日産ヘリテージコレクションの名車たちを紹介する連載第3回目は、1987年の東京モーターショーでの花形となるコンセプトカーの1台。当時の最新技術の粋を集めた夢のスーパーカー「NISSAN MID4 II」を紹介しよう。
文/大音安弘、写真/池之平昌信、日産
日産の夢と未来のすべてが詰まったスーパーカー「MID4」とは!? R32スカイラインGT-RとZ32フェアレディZにつながった珠玉のミドシップ!
■1985年のフランクフルトショーで初公開!
1985年にフランクフルトショーで世界初公開されたMID4(I)。MID4IIとはフロントマスクなども別物で、かつてのマセラティメラクに近いイメージか
盛況のなか、幕を閉じた国内最大級の最新モビリティ展示会「ジャパンモビリティショー2023」も多くのコンセプトモデルが展示され、乗り物好きたちを楽しませてくれた。しかし、今をさかのぼること35年以上も前に日産から夢のようなスーパーカーが誕生していた。
その幻のスーパーカーの物語は、1985年9月開催の西ドイツ・フランクフルトショーまでさかのぼる。日産は新開発のミドシップスポーツカー「NISSAN MID 4」を参考出品した。新開発となる自然吸気仕様のV6、3LのDOHC「VG30DE」を横置きとし、ミドシップにレイアウト。駆動方式には、フルタイム4WDを採用していた。
MID4(I)のリアビュー。どことなくフェラーリ308にも通じるデザインのように感じられる
さらに当時、最新のR31型スカイラインに初採用された後輪操舵機構「HICAS」(ハイキャス)などの最新技術を取り入れることで、「安全に、しかも高度なテクニックを必要とせずに運転できる」ことを目標に開発されていた。
新開発となる自然吸気仕様のV6、3LのDOHC「VG30DE」を横置きに搭載していたMID4(I)
世界初公開となるMID4を報じた1985年10月26日号のベストカーガイド(当時)では、大きく表紙に「スーパースポーツ日産MID4衝撃のデビュー」の見出しが躍り、現地からのレポートに加え、その開発を指揮した桜井真一郎氏の独占インタビューまで掲載している。
その後、メディア向けにMID4試乗会も開催され、誌面でも大々的に紹介。日本中のクルマ好きが、日産初のスーパースポーツの動向を見守り、市販化へと期待を膨らませた。
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■IとIIでは専用設計部品に大きな違いあり
日産ヘリテージコレクションに収蔵されているMID4II。そのスタイリングはMID4(I)とは別物の完成度だということがよくわかる
初披露となる2年後、1987年10月29日の東京モーターショーの会場では、進化版となる「NISSAN MID4」を世界初披露した。当時のリリースには、「運動性能を追求することを目的とした研究実験車として、実用レベルの最高技術を結集してレベルアップを図り、運動性能、高速時の操縦性・走行安定性、旋回性能などハイレベルの運動性能を実現している」と説明されていた。これが現代では、通称「MID4II」と呼ばれる今回の主役である。
ミドシップレイアウトのハイテク4WDスポーツカーである基本構造こそ共通だが、その中身は大きく作り変えられた。I型が、多くのパーツを市販車から流用していたのに対して、II型では、ほとんどが専用設計されており、より開発の内容が濃くなったことを物語っている。
MID4IIに搭載された心臓部であるV6、3LツインターボのVG30DETTは縦置き搭載に変更。最高出力330ps、最大トルク39.0kgmを誇っていた
まずエンジンは、自然吸気仕様からインタークーラー付きツインターボの新開発「VG30DETT」に。これにより性能は、最高出力が100psアップの330ps/6800rpm、最大トルクが10.5kgmアップの39.0kgm/3200rpmまで高められていた。
エンジン搭載方向も縦置きとし、足回りも前後マクファーソンストラットから、フロントがダブルウィッシュボーン、リアがマルチリンクという凝った仕様に。これによりタイヤサイズもワイド化され、前後異形となるフロント235/55ZR16、リア255/50ZR16となった。
そのメカニズムを収めるボディスタイルは、グラマラスで華やかなものに。ボディサイズは全長4300×全幅1860×全高1200mmと、全長で150mm、全幅で90mm各々拡大。ホイールベースも+5mmの2540mmとなった。重量増は、170kg増の1400kgと思ったよりも重量増は少なめ、これはアルミボディによる効果が大きかった。
■フェラーリテスタロッサにも似たグラマラスなスタイリング
MID4IIのリアビュー。MID4(I)と比べるとそのグラマラスさは雲泥の差である
誕生より36年を経たMID4IIだが、そのスーパースポーツにふさわしいスタイリングの迫力は今も健在だ。そのフォルムは、同じくミドシップスーパーカーであるフェラーリ テスタロッサとも重なるものがある。
リアのエンジンフードは、I型には見られない大型エアダクトが見られるが、これはエンジン上部との干渉を避けるためのもの。その最後部には、ハイマウントストップランプが内蔵されている。さらにテールエンドには、小型のトランクスペースがあり、専用リッドにはダンパーも備わるなど、かなり実用性にも配慮されていた。
リトラクタブルライト起動時のMID4IIの表情。ポップアップした状態のMID4IIのフロントマスクは貴重だ
ラゲッジスペースは、フロント部にも用意。フード下には、小さなスーツケースならば収められるくらいのサイズが用意されていた。そこに同居するのは、懐かしい吊り下げ式のウォッシャータンクだ。今回は、特別にリトラクタブルライトも起動してもらった。この姿は、あまり見られないだけに貴重だ。
3本スポーク形状のスポーティなステアリングや左右独立形状のスイッチ類などはR32スカイラインGT-RやZ32フェアレディZにも通じるデザイン
2座のフルレザーバケットシートを備えたインテリアは、ひと目でスポーツカーのコックピットと理解できるもの。ダッシュボードデザインは、メーターフードの左右にサテライトスイッチを備えることもあって、後のZ32型フェアレディZのインテリアとも似た雰囲気。そして、ステアリングは、まだ市販前のR32型スカイライン(GT-R)と同様の3本スポークデザインとなっている。
撮影車は、ブラックシート×レッドカーペット仕様であったが、広報写真を振り返ると、タンシート×ブラウンカーペット仕様のものを発見。スーパースポーツふさわしい高級感にあふれたインテリア仕様もあったのだ。専用部品の多さと内装の仕様違いを試作していた点などからも、かなり市販を意識していたことが伺える。
■徳大寺氏が当時のベストカーでMID4に試乗!
スーパースポーツのMID4IIだが、トランクスペースも充分な容量を確保している
当時の状況を探るべく、ベストカーを振り返ってみよう。1987年11月26日号では、緊急企画として「走るモーターショー MID4 FXV-II初試走」の見出しが躍る。モータージャーナリストの徳大寺有恒氏と当時の編集スタッフが試乗。
そのなかで、徳大寺氏は「初期型はコンセプトカー、ショーカー的な要素が強く、エンジニアの習作的な部分が、今回のMID4(II)はより現実的に、ことによったら、“売ってやろう”というつもりで作られている。このへんの差がクルマそのものに大きな違いを与えるのだ」と指摘。
より現実的なクルマに仕上げられているとしながらも、日本の大メーカーでも高価なスーパーカーを大量に売りさばくのは難しく、想定よりも高価となるだろうとしたうえで、現実性の低さを指摘。また、クルマのデザインやキャラクターの評価も厳しかった。
「MID4の開発スタッフが、もしランボルギーニカウンタックに乗ったらなんというだろうか。私には想像がつく。視界が悪い、乗降性が悪い、設計が古い、その評価はクルマとしては正しい」としながらも、「いかにして乗っている人を別世界にいざなうか、こいつこそスーパーカーの役目なのである」と、その世界に挑むならば、機械として正しさだけでなく、スーパーカーというもの自体をきちんと理解して欲しいと締めくくっていた。
興味深いのは、同じ誌面のBCスタッフのMID4インプレの記事だ。関係者の声が掲載されており、「MID4の新型は4月くらいから作り始めたんです。今日来ている一次試作の2台ができ上がり、ガンガンテストしている時に中止の判断が出たんです。最近のことですよ。そりゃショックは大きかったですね」と、この時点で市販化がなくなったことを明かしている。
それでも、「これからもこのクルマの開発自体は続いていくわけですから、可能性がまったくゼロというわけじゃないと確信しています」とコメント。技術開発車としての役目もあったため、MID4の開発自体は続いていたのである。日産開発陣が、世界で戦えるスーパーカーを夢見ながらも、世に出ないクルマの開発を続けることはきっと辛さもあったのではないだろうか……。
■ベストカーは当時から「MID4応援団」だった!
大型のエアダクトが備えられているMID4IIのエンジンフード
そんな開発者と日本生まれのスーパーカーを夢見る読者の気持ちを背負い、ベストカー誌面では、商品化の復活を願う企画も行われた。それが、1987年12月10日号の「熱望的MID4カタログをBCが作る!!」だ。
中身は、編集部が想像する新車カタログや広告デザインを多数掲載し、最後にグレード表まで載せてしまう凝りようだ。まさにベストカーは、MID4応援団だったのである。
フロントのボンネット下に設けられたMID4IIのラゲッジスペース
結果的には、MID4は、先行技術開発車としての役目を終えた。しかし、高性能なVG型エンジンは、多くの日産高級車に採用された。例えば、ツインターボ仕様はZ32型フェアレディZに搭載された。ただ、高性能すぎたため、メーカー自主規制により最高出力を280psに抑えられていた。
さらに駆動システムでは、4WDと後輪操舵機能「HICAS」の組み合わせが、後のR32型スカイラインGT-Rのハイテク4WDにも繋がっている。またマルチリンクサスペンションも、多くの市販車に採用された。
1990年代前後の日産車の輝きには、きっとMID4による多大な貢献があったと思う。だからこそ、幻のスーパーカー「MID4」は、今も多くの日産ファンの心を惹きつけて止まないのだ。
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みんなのコメント
そしたら、窓越しに当時の部長が私に「エンジンかけてみろ」と…😱
かけてみましたが、夢心地でした😊
それから市販化に向けて検討を始めた時に、開発中止のアナウンスが😞
60歳を超えた今では良い思い出です😊