2007年のジュネーブオートサロンで、BMWアルピナB3ビターボが発表された。大きな注目を集めたこのニューモデルに、Motor Magazine誌はいち早く試乗することができたので、その模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2007年6月号より)
335iのツインターボエンジンを徹底的に分析
BMWの最多量産モデルである3シリーズの現行モデル(E90)が発売されて、すでに3年が経過した。日本のアルピナ・エンスージアストが、このクルマをベースにしたエントリーモデルの登場を今か今かと待ち構えていた今年ようやく、3月に開催されたジュネーブオートサロンに、アルピナ本社のあるブッフローエからニューモデルが運びこまれた。その名はアルピナB3ビターボ。久々のターボモデルの登場である。
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アルピナはこれまで3シリーズをベースにしたエントリーモデルには、ノーマルアスピレーションエンジンを塔載していた。しかし、今回のアルピナのニューモデルは、BMWが最新のツインターボ技術を与えた335iをベースモデルに選択し、独自の伝統あるターボのノウハウを使って、B3ビターボとして完成させた。
このアルピナのニュービターボモデルは、一朝一夕にでき上がったわけではない。今からおよそ29年も前に導入されたアルピナの伝統あるターボ技術をベースに、BMWからの特別の協力もあって、およそ1年前から開発が進められ、今回ここにようやくランニングプロトタイプができ来上がったのだ。そして、レポーターはとくに許されてこのモデルの詳細を知る機会が与えられたのである。
晴天に恵まれたアルピナ本社の前に運ばれてきたこのモデルは、ジュネーブで一般公開されたモデルそのもので、まだ2台目のランニングプロトタイプであった。
アルピナのセールスおよび広報担当のギュンター・シュスター氏によれば、このエントリーモデルの開発は、まずベースとなった335iに塔載されているツインターボエンジンの徹底した分析から始まったと言う。この最新のBMWエンジンは、プレシジョンインジェクション、すなわち精密噴射システムを採用し、そこに2基のターボを並列にレイアウトして、3Lの排気量から306ps/5800rpmの最高出力と、400Nm/1300rpmの最大トルクを発生する。
アルピナでは、このハイテクエンジンをさらにリファインするために、多くのパーツを新たに自社開発したが、とりわけアルピナの古くからのサプライヤーで、ピストン製造のスペシャリスト「マーレ(MAHLE)」と共同で開発したスペシャルピストンが、パフォーマンス向上の大きな役割を果たしている。
すなわち高い剛性と耐熱性を持った新開発のピストンを採用した結果、エンジンの圧縮比を9.4に、そしてターボの最大過給圧を1.1バールにまで高めることを可能にしたのである。しかし、排気量は3Lにとどめられた。
この結果、アルピナ製ビターボエンジンの最高出力は、5500rpmから6000rpmの間で360ps、そして最大トルクは3800rpmから5000rpmの間で、500Nmをそれぞれ発生させることに成功している。すなわち1L当たりの出力は121psとなる。
またドイツの車両検査規定では、こうした量産メーカーのエンジンをベースにした場合に、排出ガス規制値が下回ってはいけないと記されているが、自動車メーカーであるアルピナは当然のことながら、最新のエミッションスタンダードであるEU4を難なくクリアしている。
珠玉の運動性能に相応しい美しいスタイリング
さて、アルピナではもちろんのことながら、この素晴らしいパワープラントを塔載するに相応しいボディを用意している。アルピナブルーに輝くエクステリアには、すでに見慣れたフロントのスポイラー、サイドシル、そしてトランク上縁にはエッジスポイラーが控えめに装着されている。これらすべてはダウンフォースを効果的に発生させ、ハンドリングの向上を目指して設計開発されたものである。
またフロントの8J×18インチホイールには225/40ZR18、そしてリアには9J×18ホイールに255/35ZR18のミシュランパイロットスポーツが、それぞれ組み合わされており、専用開発されたアルピナ製スポーツサスペンションと合わせて、抜群のロードホールディングを約束してくれる。
一方、シートを含むインテリアは、ジュネーブで公開された赤と黒のカラーリングで、普通ならば一歩間違うと趣味の悪くなる組み合わせだが、B3ビターボでは華やかさを抑えた落ち着いた色調の赤がむしろインテリジェントな雰囲気を作っている。
さて、ひととおりのB3ビターボに対する技術的オリエンテーションが終わると、特別に写真撮影とそのわずかな移動区間での簡単なインプレッションが許可される。
さきに述べた素晴らしい仕上がりを持った2トーンのインテリアを目の当たりにしながら、レカロ製のアルピナスポーツシートに身を任せる。
太いグリップのステアリングホイールを通して正面左には300km/hまでスケールアップされたスピードメーター、そしてその右には7000rpmからレッドゾーンの始まるタコメーターが並んでいる。
ひと呼吸置いてからスターターボタンを押す。なにしろ世界にわずか2台しか存在しないプロトタイプなので緊張感は高まり、自ずと慎重になる。するとわずかのクランキングの後に、6本のプラグに一斉に火が入ると、速やかに落ち着いたアイドリング状態に入る。1Lあたり121psを超えるハイパワーエンジンとは思えない行儀の良さである。
進化したトランスミッションはダイレクトなフィールがよい
6速オートマチックのセレクトレバーをまずはDにセットすると、パワフルなエンジンゆえにクリーピング状態でもしずしずと走り出す。さらにオープンロードに出て、スロットルを少し踏み込んだだけで、怒涛のトルクがあふれ出し、1570kgの4ドアセダンはまるで重力を失ったかのように軽々と前進する。
もちろんこのB3ビターボには、アルピナがトランスミッションのスペシャリストであるZF社と共同開発した、スイッチトロニック付きの6速オートマチックが標準で装備されている。しかも、このトランスミッション(6HP19)は改良が行われ、シフトチェンジのスピードがこれまでの2倍の速さになっており、ステアリングホイール背後にあるスイッチで瞬時にシフトダウンおよびシフトアップが可能である。
またこのシフトワークは、とても見事に完結し、DSGに迫るダイレクトなフィールを持っている。もちろんトルクコンバーター式なのでショックはほとんどない。
しかも、フラットで使いやすいトルク特性のために、オートマチックトランスミッションと組み合わせても、街中でリッター当たり7.2km、郊外路では14.1km/L、そして平均では10.4km/Lの燃費を記録する(アルピナの発表による)。
そして現在、ヨーロッパで大きな問題になっている二酸化炭素発生量は1km走行当たり231gと、このパフォーマンスを持ったクルマとしては異例なほど少なく環境に優しいのである。
撮影を無事終えて、帰路では短かったがカントリーロード、そしてアウトバーンをそれぞれちょっぴり体験することができた。それはアルピナが、彼らの新しいエントリーモデルを開発、発表するにあたり、顧客の持っている期待に十分適う準備ができていることを確認することができるものだった。今後は、これを証明する本格的なテストをしたいものだ。
ところで、このアルピナB3ビターボだが、すでに日本の正規輸入代理店のニコル・オートモビルで、今年の6月から輸入が開始されることが決定している。しかも、価格は995万円と、ポルシェ911カレラのエントリーモデルに非常に近い。しかし、こちらは2枚のエクストラドアと、10psのアドバンテージもある。さらに、きっと家族からの賛同も聞こえてくるに違いない。家族全員が一致して肯定してくれるスポーツカーは、世界中どこを探しても、アルピナしか見当たらないはずである。(文:木村好宏/Motor Magazine 2007年6月号より)
BMW アルピナ B3ビターボ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4520×1817×1413mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1570kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:360ps/5500-6000rpm
●最大トルク:500Nm/3800-5000rpm
●トランスミッション:6速AT
●駆動方式:FR
●最高速:285km/h
●0-100km/h加速:4.9秒
※欧州仕様
[ アルバム : BMW アルピナ B3ビターボ はオリジナルサイトでご覧ください ]
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