コロナ禍の影響により、クルマの売れ行きも大きな影響を受けた。2020年4月の国内販売台数は、前年同月に比べて29%減っている。5月に入ると45%の減少となった。
クルマの販売店は営業を続けたが、外出自粛の要請が出ていたから、売れ行きも下がって当然だ。
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車種別の販売台数も総じて下がったが、少数ではあるが、プラスになった車種も見られる。しかも設計が古いのに、売れ行きを伸ばした車種もある。
それはアルファードで、5月の対前年比が111%(5750台)になった。ほかの車種が減少する中でプラスだったから、販売ランキング順位も上昇している。
なぜコロナ禍でもアルファードが売れるのか? 売れた背景を渡辺陽一郎氏に解説してもらった。
文:渡辺陽一郎、写真:トヨタ
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コロナ経済影響受けずに販売台数好調!
2020年5月の車種別販売ランクトップ10(日本自動車販売協会連合会データをもとに作成)
アルファードの小型/普通車における車名別登録台数ランキング順位は、2020年1~3月は12~14位だったが、4月(登録台数の対前年比は99%/5739台)は6位、5月は5位に浮上した。
そうなると姉妹車のヴェルファイアも好調かと思われるが、そうでもない。ヴェルファイアの対前年比は、4月がマイナス45%(1690台)、5月も51%減った(1378台)。
基本的には同じクルマなのに、アルファードは前年よりも10%増えて、ヴェルファイアは半減している。台数格差も大きく、5月のアルファードの登録台数は、ヴェルファイアの4倍以上だ。
国内販売がコロナ禍で大きく落ち込み、なおかつアルファード&ヴェルファイアが5年以上前に発売されたことを考えると、売れ行きはヴェルファイアのように大きく下がって当然だろう。アルファードの売れ方が特殊だ。
姉妹車ヴェルファイアと販売逆転の理由は?
そこでアルファード&ヴェルファイアの過去の登録台数を振り返ると、以前は今とは逆にヴェルファイアが多かった。
現行型へフルモデルチェンジした翌年の2016年は、月平均登録台数がアルファード=3697台、ヴェルファイア=4515台であった。ヴェルファイアはアルファードの1.2倍売れていた。
現行型ヴェルファイア
ヴェルファイアは以前からフロントマスクのデザインが派手で、取り扱いディーラーの店舗数も多い。
ヴェルファイアを扱ったネッツトヨタ店は、2016年頃は全国に約1500店舗を展開しており、アルファードのトヨペット店は約1000店舗だった。販売網に1.5倍の差がある。
フロントマスクの形状も違うため、ヴェルファイアの売れ行きは、アルファードの2倍近くに達した時期もあった。
2018年にマイナーチェンジし、フロントマスクが変わった。
この序列が逆転したのは、2018年1月に実施されたマイナーチェンジだ。フロントマスクのデザインは、両車ともメッキの使い方を派手にしたが、アルファードは仮面のようなデザインを効果的に際立たせて迫力を強めた。
その結果、2018年3月以降の売れ行きは逆転した。2018年の月平均登録台数は、アルファードが4901台、ヴェルファイアは3594台になった。
2019年も同様で、アルファードの月平均は5725台、ヴェルファイアは3054台だ。2018年はアルファードがヴェルファイアの1.4倍、2019年は1.9倍だから、時間が経過するほど差が開いている。
この傾向が2020年に入って一層顕著になったと考えられるが、それだけで登録台数が4倍以上、対前年比がアルファードはプラス11%、ヴェルファイアはマイナス51%の大差にはならない。ほかの理由も考えられる。
それがトヨタの新しい販売体制とされる全店/全車併売だ。
なぜアルファードはここにきて販売好調に?
東京地区は主要な販売会社がトヨタの直営で占められるため、2019年4月1日に、トヨタ店/トヨペット店/トヨタカローラ店/ネッツトヨタ店の4系列を撤廃して「トヨタモビリティ東京」に統合した。
ほかの地域は直営の販売会社も多く、大半が4系列を残すが、2020年5月以降は取り扱い車種が全店/全車併売になっている。
従来はアルファードがトヨペット店、ヴェルファイアがネッツトヨタ店の専売車種だったから、先代ヴェルファイアやヴォクシーのユーザーが、販売店を変えずにアルファードに乗り替えるのは原則として不可能だった。
担当セールスマンとの付き合いもあるため、多くのユーザーはネッツトヨタ店から離れずにヴェルファイアに乗った。
しかし全店が全車を扱う今は事情が異なる。先代ヴェルファイアやヴォクシーからアルファードへの乗り替えも簡単だ。
また、新規購入する場合も、以前はアルファードが欲しければ、遠方のトヨペット店まで買いに出かける必要があった。それが今なら一番近いトヨタの店舗でアルファードを買える。
クラウンからアルファードへ乗り換えするお客様がテレビの影響で増えているという。
このあたりの事情をトヨタ店に尋ねた。「アルファードを扱うようになり、クラウンのお客様が乗り替えるケースが増えている。特に最近は、法人のお客様も、クラウンではなくアルファードを選ぶようになった。TVのニュースなどで、政治家や企業のトップがアルファードを使う様子が報道された影響もあるだろう」と述べている。
アルファードには、2002年発売の初代モデルからフォーマルな雰囲気があった。しかも取り扱いディーラーのトヨペット店は、ハイエースを扱うこともあって法人営業が強い。そこでアルファードが社用車にも使われ、企業の重役、政治家にまで広がった。
最上級グレード「Executive Lounge」
この商品特性に、2018年1月のマイナーチェンジで採用された存在感の強いフロントマスクも加わり、アルファードの登録台数がヴェルファイアを抜いた。今では全店/全車併売の効果もあり、アルファードへの乗り替えが一層進んでいる。
ヴェルファイアを販売してきたネッツトヨタ店にも、最近のアルファード&ヴェルファイアの売れ方を尋ねた。
「現時点でヴェルファイアからアルファードへの乗り替えは少ないが、マイナーチェンジでアルファードの方がカッコ良くなった、というお客様の意見は多い」
「今後アルファードへの乗り替えが増えるかもしれない。また下取り車の発生しない新規購入を含めて、ほかの車種から乗り替えるお客様は、ヴェルファイアよりもアルファードを選ぶことが多い」
以上のようにアルファードのフロントマスクがマイナーチェンジでヴェルファイアよりも存在感を強め、全店/全車併売に移行した効果も加わり、アルファードの売れ行きがますます強まった。
販売系列廃止の真の目的は何?
全店併売になると、このような車種ごとの販売格差が必然的に拡大する。系列ごとに取り扱い車種が決められていると、売りにくい車種でも販売に力を入れるが、全店併売になると売りやすい商品に偏るためだ。
この流れはほかのメーカーを見れば分かるだろう。日産、ホンダ、マツダ、三菱など、以前は系列を用意して専売車種もあった。それが全店/全車併売に移行すると、車種ごとの販売格差が広がって車種数が減った。
このように限られた特定の車種だけが好調に売れる状況では、ディーラーの系列は成立しない。経営破綻する販売会社も生じてしまう。
言い換えれば販売系列は、多くの車種をバランス良く売り、販売台数を増やす効果的なシステムだった。販売系列を増やす過程では、困難も多く多額のコストも費やした。
その実績ある販売系列を廃止して、全店/全車併売に移行する本当の目的はリストラだ。
2月にデビューした新型ヤリス。4月、5月と販売台数首位に立った。
トヨタでも、アルファードが増えてヴェルファイアは減る、ヤリスが売れてアクアは下がる、フロントマスクの派手なルーミーが残りタンクは落ちるという具合で格差が進んできた。メーカーはそこも想定の範囲内で、売れる車種だけを残して効率化を図る戦略だ。
車種の選択肢や店舗の数が減るなら、その代わりユーザーにどのような価値を提供できるのか。レンタカー会社からは「コロナ禍によって公共交通機関が敬遠され、少人数で移動できるレンタカーの利用が増えた」という話が聞かれた。
トヨタのサブスクリプションサービス「KINTO」は様々なトヨタ・レクサスの車種を借りることが出来る。新型ハリアーも追加された。
新車販売を合理化する代わりに、従来とは違うどのようなサービスを構築できるのか。トヨタは日本の自動車メーカーのリーダーだから、トヨタの今後が日本のカーライフを大きく左右する。
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