迫りつつも届かなかった表彰台、ついに獲得
Moto3クラスに参戦する山中琉聖選手(KTM)は、パルクフェルメでインタビュワーのサイモン・クラファーに「リュウセイサン、表彰台に何度も迫っていましたが、ムジェロでそれを達成した気持ちはどうですか?」と尋ねられます。けれどマイクを向けられた山中選手は、しばらく声を詰まらせ、それでも言葉を探すようにためらい、こう絞り出しました。
【画像】2024年シーズンでMoto3初表彰台に立った山中琉聖選手を見る(6枚)
「何も言えません……!」
その一言で、そしてその表情で、山中選手がどんな感情のなかにいるのかが伝わります。2020年シーズンからロードレース世界選手権Moto3クラスに参戦を開始し、5シーズン目にして、ついに獲得した表彰台でした。
イタリアGPのMoto3の決勝レースは、レース序盤に転倒が発生し、ライダーの救護活動のために赤旗中断となりました。その後、レースは11周で再開されます。グリッドは3周終了時点のものとなり、山中選手は5列目13番手からのスタートでした。
2度目のスタート後、山中選手は激しく攻め、2周目には6人が形成するトップ集団に加わり、最終ラップに4番手で入ります。山中選手は最終コーナーで3番手のチームメイト、イヴァン・オルトラ選手(KTM)を抜こうと考え、オルトラ選手の後ろにぴたりとつけていました。
S字の10、11コーナーを抜け、最終コーナーまで残るコーナーは3つ。そして右の12コーナーへ……そのとき、立ち上がりでオルトラ選手が転倒を喫しました。山中選手は、3位でフィニッシュラインに飛び込んだのです。11周という短いレースで、トップ集団のなかで激しい表彰台争いを展開し続けたからこそ獲得した3位でした。
2024年シーズンの山中選手は、開幕戦、第2戦こそ転倒が続いたものの、以降は表彰台に迫るレースを何度も見せていました。今季、いつかなされるだろうと期待され続けた表彰台獲得は、ムジェロで達成されたのです。
Moto3のトップ3会見に初めて臨んだ山中選手は、レースについて聞かれると「わからないんです、表彰台でいっぱいシャンパンを飲んじゃったから(笑)!」と、笑顔でジョークを飛ばしました。
「赤旗中断のあと、ポジションを見て自分がすることを考えました。“このままで日本に帰れない”って。だから、攻めたんです。すごく攻めて、大きくポジションを上げました」
レース中断の間にタイヤを交換するライダーもいましたが、山中選手はそのまま挑みました。予選Q2でタイヤを2セット使用したため、新品のソフトタイヤがなかったからです。
「レース後半は大変でした。僕はタイヤを交換していなかったので、リアのフィーリングに苦しみました。でも、集中してひたすらに攻めて、彼ら(優勝したダビド・アロンソと2位のコリン・ベイヤー)に追いつこうと頑張ったんです」
山中選手は「この表彰台は自分にとって大切なものになると思います。1度表彰台に上ったことで、レースウイークの流れやレース運び、レース前の落ち着き方など、勉強になったところもあります。この表彰台を獲得したことで、次のレースから少しプレッシャーも抜けるはずです」と、次戦以降に期待を込めていました。
そんな山中選手に、2020年から始まったMoto3での奮闘について尋ねました。
「表彰台に乗るまで4年以上かかりました。4年以上も戦って表彰台に上れないのか、という批判の声もありましたし……。人一倍、悔しい思いやつらい思いをしてきたと思うので、嬉しさも4年分あります」
「Moto3参戦3シーズン目には、シートを失いかけたこともあります。けれど、たくさんのスポンサーさんに助けてもらいました。4シーズン目にやっと良い条件で良いチーム(Valresa GASGAS Aspar Team=2022年のチャンピオンチーム)に入れたと思ったら、うまくかみあわなくて。このチーム(MTヘルメット – MSI)に来て、トレーニング環境も変えて、テストからもいい走りができて、やっと表彰台に立てました」
山中選手は、Moto3を走るライダーとして活躍する傍ら、自分自身でスポンサーを募る活動を行なってきたそうです。そういう意味でも「つらい思いがありました」と言います。
また、ムジェロ・サーキットは山中選手にとって、大きな思いを抱えた場所でもあったそうです。2021年のイタリアGPで、ジェイソン・デュパスキエ選手がMoto3 Q2中の転倒により、亡くなったのです。
「このサーキットで親友だったジェイソンが亡くなってしまいました。そういう意味でも、すごく特別な思いがありました。つらい思いや苦しい思いだったり……言葉にできないような、いろいろな思いが込み上げました」
Moto3で戦ってきた月日、そしてライダーの活動を支えてくれる人たち、思い出の中の親友……様々な思いがないまぜになって、山中選手の胸中を駆け巡っていました。その言葉に声を詰まらせていたパルクフェルメの様子が浮かびます。
ついに立った「最初の」表彰台で山中選手が浮かべたのは、文字通り、「弾けるような笑顔」でした。
■Moto3クラスとは……
Moto3クラスは、排気量250ccの4ストローク単気筒エンジンを搭載するレーシングマシンで争われる。Moto2クラス同様、タイヤは2024年よりピレリのワンメイクになった。MotoGPクラス、Moto2クラス、Moto3クラスの中で、参戦するライダーの年齢層が最も低く、Moto2クラス、MotoGPクラスへの昇格を目指す若いライダーたちがしのぎを削る。
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