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生産終了後も活躍したVIPカー ローバー3.5リッター P5B 後継不在の上級サルーン 前編

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生産終了後も活躍したVIPカー ローバー3.5リッター P5B 後継不在の上級サルーン 前編

公的資金で支えられていたローバー

ハロルド・ウィルソン氏にエドワード・ヒース氏、ジェームズ・キャラハン氏、マーガレット・サッチャー氏。1968年から1981年まで歴代の英国首相を運んだサルーンが、ローバー3.5リッター、P5Bだ。VIPが乗るクルマとして一目置かれてきた。

【画像】英国首相を運んだローバーP5B サルーンとクーペ 後継のSD1シリーズ 同年代のエランも 全94枚

1950年代末に登場したローバー3リッター、P5を起源とするP5Bは、1973年まで生産された。だが、政府の自動車管理部門は現役として8年後も表舞台に立たせていた。上質なデイムラーXJ シリーズIIIへ、サッチャー政権時に交代するまで。

当時は国有状態にあり、公的資金で支えられるブリティッシュ・レイランド傘下にあったローバー。政府トップが乗るサルーンとして、P5Bを選択しなければならない理由があった。

1980年代、ジョン・イーガン氏がジャガーとデイムラーの業績を回復。その後に政府から得た評価とは対照的といえる。

ローバーP5Bは、英国の要人が乗るクルマとして生まれたようなところもある。見た目は気品高く、威厳を過剰に漂わせることはない。車内は不足なく快適だが、贅沢すぎることはなかった。

リビングでは、ブラウン管の白黒テレビが現役だった時代。画面に映し出される報道映像のなかで、しずしずと託された仕事を確実にこなした。ストライキやテロが頻発する世界へ怯えながらも、歴代の首相を目的地まで運んだ。

妥当な選択肢が他に存在しなかった

それより以前、1950年代から1960年代に英国政府の公用車に選ばれていたのが、歴代のハンバーだった。1967年にハンバー・スーパー・スナイプの生産が終了すると、V8エンジンを搭載したローバーのサルーンがその後を受け継いだ。

パワーステアリングとオートマティックのトランスミッションが標準装備されつつ、価格は2000ポンドと良心的。市民の批判を集めることのない、賢明な選択といえた。

ロールス・ロイスは高価すぎたし、ジャガーは華やかすぎた。ヴァンデンプラは公用車を提供をしていたものの、登場の古い4リッター・プリンセスは生産終了が迫っていた。当時の英国車では、妥当な選択肢が他になかったともいえる。

デイムラーも存在したが、その頃のモデルはDS420やジャガーXJ6がベースのソブリンというラインナップで、スポーティ過ぎる性格付けだった。ルーフラインは低く、リアシートの空間も充分ではなかった。

そんなわけで、英国の第67代と第69代の首相を務めたハロルド・ウィルソン氏を運ぶことになったのが、ローバーP5B。1968年1月に公用車として登録され、後席には特注のパイプ用灰皿が据えられていたという。

ローバーは首相以外の上級閣僚にも提供された。その水準へ届かない人物には、BMC ADO17シリーズやオースチン3リッターなどが充てがわれた。ボディはディーラーでは選べないエボニー・ブラックで塗られ、白い装飾ラインが特徴だった。

公用車仕様は、右ハンドルの輸出仕様で組み立てられたという。理由は定かではない。

サッチャー首相を宮殿まで運んだP5B

公用車として作られたP5Bは、ロンドンのフーパー・モーター・サービス社というコーチビルダーへ輸送。後席のシートベルトやヘッドレスト、専用のメーター類、ハザードランプや警告灯など、必要な装備が取り付けられた。

荷室側には追加のバッテリーが載せられ、無線電話を使う前提でオルタネーターも強化。点火コイルも2基へ増設された。

一部の車両にはサイレンやパトライト、追加の燃料ポンプも搭載されたそうだ。首相専用車のほか、北アイルランド地域で運用される車両など、防弾化された例もあったという。

通して約500台のP5Bが特装を受けているが、政府の公用車になったのは13年間で50台程度。残りは大使館で利用されたり、英国軍の高官などが利用している。

今回ご登場願ったエボニー・ブラックのP5Bは、1973年3月24日にラインオフしている。さらに35台を作ったところでローバーはP5Bの生産を終了しており、ほぼ最後に作られたといっていい。

工場を出ると予定通りフーパー・モーター・サービス社へ運ばれたが、GYE 392Nのナンバーで登録されたのは1974年12月になってから。1979年5月に第70代首相のジェームズ・キャラハン氏が退任した時も、3台ある政府車両の1台として活躍していた。

その後、プライベートでもP5Bに乗っていたマーガレット・サッチャー氏が第71代首相に就任。GYE 392Nのローバーは、バッキンガム宮殿まで新首相を運んだ。長年彼女のドライバーを務めた、ジョージ・ニューウェル氏の運転で。

ネット検索で過去の重要任務が判明

テレビ画面へ映し出されたP5Bのブラックのボディは艶深く、風格を漂わせていた。恰幅のいい警官が交通を規制し、ローバーが威厳漂うゲートを通過していった。

リアシートでは、鉄の女性と呼ばれることになるサッチャーが笑顔で市民に手を振った。その隣には、夫のデニスも一緒だった。

宮殿で王室から就任の祝福を受けると、正式な首相へ就任したサッチャーは防弾仕様の別のローバーP5Bへ乗り換えた。ナンバーがPRK 421Kの首相専用車だ。強化されたボディは重く、明らかに車高は低くなっていた。

もう1台、WLX 846MのP5Bは、キャラハンが辞任する際にバッキンガム宮殿へ走っている。3台それぞれが、1つの節目で別の役割を担った。

GYE 392NのP5Bを現在所有しているのは、デイビッド・ウッズ氏。オースチン・セブンを探していた頃に、公用車だったクルマが販売されているのを偶然見つけたそうだ。役目を終えたローバーは1974年以降、順次市民へ放出されていた。

「他にもローバーを所有していました。でも、サドルタンというブラウンの内装を持つ公用車が欲しいと、以前から考えていたんです」。とウッズが説明する。

販売していたのは、クルマの過去を知らない中古車店だった。しかし、ウッズがインターネットを検索した途端、重要な任務を担ったローバーだということが判明した。1979年の就任式典の映像にも、簡単にたどり着いたようだ。

この続きは後編にて。

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