マクラーレン・スポーツシリーズの頂点に位置する600LT。伝説のロングテールの名を与えられた究極のロードモデルに、スパイダーボディが登場した。オープンの爽快さと類稀なる運動性能の融合は、果たしてどのような世界を我々に見せてくれるのか。REPORT◉永田元輔(NAGATA Gensuke) PHOTO◉McLaren Automotive※本記事は『GENROQ』2019年4月号の記事を再編集・再構成したものです。
クーペに対する重量増はわずか50kg
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今、スーパースポーツカーのブランドで最も勢いがあるのは間違いなくマクラーレンだろう。2009年に設立され、本格的に市場に参入したのは2011年という新興勢力ながら、2018年の販売台数は4806台。これは前年に対して実に44%も向上した数字だという。ちなみに600LTを購入した人のうち43%が新規の顧客で、また57%が他スーパースポーツカーブランドからの乗り換えだそうだ。
さらに昨年は「トラック25」と呼ぶ中長期計画を発表。その中で今後2025年までに18台のニューモデルを登場させる、とぶち上げた。マクラーレンのようなブランドが今後6年間で18台、つまり年平均3台の新型車を発表するなんて、ちょっと無謀なのでは……と思うだろうが、このニューモデルというのはまるっきりの新型車だけではなく、派生モデルも含むという。つまり、今回試乗した600LTスパイダーもこの18台に入る。そして「トラック25」の発表後、マクラーレンはスピードテール、720Sスパイダー、そして600LTスパイダーと、すでに18台中3台を登場させた。計画は順調だ。
昨年の秋に登場した600LTは、スポーツシリーズの頂点に位置するモデルである。LTという名前はあのマクラーレンF1 GTRをベースにして、GT選手権のためにボディ前後を大幅に伸ばしたF1 GTRLT(ロングテール)に由来する、というのは、本誌の読者ならすでに何度も目にしたエピソードだろう。スポーツシリーズに属するとはいえその実力はスーパーシリーズに匹敵するほどで、LTの名に恥じない、サーキットをターゲットにした造り込みがなされている。3.8ℓのV8ツインターボは600㎰/7500rpm、620Nm/5500~6500rpmを発揮し、0→100km/h加速は2.9秒、最高速度324km/hという素晴らしい性能を叩き出す。
その600LTをオープン化するに当たって、取られた手法は570Sスパイダーと同様だ。そもそも基本構造体であるカーボン製シャシーのモノセルIIは屋根を切り取ってもボディ補強の必要は一切ない、という説明は570Sスパイダー登場の時にも聞いたが、今回もまったく同じ。だから600LTスパイダーはクーペに比べてわずか50kgの重量増に収まっている。これは純粋に開閉式のルーフ構造に由来するもので、結果600LTスパイダーの重量は1297kg。これは570Sスパイダーよりも100kgも軽い数字だ。
ルーフの構造も570Sスパイダーと同じで、3分割されて乗員後方、エンジンの上部に格納される。開閉に要する時間は15秒で、40km/h以下であれば走行中でも作動させることが可能だ。オープン化によってボディ後半部分のデザインはクーペと異なるが、特徴的なトップエグジット・エキゾーストが引き続き採用されているのは嬉しい限り。またクローズド時にはハードトップを収納するスペースが52ℓのラゲッジスペースとして使用できるという、クーペにはないメリットも持つ。
巌のようなボディ剛性
試乗はアメリカのアリゾナ・モータースポーツパークで行われた。屋根を開けて走り出すと、まずその強烈な加速に驚く。比較的距離が短くコーナーの多いサーキットなので頻繁にアクセルのON/OFFがあるのだが、どこから踏んでも強力なトルクがついてくるので実に走りやすい。コーナーではステアリングの動きに対するフロントの動きが実にリニアで素直、しなやかながらボディ全体が巌のような感覚が味わえる。ステアリングまわりの剛性も非常に高いので、サーキットでも確実な操作感を味わえる。そしてスタビリティは驚くほど高く、かなり突っ込んでみても何事もなかったかのように冷静にコーナーをクリアしていくのだ。
そしてボディからは歪みやきしみ、スカットルシェイクといった、オープンに伴うネガは一切感じられない。途中からはこのクルマがオープンだということを忘れてしまっていたほど。もともとマクラーレンのステアリング特性やボディ剛性は本当に素晴らしいのだが、それがスパイダーとなってもまったく変わらないのだから、実に見事だ。
合間を見てストリートにも600LTスパイダーを連れ出してみたが、今度は想像よりも快適な乗り心地に驚いた。ボディ剛性がしっかりとしていれば、サスペンションが比較的硬くても意外と不快さは感じないものなのだろう。70km/h+αまでなら風の巻き込みはほとんど感じず、トップを閉めればクーペと同様の快適さが味わえる。
600LTというハードな性格のクルマにオープンは不釣合いではないかと最初は思っていたが、これほど真剣に走れるオープンボディなら、サーキット走行を楽しむために購入したい、という人も真剣にスパイダーを検討してみるべきだ。よくよく考えたら、オープンこそマクラーレン本来の姿だと言えるのではないか。なぜならフォーミュラカーはすべてオープンなのだから。
SPECIFICATIONS マクラーレン600LTスパイダー
■ボディサイズ:全長4604×全幅1930×全高1196mm ホイールベース:2670mm
■車両重量:1406kg
■エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ 総排気量:3799cc 最高出力:441kW(600㎰)/7500rpm 最大トルク:620Nm(63.2kgm)/5500~6500rpm
■トランスミッション:7速DCT
■駆動方式:RWD
■サスペンション形式:Ⓕ&Ⓡダブルウイッシュボーン
■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
■タイヤサイズ(リム幅):Ⓕ225/35R19(8J)Ⓡ285/35R20(11J)
■パフォーマンス 最高速度:324km/h 0→100km/h加速:2.9秒
■車両本体価格:3226万8000円
チーフエンジニアインタビュー「開発はクーペと同時に行いました」
「600LTのようなクルマにオープンボディは必要ない、という人もいるかもしれませんが、600LTはストリートマシンとしての性格も持っています。だからこそ、オープンボディが必要なのだと言えるでしょう。開発はクーペと同時に進めていたので、最初からオープン化を考慮した設計を行うことができました。最も注意したのはエアロダイナミクスと重量ですね。重量は最小限の50kgプラスに収めることができていて、他ブランドのクルマより80kgは軽く仕上がりました。厳密に言えばクローズド時にはクーペより重心が少し上がっていますが、まったく問題ないレベルです。軽量化のためにはソフトトップという手もありますが、安全性やノイズなどを考えると、現状がベストだと思っています。エアロパーツの形状はクーペと同じで、ダウンフォースもクーペと同じ100kgを確保しています。これ以上のダウンフォースを得ようとは考えませんでした。なぜなら100kgあれば十分ですから」
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