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【Iペイスの新しい挑戦者】新型 アウディeトロン・スポーツバックへ試乗

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【Iペイスの新しい挑戦者】新型 アウディeトロン・スポーツバックへ試乗

ジャガーIペイスへの新しいチャレンジャー

text:Greg Kable(グレッグ・ケーブル)

【画像】比較 eトロンとIペイス 全96枚

translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)


ゼロ・エミッションSUVとして高い評価を得たジャガーIペイス。アウディから新しいチャレンジャーが登場した。名前はeトロン・スポーツバック 55クワトロ。ベルギー・ブリュッセルにある工場で生産される。

名前のとおり、2019年に英国へ上陸したeトロン 55クワトロのスポーティ度を高めたモデル。大きく弧を描く、クーペ風のルーフラインとリフトバック・テールゲートが大きな違い。

バンパーやヘッドライトのデザインはアグレッシブなものに改められている。デジタル・マトリックスLEDヘッドライトの眼光が鋭い。アウディが3年前に発表したエレーヌ・コンセプトに似た、シャープなプロポーションを獲得している。

アウディの高性能バージョンで見られるデザイン要素も取り入れられている。だが、Iペイスほどの個性はないようにも思う。

空気抵抗は優秀で、Cd値は0.25。量産されるSUVカテゴリーの中では、最も空力性能に優れるモデルとなる。同じ純EVとなるジャガーIペイスのCd値は0.4で、大きな差といって良い。

従来の鏡にかわって、カメラ映像を用いた小さなバーチャルミラーを用いたことも、空力性能に貢献しているはず。インテリア周りでは、スポーツバックではないeトロンの良さを受け継いでいる。

見た目や触感など知覚品質は高く、ダッシュボードや操作系、内装パネルの造形や素材など、すべてにプレミアム感が漂う。前席のスポーツシートはオプション。快適で広々とした運転環境にまとめている。

ツインモーターで407psと67.6kg-m

一方の後席は、20mmほど低いカーブを描いたルーフラインのおかげで、少しの我慢が必要。テールゲートも大きく寝かされ、通常のeトロンより荷室容量は45L小さい、615Lとなる。それでもなお、Iペイスより58Lも広い。

全長は4901mmで、全幅は1935mm、全高は1616mm。比較すると、アウディのフラッグシップSUV、Q8より85mm短く、60mm狭く、89mm低い。

eトロン・スポーツバックがベースとするのは、通常のeトロンと同じMLBエボ・プラットフォーム。ホイールベース内にLG化学製の95kWhという大きなリチウムイオン・バッテリーを搭載する。

パワートレインも通常のeトロンと共通で、仕様が異なる2基のインダクション・モーターを搭載。フロントに搭載されるモーターは、183psと25.1kg-m。リアのモーターは、224psと32.0kg-mを発揮する。

システム合計では、セレクターレバーをSに入れた状態で最長8秒間発揮できるオーバーブースト時で、最高出力が407ps、最大トルクが67.6kg-m。Dの状態では効率が優先され、360psと57.1kg-mに制限される。航続距離を伸ばすことにもつながる。

2基のモーターには、それぞれシングルスピードのトランスミッションが組み合わさり、前後のタイヤを駆動。1台のパワー・コントローラーで統合制御される。

Sレンジを選びアクセルを深く踏み込んだ場合など、強いパワーが必要な場合に限り2基のモーターが稼働する。基本的にはリアモーターが主役。ロスを減らすことで、通常のeトロンより11kmほど長い445kmの航続距離を確保している。

機敏な加速に抜きん出た洗練性

eトロン・スポーツバックの車重は2480kgと軽くはなく、Dレンジでの発進は力強いが、ロケットダッシュと呼べるほどではない。クルマが進み始めれば、慣性が小さくなり中間加速はかなり鋭くなる。

アクセルペダルを踏み込むと、英国の高速道路の制限速度(112km/h)以上のスピードも、簡単に到達する。Sレンジにすれば、瞬発力が増強。レスポンスも早まり、たくましい加速感だけでなく、全体的な運動性能も高まる。

0-100km/h加速に要する時間は5.7秒。通常のeトロンと同様に、実際はもう少し鋭く感じられる。199km/hのリミッターに当たるまでパワーが弱まる感覚もない。

ちなみにIペイスの場合、2基のモーター合計での最高出力は399ps、最大トルクは70.6kg-m。0-100km/h加速は4.8秒で、同じく最高速度は199km/hとなる。

エネルギーの回生システムの強さは3段階に調整が可能。ナビゲーションの地形データをもとに、自動で調整もしてくれる。減速時やアクセルオフでの滑走時にどれだけエネルギーを回収できるかは、ドライバーの技量にも多少は影響する。

eトロン・スポーツバックの強みとなるのが、抜きん出た洗練性。筆者はEVに乗る機会も多く、その静かさには慣れていたが、アウディの音響性能は新次元といえるものだ。

高速道路であっても、滑らかに転がる感触に加えて、路面からのノイズや風切り音が綿密に抑えられている。モーターやパワーコントローラーからのノイズもほぼなく、車内は完全に隔離された感がある。リラックスして長距離をドライブできるだろう。

中高速のコーナリングが特に光る

路面を問わない優れた運動性能を考えると、ステアリングホイールへ伝わる感触の薄さは残念。速度感応式の電動パワーステアリングはシャープで、重み付けにも安心感がある。だが、手のひらに伝わるフィードバックに欠けている。

それでもeトロン・スポーツバックはドライバーを楽しませてくれる走りを備えている。ボディーロールは小さく、後輪駆動らしい操縦特性を備え、中高速のコーナリングが特に光る。

重量物は車両中心の低い位置に集中し、SUV基準でいえば低めの車高だから、重心高も低い。ドライバーに自信を与えてくれる、確実な操縦特性を生んでいる。

減速時や急旋回時の重心移動は大きいはずだが、姿勢制御も素晴らしい。標準装備のエアサスペンションが備える、減衰力と素早い反応特性によるものだろう。バランスを崩すことがない、漸進的な動きも見逃せない。

電動化に合わせた新しい4輪駆動システムのクワトロと、左右のリアタイヤ間を制御するトルクベクタリング機能が、確かなトラクションを生んでいる。試乗車の255/50というタイヤはオプションだが、コーナリング・グリップも高い。

アンダーステアやスタビリティコントロールなどの介入なしに、かなりのスピードでコーナーへ食らいついていく。そのまま落ち着きを崩すことなく、コーナー出口では思い切ってアクセルペダルを踏み込める。

英国の場合、21インチのアルミホイールが標準装備。お好みで、オプションで22インチも選択できる。ドイツ仕様では20インチも選べる。優れたシャーシーセッティングにより垂直方向の動きは上手になだめられ、乗り心地は感心するほどだった。

ドライバー志向の純EV SUV

ブレーキペダルの感触もずば抜けて良い。純EVだけでなく、電動化技術を積んだ多くのモデルより優れている。回生ブレーキの強さを変えても、感触はしっかりしており好印象はそのまま。

柔らかいサスペンションの採用とあわせて、通常のeトロンとはブレーキパッドが異なり、抵抗を減らしてあるという。航続距離で3kmほど有利なのだという。

eトロン・スポーツバックの英国価格は7万9900ポンド(1078万円)。7万1520ポンド(965万円)の通常のeトロンより、ドライバー志向のモデルだといって良い。ただし、純粋に運動性能だけで比べた場合、アウディが事前に話していたほど差は大きくはない。

スポーティなルックスに、カーブでの積極的な身のこなしを獲得した、eトロン・スポーツバック。インテリアの質感も高いうえ、多用途性も悪くなく、毎日乗ることが楽しみに感じられるクルマだ。

アウディeトロン・スポーツバックは、純EVのSUVとして相当に高い水準にまとめられている。新型コロナウイルスの騒動が一段落したら、ジャガーIペイスとの比較試乗に持ち込んでみたい。

アウディeトロン・スポーツバック55(英国仕様)のスペック

価格:7万9900ポンド(1078万円)
全長:4901mm
全幅:1935mm
全高:1616mm
最高速度:199km/h
0-100km/h加速:5.7秒(オーバーブースト時)
航続距離:445km
CO2排出量:0g/km
乾燥重量:2480kg
パワートレイン:インダクション・モーター2基
バッテリー:95kWhリチウムイオン
最高出力:407ps(オーバーブースト時)
最大トルク:67.6kg-m(オーバーブースト時)
ギアボックス:シングルスピード

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