2022年4月に欧州にてBMW新型7シリーズが発表された。BMWのフロントデザインといえば、「キドニー(腎臓)グリル」。新型のフロントデザインが旧型モデルよりも少し大きくなったようすだ。
クルマ好きの間では、巨大化しつつある特徴的なこのデザインについて賛否両論の意見があがっている。いっぽうで、一般ユーザーからは否定的な意見はあがっていない。
さすがに巨大化しすぎ? BMWの象徴「キドニーグリル」の存在意義と意外な賛否両論
そこで、本稿ではBMWフロントデザイン「キドニーグリル」の存在意義について解説と考察をしていく。このデザインは見栄が張れるデザインなのか?
文/清水草一、写真/BMW
BMW新型7シリーズ発表!! またキドニーグリルが大きくなった!?
2022年4月に欧州で発表されたBMW新型7シリーズ
BMWの新型7シリーズが、欧州で発表された。BMWのフロントデザインの特徴であるキドニーグリルは、さらに少しだけ大きくなったかな?……という感じだが、グリルよりもヘッドライトが、旧ジュークのような2段になったことが目を引く。BMWはこれを「スプリットヘッドライトユニット」と呼んでいる。
BMWのキドニーグリル巨大化については、クルマ好きの間で大きな議論(?)になっている。基本的にクルマ好きは否定的で、「品がない」と、巨大なキドニーグリルを嫌っている。
BMW7シリーズは、3年前のマイナーチェンジでキドニーグリルが巨大化したが、今回のフルチェンジでは、グリルの巨大化はもはや不可能だったのか、大きさの変化はわずか。グリル全体をブラックアウトしたグレードも存在し、そちらだと、光線の具合によっては、グリルの存在が希薄になる。
形状も、確かに左右2個に分かれたキドニー(腎臓)グリルなのだが、ともに長方形に近づいているので一体に見えやすく、ロールスロイスのパルテノングリルへの接近を感じさせる。
ボディのフォルムも、ロールスロイス・ファントム的な、よりフォーマルなセダン形状になっている。新型7シリーズの狙いは、そちらのセンだろう。
いずれにせよ、BMWはデザイン的な変革を模索している。なかでも最もわかりやすくてアピール度が高いのが、BMW伝統のキドニーグリルの大胆な変更だ。
巨大化しつつあるキドニーグリルをみた一般ユーザーの反応は?
縦長巨大キドニーグリルが目を引く個性的なデザインのM4クーペ
現在、キドニーグリルは、横長や縦長、単純巨大化など、さまざまな形状へと変態化している。クルマ好きからは不評だが、果たして成功しているのだろうか?
売れ行きに関しては、ほぼ同時期に新型コロナの蔓延が始まったため、その影響にかき消されて、プラスなのかマイナスなのか、判定できない。
ただ、日本のクルマ好きが示しているような極端な嫌悪感は、ごく一部の特殊な反応で、世界中のほとんどの人は、否定的には捉えていないようだ。
クルマ好きが最も強い拒絶反応をみせるのは、M4やiXに採用された「縦長巨大キドニーグリル」だ。これについては、総スカンに近い反応ばかり聞こえてくる。
ところが一般ユーザーからは、ほとんど何の反応もない。iXを展示して一般人の反応を見る機会があったが、「すごい!」「豪華~」「カッコイイ」と称賛ばかりで、拒絶反応はゼロだった。
しかも、縦長キドニーグリルそのものについては、個別の反応自体がなく、ただ「BMWの顔」という認識に終始した。
20代女性に、M4の写真を見せて反応を探った際は、「シュッとしてる」「イケメン」といった答えが返ってきた。クルマ好きが「醜い!」とか「エグイ!」と感じるあの顔が、イケメンに見えるのである。これはもう、我々の側の感覚を疑うべきかもしれない。
BMWに関するイメージは、全世界的に非常にポジティブだ。BMWというだけで、どんなデザインでも「カッコイイ」とか、少なくとも「悪くない」という反応になってしまう。
メルセデスのような権威の象徴だと、それに対する反感も生じるが、BMWはメルセデスのカウンターカルチャーで、一種の反逆者。チェ・ゲバラのような革命戦士的なイメージがある。
ところが実際には、BMWは権威の側にいるので、反逆者でありながら権威的もあるという、無敵の存在なのである。だからBMWは、デザインがどんなにヘンテコリン(?)でも、カッコいいことになってしまう。
たとえば1シリーズ。歴代1シリーズは、どれもこれもバランスが崩壊したプロポーションだったが、まったく問題なく売れた。2シリーズのアクティブツアラー/グランツアラーは、カピバラのようなずんぐりしたフォルムで、どう考えても不格好だったが、これまた全然まったく問題なく、ファミリー層を中心に人気だ。
BMWというブランドイメージが強力的な存在に!!
BMWくらいブランドイメージが高いと、ちょっとカッコ悪いくらいのほうが、「地味でいい」といった理由で、好まれる面すらある。
つまり、「巨大なキドニーグリルは品がないし、カッコ悪い」といった、細かい(!)ことでは、一般ユーザーは動かない。「だってBMWでしょ」という事実のほうが、はるかに大きいのだ。
逆に巨大なキドニーグリルは、アルファードの巨大銀歯グリルのような人気を集める可能性がある。
現行アルファードが登場したとき、多くのクルマ好きから大ブーイングが上がった。それはもう「見るだけでウンザリ!」「許せない!」という、全否定の反応だった。
ところがフタを開ければ、アルファードの顔は大好評で、姉妹車のヴェルファイアすら駆逐。しかも、年を経ることに人気が上昇している。デザイン的に陳腐化していないのだから恐れ入る。
ズバリ、BMWのキドニーグリルは、巨大化しようが縦長になろうが横長になろうがどうしようか、見栄を張れる。BMWに乗っていれば、それだけで「高級車」だし、「カッコイイ」とか「エリートっぽい」と見てもらえるのだ!
私はもともとイタフラ車の愛好家で、多くのイタフラ車に乗ってきたが、現在は先代3シリーズを普段の足に使っている。BMWについては比較的初心者だが、そのブランド力の強力さに、オーナーながら圧倒される。
私の3シリーズはすでに旧型。買った時点で3年落ちの中古車で、車両本体価格は235万円に過ぎなかった。しかし現在でも、世間的には完璧に高級車扱いされるし、「カッコイイ」と言ってもらえる。まぁ先代3シリーズのキドニーグリルはとっても普通で、拒絶反応ゼロですが、BMWのキドニーグリルの大きさや形状にこだわるのは、一部のクルマ好きだけだと思って間違いない。
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