長年F1を取材しているベテランジャーナリスト、ルイス・バスコンセロス氏が、全20人のドライバーのグランプリウイークエンドの戦いを詳細にチェック、独自の視点でそれぞれを10段階で評価する。今回はサウジアラビアGPでの戦いぶりを振り返る。
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ヨス・フェルスタッペン、息子マックスの僚友ペレスは数少ない勝利のチャンスを守るために「全力を尽くした」と語る
ジェッダ・コーニッシュ・サーキットは高速でなおかつウォールが近いため、ドライバーたちにとって大きな挑戦になる。それにもかかわらず、日曜日のナイトレースをウォールにクラッシュして終える者はひとりもおらず、オープニングラップでも中団で小さな事故があっただけだった。そういう意味では20人全員が堅実な仕事をしたといえるだろう。
■評価 10/10:フェルスタッペンにショックを与えたペレスの強さ
セルジオ・ペレス(レッドブル):予選1番手/決勝1位
ジョージ・ラッセル(メルセデス):予選4番手/決勝4位
ポールポジションからスタートしたセルジオ・ペレス(レッドブル)は、1年前のサウジアラビアGPで残酷な展開により奪われた勝利を今年、取り戻すことができた。チームメイトのマックス・フェルスタッペンは予選Q2でトラブルに見舞われ、15番手グリッドスタートに。その状況をペレスは最大限に活用し、F1キャリア5勝目を獲得した。
1ラップにおいてはフェルスタッペンに匹敵する速さがなかったものの、フェルスタッペンがQ2で脱落した後、ペレスは代わってポールポジションを獲得。スタートでフェルナンド・アロンソに抜かれた後、DRS使用可能になるとすぐにポジションを取り戻した。ペレスはそこからすぐにプッシュしてギャップを広げるというよりも、終盤のフェルスタッペンとの戦いに備えて、タイヤをセーブ。しかしセーフティカー出動は、ペレスの不利に働き、フェルスタッペンがレースが半分経過したあたりで5秒差の2番手まで上がってきた。だがペレスはそのギャップを最後まで保ち、大勢の人々、特にフェルスタッペンに衝撃を与えた。今回ペレスは、条件が揃えば、2度のチャンピオンであるフェルスタッペンと対等に戦い、勝つことができることを証明した。
ジョージ・ラッセル(メルセデス)のこの週末のパフォーマンスは傑出していた。予選でルイス・ハミルトンを大差で破り、保守的な戦略でセーフティカー出動まで3番手を守った。また、メルセデスより速さで優れたアストンマーティンに乗るランス・ストロールを、彼がリタイアするまで抑えきった。リスタート後、ハードタイヤのラッセルのすぐ後ろに、ミディアムタイヤを履くハミルトンが迫ってきた。ラッセルはチームをうまく説得してチームオーダーを出させず(前任者のバルテリ・ボッタスにはそんなことは絶対に許されなかった)、4位を守り切った。
■評価 9/10:F1全体に素晴らしい瞬間をもたらしたアロンソのリードラップ
フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン):予選3番手/決勝3位
シャルル・ルクレール(フェラーリ):予選2番手/決勝7位
フェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)にとって、週末のネガティブな瞬間は一度しかなく、それは決勝グリッドでマシンの停止位置が少しずれてしまったことだった。左にはみ出したということは、路面のより汚れた側からスタートしたことになるが、そこから好スタートを決めて、トップに浮上。彼が3周をリードしたことは、F1全体にとって素晴らしいことだった。ペレスに抜かれた後も、しばらくDRS圏内にとどまったが、そのうちペレスはプッシュし始めて遠ざかっていった。アロンソは5秒ペナルティを受けたため、その分のタイムをコース上で取り返すことに集中し始めた。
アロンソは今回、自分の相手はメルセデスであってレッドブルではないと承知しており、フェルスタッペンには抵抗しなかった。メルセデスが、ラッセルより速いタイヤを装着したハミルトンを前に出そうとしなかったため、アロンソは容易にチェッカーまで3位を守ることができた。表彰式の後の追加ペナルティ騒ぎでいったん3位を失ったが(F1レギュレーションの文言の書き方も、実行されるやり方も、いかに不十分かを示す出来事だった)、ペナルティが撤回され、無事に100回目の表彰台を手にすることができた。
シャルル・ルクレールにとってサウジアラビアGPは、全体的に不運な週末だった。予選ではペレスからわずか0.155秒差のタイムをたたき出した。あれこそ“ラップ・オブ・ザ・ウイークエンド”といえるだろう。しかしルクレールは、グリッド降格ペナルティを受ける運命にあった。12番グリッドからスタートした彼は、ソフトタイヤの力を活用し、最初の13周のうちに、周冠宇、ニコ・ヒュルケンベルグ、ピエール・ガスリー、ルイス・ハミルトン、エステバン・オコンを素早く抜いて行った。しかし、運が悪いことに、タイヤ交換直後にセーフティカーが出動。しかも、ピットウォールからのコミュニケーションミスにより、ピットアウトするハミルトンに前に出られてしまい、ハードタイヤではSF-23のペースは悪く、チームメイトの後ろの7位でレースを終えなければならなかった。
■評価 8/10:ペレスとの関係が心配なフェルスタッペン
マックス・フェルスタッペン(レッドブル):予選15番手/決勝2位
エステバン・オコン(アルピーヌ):予選7番手/決勝8位
マックス・フェルスタッペン(レッドブル)は、FP1から後方に大差をつけ、圧倒的な速さを発揮していた。しかし予選Q2でドライブシャフトのトラブルが発生し、Q3に進めず。それでも彼の速さをもってすれば、15番グリッドからの優勝は可能だと誰もが考えていた。レース序盤は辛抱強く、慎重にポジションを上げていき、セーフティカーが助けになり、4番手に浮上。すぐさまラッセルとアロンソを抜いて2番手に上がった。その後は、首位を行くペレスに追いつきたいところだったが、ペレスとほぼ同じタイムを出すにとどまり、ギャップを縮めることができなかった。最終的にフェルスタッペンは、最終ラップでファステストラップをペレスから奪うという行動に出て、1点差でランキング首位を守った。
予選後のチームのデブリーフィングを欠席していることからも、フェルスタッペンは、レッドブルではなく“チーム・フェルスタッペン”のために走っていることは明らかだ。レース後の態度を見れば、ペレスとの関係が100パーセント良好ではないことははっきり分かる。
開幕戦バーレーンGPは、エステバン・オコン(アルピーヌ)にとって悲惨な週末だったが、ジェッダでは物事がうまく運んだ。予選でチームメイトをそれなりの差で破り、決勝では比較的静かな展開のなかで8番手でフィニッシュした。日曜の最も難しい瞬間はリスタートでチームメイトの攻撃をかわすことだったが、オコンはクリーンに戦い、チームを安堵させ、ダブル入賞によってアルピーヌをランキング5位に引き上げた。
■評価 7/10:善戦続ける角田に残酷な展開
ルイス・ハミルトン(メルセデス):予選8番手/決勝5位
ケビン・マグヌッセン(ハース):予選13番手/決勝10位
角田裕毅(アルファタウリ):予選16番手/決勝11位
周冠宇(アルファロメオ):予選12番手/決勝13位
ピエール・ガスリー(アルピーヌ):予選10番手/決勝9位
7度のワールドチャンピオンであるルイス・ハミルトン(メルセデス)が、予選でマシンバランスにこれほど苦労する姿を見るのは珍しい。セクター1でプッシュすることができず、8番手に終わったのだ。決勝は大多数のマシンとは逆の戦略を採り、ハードタイヤでスタート。序盤は防御に徹するしかなかったが、セーフティカー出動中にピットストップを行ったことで、オコンとルクレールの前に出ることができた。
予定より20周早くミディアムタイヤを履くことになったが、前を行くラッセルよりペースはよかった。しかしメルセデスはハミルトンを前に出すというチームオーダーを発令せず、ハミルトンはタイヤをセーブしつつ5位でフィニッシュ。レースペースは予選ペースよりはるかに優れていただけに、満足できない結果だ。
ケビン・マグヌッセン(ハース)は、予選でテクニカルトラブルに見舞われ、力を発揮しきれなかったものの、いつもどおりの闘志を示し、決勝を戦った。角田裕毅へのオーバーテイクの試みは、なかなかうまくいかなかったが、残り4周で成功。ハースにとってシーズン初ポイントにあたる貴重な1点を稼いだ。
週末を通して素晴らしい仕事をしてきた角田裕毅(アルファタウリ)にとって、レース終了間際になって10位を失うというのは、残酷な展開だった。FP3でチームがソフトタイヤを使わないという選択をしたことで、Q1で適応するのに少し時間を要し、その結果、Q2に進むことができなかった。決勝スタートで順位を上げた後、タイヤをうまく持たせて走り、セーフティカー出動時に真っ先にピットイン。それが大きなアドバンテージになり、8番手に上がった。アルピーヌ勢を抑え続けられなかったのは仕方がないことであり、速さで勝るハースに乗るマグヌッセンを約20周にわたって抑え続けたのは見事だった。それだけに、再び11位フィニッシュという結果に終わったのは残念だった。
周冠宇(アルファロメオ)は今回、チームメイトよりも速さがあり、予選12番手を獲得、ルクレールのペナルティで11番グリッドを手に入れた。決勝1周目にオスカー・ピアストリとヒュルケンベルグをパスしたものの、グリップ不足に苦しんだ。ハードタイヤよりミディアムタイヤの方がうまく機能するのではないかと2回ストップを試みた結果、13位どまりとなった。
移籍2戦目のピエール・ガスリー(アルピーヌ)は、今回も予選でオコンにかなわなかったが、少なくともトップ10に入った。決勝リスタートで、チームメイトに対し、勇敢でありながらクリーンな動きでオーバーテイクを試みた後、9位を維持し、チームに貴重なポイントをもたらした。
■評価 6/10:予選で才能を示したピアストリ
カルロス・サインツ(フェラーリ):予選5番手/決勝6位
ランス・ストロール(アストンマーティン):予選6番手/決勝リタイア
ローガン・サージェント(ウイリアムズ):予選-番手(107%タイムに届かず)/決勝16位
オスカー・ピアストリ(マクラーレン):予選9番手/決勝15位
ニック・デ・フリース(アルファタウリ):予選18番手/決勝14位
カルロス・サインツ(フェラーリ)にチームメイトよりかなり低い評価を与えるのは厳しすぎるように思われるかもしれないが、サインツは、プラクティスと予選でルクレールのペースにまるで届かなかった。あらゆるタイヤ戦略を試すなかで、0.5秒も遅れていたのだ。決勝では1周目にランス・ストロールに抜かれ、リスタート後にはハミルトンにも抜かれて、ふんばり切れたのは相手がチームメイトの時だけだった。ふたりともハードタイヤに苦労し、サインツは6位どまりに終わった。
プレシーズンテスト前に負った怪我がまだ治っていないランス・ストロール(アストンマーティン)は、チームメイトのアロンソに匹敵するパフォーマンスを見せることはできずにおり、予選では6番手にとどまった。決勝では1周目の序盤に大胆な動きでサインツをパス、しかし圧倒的に速いマシンに乗りながら、ラッセルをオーバーテイクすることはできず、その後、ESのトラブルでリタイアした。
ローガン・サージェント(ウイリアムズ)は予選Q1最初に素晴らしいラップを走った。十分Q2に進めるタイムだっただけに、そのラップが取り消されたのは非常に気の毒だった。タイム抹消によって冷静さを失ったサージェントは、不必要なミスをふたつ犯し、結局Q1でまともなタイムを出すことができなかった。最後尾グリッドから決勝をスタート、トラブルを避けて走っていたが、勢いを失っているように見えた。取り消されたラップと幻のトップ15が、彼の心の奥底に残り、気持ちを切り替えられなかったのかもしれない。
同じくルーキーのオスカー・ピアストリ(マクラーレン)は、土曜日にはベストの仕事をやってのけて予選9番手を獲得、才能を示した。しかし決勝スタート直後のターン2立ち上がりで、レーシングライン上にいたガスリーと接触するという、不必要なインシデントによって、チャンスを手放してしまった。修理のためのピットストップにより後方に落ちた後も、彼は戦い続けた。チームオーダーによってレース終盤にランド・ノリスからポジションを譲ってもらい、最終ラップでサージェントをパスして、チームの判断に報いた。
ニック・デ・フリース(アルファタウリ)はトラブルのためにFP3で走れないまま、予選に臨み、フライグラップ序盤にスピンを喫してしまった。悪夢のような展開だったが、経験豊富なデ・フリースは、冷静に対処し、たっぷり走りこむことができた角田と0.3秒差の予選18番手という結果を出した。決勝ではトラブルに巻き込まれることなく走り続け、14位完走を果たした。
■評価 5/10:アルボンがチームメイトほどの速さを示せず困惑
アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ):予選17番手/決勝リタイア
ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース):予選11番手/決勝12位
アレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)は予選後、「プッシュすればするほど遅くなる」と困惑していた。彼には、サージェントの見事な予選ラップ(取り消されはしたが)と同等のタイムを出せるだけの速さがなかったのだ。決勝ではライバルたちと戦えていたものの、ブレーキのトラブルでリタイアしなければならなかった。
ニコ・ヒュルケンベルグ(ハース)にとって週末のハイライトは11番手を獲得した予選だった。決勝ではスタートをうまく決められず、ポジションを落としたうえに、レースコンディションではマグヌッセンほどのペースがなく、12位に終わった。
■評価 4/10:Q1で手痛いミスを犯したノリス
ランド・ノリス(マクラーレン):予選19番手/決勝17位
バルテリ・ボッタス(アルファロメオ):予選14番手/決勝18位
ランド・ノリス(マクラーレン)がQ1の準備ラップ終盤にウォールに接触したのは衝撃的だった。彼は自分自身のミスによって最後列スタートになったのだ。1周目にデブリを踏んでマシンの底部にダメージを負い、日曜にもMCL60が持つペースを引き出せずに終わった。
バルテリ・ボッタス(アルファロメオ)にとって悲惨な週末だった。予選で速さがなかった理由が分からないまま決勝に望み、1周目にピアストリ車のデブリを踏んでフロアにダメージを受けた。その後、ボッタスは3種類のタイヤコンパウンドを使って走ったが、どのタイヤでもスライドに苦しんだ。
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