5月24~26日、2024年MotoGP第6戦カタルーニャGPが行われました。アレイシ・エスパルガロの引退発表会見があり、スプリントではトップに立った3台が転倒してアレイシ・エスパルガロが勝利を飾りました。しかし、日曜日にはドゥカティが表彰台を独占して苦手なカタロニア・サーキットを克服。ドゥカティとしてはカタルーニャでホルヘ・ロレンソ以来6年振りの優勝を飾りました。
そんな2024年のMotoGPについて、1970年代からグランプリマシンや8耐マシンの開発に従事し、MotoGPの創世紀には技術規則の策定にも関わるなど多彩な経歴を持つ、“元MotoGP関係者”が語り尽くすコラム、2年目に突入して第31回目となります。
ヨハン・ザルコ、Team HRCから鈴鹿8耐へ参戦の意向「いつかはやるだろうと思っていた」/MotoGP
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--昨年のカタルーニャGPはポールこそドゥカティのフランセスコ・バニャイア選手が獲りましたが、全体的にはアプリリアの圧勝と言うイメージでした。今年もそのパターンかと思いましたがそうでもなかったですね。
今季限りで引退表明したアレイシ・エスパルガロ選手が予選トップで、敵失ではあるけれど順当にスプリントは優勝したし、転倒したけれどラウル・フェルナンデス選手が一時トップに立ったりして、アプリリア機は昨年同様にこのトラックでのアドバンテージを持っている感じだったね。
それにしてもバニャイア選手は昨年のレースのアクシデントに続いて、今年はスプリントの最終ラップで不可解な転倒でリタイアと、このトラックとの相性に問題ありという感じだね。
--昨年の転倒では後続のブラッド・ビンダー選手に足を轢かれるというアクシデントで、一時は重症かと騒然としてチャンピオン争いからも脱落かと思いましたが、大事に至らなくて良かったですよね。
今回のスプリントではトップで迎えた最終ラップで転倒したけど、本人は前のラップより抑えて走ったと言ってるから、それが逆効果だったとしたら本人にしたらやりきれないところだね。
でも今回クラッシュが多発した5コーナーは高速右コーナーが続いた後の低速左コーナーなので、同じような条件の10コーナーと併せて、何かが起こる条件が揃っているとは言えるんじゃないかな。昨年バニャイア選手がクラッシュした2コーナーもそういう意味で危険な所だけどね。
--バニャイア選手は前のラップより抑えて走ったと言っていますが、スピードが低いと空力効果が弱まるとか関係ないですかね?
全く影響がないとは言えないけど、スピードの差があったとしてもごく僅かだろうし、むしろスピードを抑えるためにブレーキを多少なりとも強めに掛けたとしたらその影響の方が大きいんじゃないかな。ブレーキングのスタイルは人それぞれで、ポンとリリースしてコーナーに入る人もいれば、フロントに荷重を残す為にコーナーでもブレーキを軽く掛ける人もいる。どちらが良いとは一概に言えないけれど、タイヤは何らかのアクションに対して変形して、その結果としてグリップを発揮するという基本的な特性を忘れちゃいけない。
そして入力(アクション)と出力(グリップ)の間には時間的な遅れが常にあるから、アクションが早いとタイヤの反応がついて来ないという事態も起こり得るんだ。
身近な例だとバイクで真っすぐ走っている時に、ハンドルを左右に操作するとゆっくりなら蛇行するけれど、素早いとバイクは直進する。つまりある一定時間以下のアクションに対しては反応が返って来ないってことだ。厄介なことにその時間的な遅れは、タイヤの物理的な性質や環境で刻々と変化するしね。
--運・不運も気まぐれなタイヤの特性次第という事になるとライダーは大変ですね。バニャイア選手もレースの最終ラップではまたスプリントのように転倒するんじゃないかと冷や冷やしていたでしょうね。それでも今回のレースはドゥカティのファクトリーマシン同士の一騎打ちと言う構図でしたから、マルク・マルケス選手の3位というオマケまで付いたしドゥカティとしては昨年の雪辱を果たしたという事ですね。
今年のマシン開発の方向性を決める際には、昨年のレース結果が影響したのは間違いないだろうね。昨年まではストップ・アンド・ゴー的な走りで強みを持っていたけれど、高速コーナー主体のカタルーニャではアプリリアのアドバンテージを見せ付けられてしまった。そこで今年のマシンはそこも強化してきた。
本来は開発の方向性を定めるときには自分の強みを更に磨く、その上で弱みをできるだけ少なくするというのが基本なんだ。あれもこれもと欲張ると、たいていどっちつかずになって上手くいかないしね、経験上(笑)
その点、シーズンの初めには多少の混乱があったようだけれど、今年のマシンはその辺りのバランスが結果的にうまく行って、全方位的な強さを獲得したのが今回のレース結果と言えるんじゃないかな。
--たしかに、ドゥカティの昨年型マシンのトップのマルケス選手と、スプリントで優勝したアプリリアのアレイシ・エスパルガロ選手には10秒以上の大差をつけましたからね。
たしかに、現状ではドゥカティが最速マシンで、バニャイア選手とホルヘ・マルティン選手がライダーとして最強レベルにあるのは間違いない。とは言っても予選ではアプリリア、KTMも上位に付けているので、一発の速さはほとんど差が無くなりつつあるんじゃないかな。
1秒の間に20人くらいがひしめいている現状は、かつてないような異常事態で、この中で結果を出して行くのはライダーにとってもメーカーにとっても大変な事だと思うね。僕らの時代にはせいぜい1秒の間に10人くらいで、それでも凄いと思ってたからね(笑)
--シーズン前半には振動(チャタリング)問題があって、今年のマシンの方が出やすいような印象でしたが、今回は特に問題にはなっていなかったようです。何らかの対策が効果を発揮したという事でしょうか。
おそらくはタイヤの方もそれなりに対策をしていると思うけれど、今回のカタルーニャのトラックは基本的にグリップが低いという事なので、チャタリングが出にくかったと思うよ。本来バイクがバンクしている時間の長いコースはチャタリングが起きやすいものだけどね。
--ところで、ドゥカティでの初優勝も時間の問題と見られているマルク・マルケス選手ですが、2戦続けて予選Q1スタートと予選のプロセスで苦労しているようです。
それがなければもう少し楽なレースが出来て優勝の可能性も高まると思うけど、何が起きてるんだろう。マシンにはもう慣れたと言っているようだし……
--新しいタイヤだとペースを発揮するのに時間がかかると言っているようですね。
タイヤは予め加熱しているとは言っても、適正温度になるまではある程度負荷を掛けて走る必要があって、その間に表面の皮むきも終わるという流れなんだけれど、そこは他のライダーも条件的には同じだし、マルケス選手だけそこに時間が掛かるとしたらそこは個人の感性の問題としか言いようが無いね。
あまりに転倒しすぎて危険を感知するセンサーが過敏になっているのかもしれないよ。基本的にミシュランは熱入れに時間が掛かるタイプだとは聞いてないしね。その昔のQタイヤ(予選専用タイヤ)なんか、もたもたしていると賞味期限が終わっちゃうから、何も考えずに最初からフルスロットルだったらしいよ(笑)
--ところでムジェロでプライベートテストを実施したヤマハとホンダですが、期待されたほどの成果は上げられなかったようですね。
ヤマハは今回新しいエアロパッケージを投入して、ライダーの評価も良かったらしいね。その効果かは分からないけれど、アレックス・リンス選手がダイレクトQ2進出して予選8位、ファビオ・クアルタラロ選手は17位だけどタイム的には遜色なかったんで、どちらもスタートが良ければけっこう行けると期待してたんだ。
リンス選手はスタートは良かったけれどマルティン選手に追突しそうになってコースアウトした時点で終わったって感じだね。
--その後、一時的に15位まで挽回しましたけど後はズルズル後退して最終的に最下位でした。何があったんでしょうね。
途中からリヤタイヤのスピンがひどくてペースを維持できなくなったと言っているから、おそらくはタイヤ内圧が上がり過ぎたとかそういうトラブルじゃないかな。
本人はそういう事態を警戒して、タイヤを温存するために出来るだけスムーズな走りを心がけたと言っているけど、かなり受け入れがたい結果になってしまったね。
--いったんそういう状況になってしまうと回復はしないものなんですか。
それはタイヤの化学的組成にもよるだろうけど、スピンが始まると表面温度の急激な上昇に伴ってタイヤの物理的な特性が変化してしまうから、そこから温度が下がったとしても本来のグリップは発揮できないだろうね。
--そもそもスピンを抑えるトラクションコントロールが機能していなかったとか考えられませんか?
う~ん、そういう可能性も否定できないよね。この間話題になった「セカンドマシン問題」みたいな事も現実的に起こりうるわけだし。もちろんバニャイア選手の転倒も含めて、タイヤ側に問題が有ったのかもしれないし、事故原因調査のようにあらゆる手段を駆使すれば原因を特定できるかもしれない。
でもそういう事は非現実的なので、人為的なミスは極力排除するとしてもそれを超えて起きてしまった事は仕方ないと割り切った上で、制御できない不確実性を内包しつつも挑戦を続けるのがモータースポーツというものなんじゃないのかな、上からだけど(笑)
--たしかに、そういうものが「レースは筋書きの無いドラマ」と言われるように、ドラマを彩る要素でもありますしね……
そういう事!!
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転けてるように見える(つд⊂)ゴシゴシ