重ね、1999年に生産を終了しました。
●スバル「スバル1000」
「スバル360」で自動車産業に進出した富士重工業が、初の量産小型乗用車として1966年に発売したのが「スバル1000」です。
FFが採用された背景には、高速道路網の整備が進み始めていた日本で、直進性や横風対応性などの操縦安定性において有利であることと、コンパクトカーでありながら広い室内空間が確保できる合理性が理由でした。
搭載されたエンジンは、コンパクトな1リッター水平対向4気筒OHVで、最高出力55馬力から最高速度130km/hの性能を発揮。
トランスミッションはエンジン後方に縦置きされ、ドライブシャフトを左右等長としたことで、良好なドライバビリティを実現しました。
サスペンションは四輪独立懸架とされ、コンパクトカーとしては優れた乗り心地とロードホールディングを両立し、水平対向エンジンによる低重心と重量物をフロントに押し込んだことによる高いトラクション性能などが高く評価されました。
※ ※ ※
2019年8月に、新型BMW「1シリーズ」が国内で発売されましたが、これまでのFRからFFとなったことで、大いに話題となりました。
BMWは伝統的にFRにこだわってきましたが、これまでも「X1」や「2シリーズ アクティブツアラー」などFF車をラインナップして、ついに1シリーズもFF化されました。
1シリーズのFF化は賛否両論ありましたが、BMWの調査によると、1シリーズのオーナーの80%は自分のクルマの駆動方式を知らなかったといいますから、もはや時代の流れなのかもしれません。
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