自動運転の潮流に逆行するテスラの動きが物議を醸す
テスラが同社の自動運転テクノロジーを「テスラビジョン」と呼ぶシステムに進化させることを発表、まずはアメリカで販売するモデルから採用が始まります。従来のシステムではカメラとミリ波レーダーなどを組み合わせていましたが、テスラビジョンはネーミングからも想像できるように、レーダーの搭載をやめてカメラだけで制御するのが特徴で、自動車業界でもちょっとした物議を醸し出しています。
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というのも、自動運転の世界ではセンサーの数を増やすことが正義とされ、カメラ、ミリ波レーザー、超音波ソナーに加えて、最近は赤外線で物体までの距離と形状を正確に把握できるライダー(LiDAR)を複数搭載し、それぞれのデータを組み合わせて自動運転を実現しようとしている最中。テスラの発表はこの潮流に逆行するように見えるのです。
たとえば今年、世界で初めて市販車で自動運転レベル3を実現した「ホンダ レジェンド」に搭載される「ホンダセンシングエリート」はカメラ(2個)、ミリ波レーダー(5個)、LiDAR(5個)を備えます。今後登場するクルマでは、さらにセンサーの数を増やして情報量を確保する動きが加速するでしょう。
今のテスラ車はレベル2なので、コストダウンと理解することも可能
一方、同じホンダでも、新しい「フィット」や新型「ヴェゼル」に搭載されるレベル2の運転支援技術のホンダセンシングについては、カメラとミリ波レーダーの併用型から、カメラだけで制御するタイプに進化しています。自動運転も含めた運転支援技術の普及には、十分な安全性の実現と同時に、コストダウンも必要で、性能を確保しつつセンサーを減らしていくというのは量産メーカーとしては当然の判断でしょう。
その意味では、現時点ではレベル2の運転支援システムを搭載するにとどまるテスラ各モデルは、センサーの数を減らすことでコストダウンを図る段階なのかもしれません。将来的なビジョンは置いておくとして、現時点でのハードウェアとしてはセンサーの種類を絞ることはビジネス的に有効でしょう。そこをコストダウンと見せず、新たなテクノロジーの採用と喧伝するのも同社のブランディングとしては理解できます。
イーロンの「カメラだけでレベル5を達成」はそれでも眉唾
たとえば、実験レベルでは1種類のセンサーだけで一般道における自動運転レベル3は実現可能です。メガサプライヤーであるヴァレオ社はライダーを複数積んだだけの実験車両を日本の公道で走らせたりしています。ただし、同社のエンジニアによれば、これはあくまで実験であって、実際に量産する場合にはカメラも併用するといいます。
その発言の真意は「冗長性(じょうちょうせい:システムにトラブルが発生しても二重三重のバックアップで機能を維持できること)」の確保にあります。高度な判断や制御が求められる自動運転ではトラブルの発生が事故に直結するため、複数のセンサーをもつことが必須。前出のホンダセンシングエリートも故障などのトラブルを考慮して多数のセンサーが積まれています。
ただ、テスラのイーロン・マスクCEOはカメラだけを用いるテスラビジョンが、最終的にはソフトウエアのアップデートだけで自動運転レベル5まで達成すると発言しているようで、これはさすがに眉唾でしょう。
量産車では誰も実現したことがない自動運転レベル5においては、どんな問題が出てくるかすら未知数といえます。そもそも自動運転レベル3でさえまだ量産化していないテスラの発表を鵜吞みにしてしまうのは、あまりにも無邪気といえるでしょう。
文:山本晋也(自動車コミュニケータ・コラムニスト)
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みんなのコメント
複数のカメラを使えば実現できる事を否定はできない