■最強ストリートスポーツタイヤとして進化した新ネオバAD09
ドライ・ウェットグリップ性能を追求した「走りのタイヤ」として、日本で初めてスポーツラジアルタイヤというジャンルを切り拓くことになったのがADVAN(アドバン)ブランドです。現在は、ヨコハマの「高性能」「高品質」「高技術」をアピールするグローバルブランドとなっています。
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その成り立ちは30年以上前にさかのぼります。1976年に欧州で「日本の乗用車用ラジアルタイヤはウェット性能が低い」と指摘されたことを受けて、横浜ゴムは純粋な技術的チャレンジから、世界最高レベルのウェット性能を備えたタイヤの開発をスタート。1978年には第1弾「ADVAN-HF」を送り出したそうですので、アドバンは長い歴史を持つ、スポーツタイヤブランドということになります。
そんなアドバンブランドから、12月にふたつの新商品が登場しました。ひとつは12年ぶりのフルモデルチェンジとなるヨコハマのスポーツタイヤ、ADVAN NEOVA(アドバン・ネオバ)AD09です。
そこで、アドバン・ネオバAD09の開発者、横浜ゴム消費財製品開発部 製品企画1グループの佐々木 浩長さんに話を聞きました。
「2013年に一度マイナーチェンジしてますが、この波を打ったパターンは2009年からなので、そこからですと12年ほど経っているんですよね。その間にクルマのほうは、馬力が上がってきたり車重も増えていきまして、そういったハイパワー、高出力のクルマにも対応していこうと、しっかり剛性感を持たせて楽しんで走れるようなタイヤにしていくというのが一番の目標、ターゲットでした」とコメントします。
――ネオバとは、サーキット走行も視野に入れたタイヤなのでしょうか?
「基本的にはストリートで使うタイヤなので、通勤、普段の街乗り、それに加えて週末のサーキットでもしっかり走れますよという感じですね。ストリート最強をコンセプトに掲げてサーキットで鍛えて開発したので、サーキット主体というわけではないですが、サーキットでも長く、楽しく、しっかり走れるタイヤです。」
――なるほど、新型になってもネオバの方向性は変わっていないということで、これまでのファンは安心できそうですが、じつはそこに加えて、今の時代に合わせた進化のポイントがあったのですね。
「タイヤって決して安いものではないので、長く使っていただきたいということもあり、環境負荷や経済性も考慮して、新AD09は非対称パターンを採用しました。クルマも高回転でハイパワーになってくるとタイヤに掛かる負荷も高まってきますが、非対称にすることでタイヤのローテーションが可能になりますので、たとえば1年経ったら左右履き替えると、そうすることでもう少し長く走っていただけるようになるかなと思っています」
――やはり長く使えるというのは、ユーザーにとって嬉しい進化のポイントですね。しかし、非対称パターンは、ネオバ初の試みなので、ストリート最高峰という目指す方向は同じでも、結構大胆なフルモデルチェンジと考えたほうがよさそうです。
「方向性非対称はこれまでもあるんですが、完全な非対称は初ですね。でも、ネオバは見た目のカッコよさも非常に大切にしていますので、グリップ、ロングライフ、そしてデザイン性の3点を考慮して非対称パターンを採用しました」
――最近のタイヤはアウト側でドライ性能、イン側でウェット性能というものをよく見かけますが、今回のネオバAD09もそういった設計となっています。アウト側はできるだけブロックを大きくしてより接地させ、イン側は溝を多めに切って排水性をよくするという役割分担です。この波のようなパターンは従来のAD08Rのものに似ていますね。
「AD08Rのパターンをチューニングしています。一方イン側は、アドバンHFタイプDという、アドバンの歴史的なタイヤがあるんですが、それをイメージするようなパターンを採用していまして、そこから全体の性能を高めるようなチューニングをしています」
――なるほど! 歴史と伝統を盛り込んだという話には、何かロマンさえ感じられるのがイイですね。
「性能も踏まえたうえで、歴史も盛り込んでいます。ちなみにこのパターンは、今回のメイン開発ドライバーの織戸 学選手に監修いただきました。じつは開発は2018年夏ごろからスタートしたのですが、当初は別のパターンを考えていたんです。方向性パターンも検討しましたし、まったく新しいパターンも考えました。しかし、長年の熱烈なネオバファンの織戸選手のお話を伺ったり、実際乗っていただいたりして、イチから作り変えたんですよ。織戸選手の熱い思いをもって、我々も動かされたという感じですね」
いろんな性能の中でも、いちばんこだわったのはカッコよさだという佐々木さん。確かに遠くからでもより「NEOVA」のロゴが際立つカッコいいモデルに仕上がっています。カッコいいクルマは速い!といわれますが、ストリートやサーキットの伝説と合わせ、ファンも喜ぶに違いありません。
■新アドバン・スポーツV107はプレミアムスポーツEVにも対応
アドバンのスポーツ部門のフラッグシップがアドバン・ネオバなら、プレミアム部門の頂点に君臨するのがADVAN Sport(アドバン・スポーツ)です。
こちらも久しぶりのフルモデルチェンジとなりました。いわゆるプレミアムカーに履かせるイメージがありますが、ネオバとはどういう立ち位置の違いになるのでしょうか。開発者の横浜ゴム消費財企画部 製品企画1グループ グループリーダーの小畑恒平さんに話を聞きました。
「カテゴリーがちょっと違うので、まったく同じポジショニングで表すのは難しいんですが、アドバン・スポーツは高級車やプレミアムハイパワー車をターゲットにしてまして、ネオバはもう少し走りとかスポーツとかターゲットが絞られたものになりますので、ブランドでいうと同じような高さにはあるんですけど、狙っているターゲットはちょっと違うという感じでしょうか」。
ネオバのようにスイートスポットが絞られていないぶん、逆に多くの性能が求められそうなアドバン・スポーツ。静粛性の高さなども必ず求められるそうです。
「音もしかりですが、今回のアドバン・スポーツV107は、先代のV105を継承しつつ、ドライ制動、ウェット制動、高速での操縦安定性、この3つをハイレベルで向上させています。アドバン・スポーツV107は、新車装着の開発から入っていまして、2020年からBMW Mシリーズ、メルセデスAMGなどに、新車装着タイヤとして採用されています。その技術を生かしながら、さまざまなクルマに合うように汎用性を持たせるようモディファイし、一般補修用タイヤとして今回発売しました」
アドバン・スポーツV107には非対称パターンが採用されており、アウト側がドライグリップ、イン側がウェットグリップというように役割が分けられています。新車装着されたタイヤの細部は、それぞれのクルマによって適正化が図られており若干トレッドパターンが違ってきますが、基本的には同じデザインとなります。
「ドライグリップについては、アウト側の基本ブロックを大きめにして、パターン剛性を高めることによって高速安定性を維持しています。イン側についてはいわゆる主溝を3本と、あと少しアウト側の溝、合わせて3プラス1の4本溝で、とくに耐ハイドロプレーニング性能を上げています。また、サイプのようなものは静粛性を高めるために施していまして、車外の通過音とかを下げるような効果に繋がっています」
――このカテゴリーのクルマは最近マイルドハイブリッドをはじめとした電動化が顕著に進んでいます。今後はBEVの展開も増えてくるであろうことは予想できますし、ますますタイヤに求められる要求は高まりそうです。そうなると、また要求内容も変わってくるのでしょうか?
「BMW iX3で新車装着に採用されていますが、EVは車重もより重いですし、とくに転がり抵抗を下げて欲しい、静粛性を高めて欲しいという要望の比重が高かったりしますね。しかし、アドバン・スポーツは、ひとつのタイヤで、プレミアムなハイパフォーマンスカーからSUV、そしてEVまでカバーするっていうのが特徴だと思っています。ベースとなる技術は変えず、モディファイしながら合わせていくという感じでしょうか。そうすることで、お客様に提供する際のコストメリットも生み出せると思っています」
――でも世界のいろんな道で使われるタイヤとなると、かなり対応が難しいのではないですか?
「そうですね。欧州車を中心としたプレミアムカーと考えると、たとえばドイツのアウトバーンのような高速域で急ブレーキというシーンもあるわけです。日本では考えられないスピード域で、しかも天候もありますから、ドライ路面でもウェット路面でもとなると、もうそれだけで非常に難易度が高いんですね。とくにドライ路面でのブレーキング性能を上げるというのは難しくて。そこがいちばん開発で苦労したところですね。なにかの性能を上げようとすると、他の性能がトレードオフで下がってきてしまう。基本的には先代V105の性能は維持しつつ、ドライとウェットのブレーキングと、操安性を上げるというのが今回の目標だったので、なかなか大変でした」
グローバルでいちばんライバルが多いカテゴリーだけに、かなりシビアな世界ということで、開発期間もネオバと同じくらい要したといいます。つまり他のタイヤと比べると、それだけ開発期間も長くかかり、手も込んでいるという、いろんな意味でプレミアムなタイヤなのです。
■幅広い展開を見せるADVANブランドはそれぞれの頂点に位置する
筆者にとって、ADVANというブランドは漠然と「カッコいい」というイメージがあります。
昔からの歴史や、モータースポーツ好きの人だけでなく、初めて見た人にもシャープでカッコいいというイメージを抱いてもらえると思いますが、やはりカッコよさは意識していると横浜ゴムの小畑さんはいいます。
「そこはもちろんそうです。その上で、誕生当初のオリジナルの“リアルスポーツ”というよりは、もう少し幅広く、ジャンルが広がっていっているというのが現在の姿ですね。たとえば、走りもそうですが音の静かさを求めたADVAN dB(アドバン・デシベル)ですとか、いわゆるスポーツタイヤのエントリーモデルに位置するADVAN FLEVA(アドバン・フレバ)など、もう少し広がりを見せています。
ただ我々のなかでのアドバンブランドというのは、それぞれのカテゴリーの中での、いわゆるピラミッドの頂点のブランドですので、商品性として性能もそうですし、ブランド価値としては高いポジションに位置づけています」
筆者も現在の愛車のVW「シロッコR」には、長年アドバン・スポーツを履いています。
このタイヤは路面温度や天候、さまざまな外因が変わっても、過渡特性が穏やかで、どんなシーンでも扱いやすいという印象を持っています。
なにより、いちばんドライバーとしては緊張を強いられる、ウェット路面での安心感、それはラリーシーンでも街中シーンでも、シチュエーション問わずで、非常に大きな助けとなっていることは言うまでもありません。
これもレース、ラリー、さまざまなシーンを極限状態で走る、モータースポーツで培った技術をしっかり落とし込んでいるからこそ。予想もつかないような日常シーンでの安心感の高さに繋がっているという証だと思います。
世界的なSUV人気やEVシフトなど、これからもクルマは大きく変化します。そんななか、タイヤの重要性も変化していきます。
それに対応しつつ、カッコよく、グローバルで華のような存在として、これからもアドバンはより進化を続けていくはずです。
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